#282 私、知ってるんですよね
"Fqa es lerssergalasta'd irxergal, xatvasti."
レフィと共に乱雑に立ち並ぶ建物を見上げた。生活感のある集合住宅のような建物だった。行き交う生徒たちは俺を見ると関わり合いになりたくないとばかりにそそくさと去っていく。過去の「オレ」の所業が手にとって分かるようだ。
生徒たちの寮は学園の中央部からは少し離れたところにあった。
"Mi'd snutok mol harmue?"
"Ar, edixu nestile'd xatva kanti niv mels la lex."
"Mal, co qune niv?"
"Niv, mi qune."
レフィは複数ある棟のうち、一つを指し示す。オレンジ色に塗装された棟だ。
"Pa, nestile'd mi kanti niv snutok molal co'l ja?"
"Mer, lirs, ja? Pa, als sietiver'd ferlk veles kranteo fal enal irxergala'ct mag ulesno es niv suiten."
"Hmm......"
"ulesn"はこれまで何回も聞いてきた単語だが、ここでは「屈む」というより、「隠す、隠れる」というような意味に感じられる。
なんだかセキュリティに甘い気がしてならない。ストーカーみたいな生徒が現れたら、一体どうするのだろうか。シャリヤだってあれだけ生徒に人気だと頭のおかしいファンの一人や二人付くものだろう。そんな生徒に部屋を特定されれば、恐ろしいことこの上ない。
二人でオレンジ色の寮に歩を進める。その瞬間だった。
"Jopp, ers infavenorti. Lerssergalastanen ficakorniekh mol fal fqa. "
"Harmie......!"
レフィの視線の方向には確かにシャリヤが居た。銀髪を風になびかせながら歩いている。彼女は少し疲れているように感じられた。じっと見とれていると、ブルーサファイアのような蒼い目はこちらの存在を認めた。と驚いたように見開いた。
やっと会えた。ゆっくりと話し合える。そう思っていた。
しかし、彼女は俺達の視線から逃れるように逃げ出した。
「シャリヤ!」
"Xatvasti!?"
何故、逃げていくのか理解できなかった。オレンジ色の建物の裏へと逃げていくシャリヤを追いかける。レフィは後ろから付いてきてるのか、気にしている余裕はない。今はとにかくシャリヤと話がしたかったのだ。
シャリヤが逃げたのは寮棟の間の裏路地だった。一本道を走るんだったら、彼女には負けない。追いついて、彼女の肩を掴んだ。背を向けていた彼女とついに対面する。
"Xalijasti! Mi es cen!! Pusnist tydiesto!"
シャリヤの体は瘧に掛かったように震える。顔は恐怖にまみれていた。
"......Harmae co es?"
"Mi es jazgasaki.cen! Cene niv co gennitek!"
"Pusnist celeso ydicelo...... Lern mi ler!"
掴んでいた手からシャリヤの肩が外れる。彼女は恐怖に満ちた顔で俺を睨みつけながら、後ずさっていた。
"Mi qune niv co'd ferlk las. Co'd elme at es coy xale la lex ja."
"Co qune niv...... そんなことあるわけ無いだろ!?」
再びシャリヤの肩を掴もうとするも、手は宙を切った。
"Flivi'a mol co xale fafsirler's. Mi toleses co'd ficakornie. Cene niv co jat la lex felx wioll miss rerx."
"Harmie!?"
俺が反問した瞬間、背後から駆けてくる音が聞こえた。振り返るとそこで桃色のツインテールが振れて、止まった。シャリヤは今度は彼女に視線を向けた。
"Co es si'd virlarteust?"
"Ja......?"
レフィはシャリヤに困惑した視線を向けていた。
"Deliu edixa co josnusnon xel si."
"Si es...... nitekadils mag......"
"Firlex, pa mi melses niv la lex."
"Hmm...... Cespal nace fua si'd viedosten la firlexili'a, pelx deliu niv moliupi'a xale la lex."
レフィの反感を持った口調が聞こえてくる。全ての意味が分からなくてもシャリヤはこちらを軽蔑していることが状況で理解できた。
シャリヤはキッと厳しい視線をこちらに向けて、また俺達に背を向けた。離れていく足音と共に信じたくない事実がまざまざと自分の前に現れてくる。
「そんな馬鹿な……ありえない」
頭を振って、否定する言葉を言っても目の前の現実は何一つ変わらない。心配して近づいてくるレフィに答えることも出来ない。
この世界に来たシャリヤは俺と一緒に居た記憶を忘れてしまっているのだ。




