#290 そんなに声を荒げてどうしたんですか?
「ぐへあっ!?」
その日の起床はそんな奇声を伴いながらのものだった。
経緯を考える。俺は昨日、レフィが落ち着くのを待って、そのまま寮の自室に帰ったんだった。そのまま熟睡してしまったらしい。
そして、今。目の前には自分の上に乗っかっている少女が居た。正座を崩したような座り方だ。馬乗りではなかったことに不思議な安心感を得られた。
彼女の桃色のツインテールが振れて、蒼い瞳がこちらの様子を伺っている。そうだ、この娘の部屋は真横で、合鍵を持っているんだった。
"Xatvasti, edixa mi letix elx selene tydiestal. Co qune la lex molal?"
"Harmoe? Lirs, shrlo co edzun mi ler plax ja, viojeffekhesti."
"Lerssergalastan io dytysn lersene'd diepoj veles fasripiet."
"Fhur......"
レフィは全く話を聞いてくれる様子がなかった。目をキラキラさせながら話す様子は可愛いが、力説する度に彼女の体重が腹に食い込んで、「ぐえっ……」となる。そろそろ降りて欲しい。マジで。
"Mi firlex. Fua tydiesto, fal panqa, edzun mi ler......"
"Fal cirla es!? Cene mi tydiest lersene'd diepoja'l xatva'tj!?"
「ぐぇっ…… Ja, edixa ぐぇつっ…… mi lkurf ぐげっ…… xale la lex!"
"Harmie co lkurf fal ytarta xale la lex, xatvasti?"
"EDZUN......!"
起き上がって、レフィの脇を持ち上げる。体格が小さいことからも彼女は軽々しく持ち上がった。"hjaw!"と驚きの声を上げる彼女をベッド脇へと無理やり下ろす。脇を押さえながら、彼女は忌々しげにこちらを見上げていた。
"Mal, mi furnkie xalurmerl gelx shrlo mili eski snutok plax?"
"Jopp......?"
"Selene co lkurf et?"
レフィは首を振って、素直に部屋の外へと出ていった。俺は掛けてあった制服をとって着た。今の自分にとって服といえば、これ以外にない。正確に言えば、同じ制服が5つもワードローブの中に入っていたというのが正しいだろう。過去の「オレ」はどうやら着るものに無頓着だったようだ。そこだけは共感が持てそうで安心した。安心して良いものかは分からないが。
レフィに案内してもらったのはポップな駄菓子屋のような場所だった。小袋に入ったお菓子やスイーツが並んでいる。それを見ながら歓談しているのは殆どが女子生徒だった。レフィが言っていた"diepoj"というのは、恐らく「店」を表す名詞だったのだろう。"veles fasripiet"で「開店する」が表せるのなら文脈的に"dytysn"は「新しい」を表す単語と見ていいはずだ。
レフィは店の中を覗き込むように見てから、こちらに振り向いた。
"Xatvasti, harmie co lirf faller lerseness?"
"Mer...... Mi knloan niv loler lersene pa mi lirf baneklianasho."
"Mi firlex! Mal, mi dosytirlst ja!"
答える間もなく、彼女はバタバタと店内に行ってしまった。待っている間、ペールトーンなインテリアの店を見つめるだけの時間が続いた。女子生徒たちの怪訝なものを見るような視線が痛いのを我慢しながら待つこと数分後、レフィは両手に一杯の袋を携えて帰ってきた。
"Ers loler ja......"
"Edixa mi dosyt sxe lersene ja, xatvasti!"
レフィは自慢するように袋をこちらに差し出してきた。"dosyt"は彼女が行く前に言っていた"dosytirlst"に良く似ている。「買う」という意味なのだろうが"-(i)rlst"には何か意味があるのだろうか?
袋の中身を見ると、様々な菓子が入っていた。バネクリャナショとパッケージに書かれたものだけでなく、ウォルツァスカやカスクなどどこかで聞いたことがあるようなものも入っていた。
"Lecu miss bales, xatvasti!"
レフィは袋を俺に渡しながら、店の近くのテーブル席を指し示した。どうやら、イートインスペース的なところがあるようだ。
しかし、その前に一つ訊いておきたい疑問があった。
"Lirs, cene mi nun panqa?"
"Ja, Ers harmie?"
"Harmoe miss lersse?"
教室の棟の方を指差しながら言う。本当は「いつから授業が始まるのか?」と訊きたかった。しかし、「授業」という単語が分からず、"lersseil"というくらいならこういった方が通じるだろうと思ってこういってみた。
レフィは俺が指差した先を見つめて、少し悩んでいたが少ししてから口を開いた。
"Selene co nun mels ininolilo?"
"La lex es lersseo fal snutokastan?"
"Mer...... Ers melen. La lex es niv lersseo. Ers lersseil."
"Hm......"
説明からしてみれば、"ininolilo"という単語は「授業」というより、「授業時間」を指しているように思える。となってくると、"melen"は「近い」という意味だろうか?
レフィは納得のため息を聴きながら、少し不審そうな表情をした。
"No io ininolilo mol niv cun lernniejodalsto es kalzanen. Lirs, lecu miss bales!"
そういって、レフィは俺の腕をとってイートインスペースの方へと引っ張っていった。




