#286 それくらい分かってくださいよ!
"Dexafelk."
そう呟くとレフィの人差し指の上に小さな炎が灯った。早朝の部屋、暗がりの中で揺らめく小さな光はとても幻想的だ。しかし、レフィはその炎を吹き消してしまった。
俺はテーブルを挟んで、レフィと向かい合って座っている。いつの間にか、レフィ先生の"khelten ciantlyr"講座が始まっていた。
"Edixa la lex es werlfurp?"
"Mer, ja. Pa, jurleten iulo es niv la lex."
そういってレフィはもう一回人差し指に視線を集中させた。
"Ban missen tonir l'es birleen alefis io mi xlais. Dexafelk!"
瞬間、先程よりも大きめの炎が空中に現れる。驚いて体が反応するほどの大きさだった。熱気がこちらにまで伝わってくる。レフィは少し苦々しい顔をしながら、しばらくそれを眺めた。そして炎を掴むように手を動かす。すると炎はボンッという音と共に一瞬で消え去った。
"Dexafel es niv mi'd werlfurp mag es snietij fua mi......"
レフィは、はあっと息を吐いて肩の力を抜いた。どうやらウェールフープには個人の向き不向きがあるようだ。それから逸れると難易度が上がり、疲れも生じるらしい。それに詠唱の仕方によって、ウェールフープの効率は変化するように見えた。"dexafelk"は"dexafel"に似ていたし、それらしいウェールフープの効果が起きているのを見ると火関連の単語であることは間違いなさそうだ。
"Mal, edixa la lex es khelten ciantlyr?"
"Jopp...... la lex es ciant lap. Khelt kantet panqa fon tisodel werlfurp ja. la lex io cianta'd la lersse es khelten ciantlyr ja ti."
"Firlex,"
話を整理しよう。
レフィに見せられたのは、言葉を言うことによってウェールフープを発動することだった。ここから、"ciant" は取り敢えず、「詠唱、呪文」あたりの意味だと理解して良さそうだ。"khelt"というのはウェールフープという現象に対する考え方の一つらしい。あまり正確ではないかもしれないが「魔法」とでも訳しておくのが良いだろうか。先の構文の理解が正しいなら"fon"という単語は「~の」という意味を持つ前置詞として捉えられる。
"ciantlyr"は"ciant"と"-lyr"に分けられるようで、この接尾辞はそういった学問体系を表すものらしい。英語などの"-logy"に当たる接尾辞なんだろう。
つまり、"khelten ciantlyr"は「魔法詠唱学」と理解できる。ファンタジー過ぎて目眩がしてきた。
"Mili, metista fqa es werlfurpu'd lerssergal?"
"Xatvasti~"
レフィは肘を立てて、両手を頬に添えながらこちらをじとーっとした目で見てくる。
"Harmue lerssergal z'es werlfurpu'd rerxo'it i mol filx werlfurpu'd lerssergal?"
"Ar, ja......"
良く考えなくてもそうだろう。乱闘を許す学園がそこら中にあるんじゃ世も末だ。まあ、他の異世界では違うのかもしれないが、少なくともここの住人であるレフィが言っている以上、ここ以外にはそういったところは無いのだろう。レフィが呆れるのも当然だった。
"Deliu miss niejodon anfil fal fqa. Fua la lex, miss lersse khelten ciantlyr fal panqa."
"Anfil......?"
"A...... Mi niv kantet ny la lex. Deliu miss anfil miss fal fqa. Selene mi lkurf ny la lex. Deliu miss anfil fqa'c. Edixa mi nix sans......"
肩を落としてがっかりするレフィ。間違えたのは"anfil"という動詞(?)の格支配のように見えた。"fal fqa"ではなく、"fqa'c"を使うのがふさわしかったらしい。それだけで大きく意味が変わるようだ。自分も不知不識のうちに間違えているのではないかと思うと声が出なくなってしまうので考えてこなかったことだが、"fenxe baneart"と"fenxe la baneart"の前例を見ると語法というのはつくづく恐ろしいものだと思う。
"Lefhisti, mi qune niv ≪anfil≫'d kante. Fi co nix lkurfel, mi firlex niv co'd lkurferl. Mag, Ers vynut ja."
"La lex es vynut. Mi tvarcar iulo zu movies niv xatva's nixo lkurfel las. Pa......"
"Pa?"
先を促そうとした途端に鐘の音が聞こえてきた。透き通った響きが学園に澄み渡るように鳴り響いていた。
レフィはその場で立ち上がり、掛け時計に顔を向けた。
"Ers nostusu'd liestu tirne?"
"...... Ja."
掛け時計の時針は真上を向いていた。時計を見つめ続ける彼女はそれ以上、質問に答える気はないようだった。




