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#279 無理してるってどういう意味だ?


 スタジアムで対峙しているのは先程まで言葉を交していた相手だ。大量の観客からの視線にくらくらしてくる。

 ウェールフープはまともには使えない。レフィは一度は勝った相手だと言っていたが、そんな記憶はまったくない。一体どうすればいいのか、何も分からずに世界は展開を続けていく。

 ワックスの方が指を鳴らしながら、こちらを睨みつけていた。


"Coss fas niv mal miss fas ja......!"

"Xatvasti, niss klie ti!"


 レフィが何かを警告したように思えた途端にワックスは地面に手を付ける。瞬間、こちらに向かって地面が隆起して、勢い良くいくつもの石柱が突き上がってきた

。すんでのところで避けると観客が歓声を上げる。


"Jazgasaki.cen xorlnemon aklot!"


 歓声にノイズ混じりの放送音声が乗っかかる。どうやら何処かで自分たちの戦いを実況している人間が居るらしい。"aklot"は恐らく「避ける、回避する」の意味なのだろうが、そんな事考えている余裕は無かった。

 ワックスは不快そうに舌打ちをした。


"Iska lut la solien......"


 冗談じゃない。

 あと一瞬タイミングがズレていれば自分の体が空を舞っていたのだ。それもフライングサーカスならぬフォーリングサーカスとしてだ。蒼の彼方からフォーリングクラッシュになってしまう、本当に冗談じゃない。

 隣のレフィの様子を確認する。彼女は特に構えている様子もなく、状況を静観している。こちらの指示を待っているようにも見えた。


"Lefhisti!"

"J, ja! Harmie is, xatvasti?"

"Cene co elm ja?"

"Ja, corln! Menial, mi en niv lerssergalastan!"

"Harmie leus co elm?"

"......Jedalusi es mi'd xedirxel werlfurp. La lex es mi'd zant."


 レフィは手を胸の前に出すとバチバチと弾けるような音と閃光が現れる。"jedalusi"は恐らく「電気」か「雷撃」のような意味になるのだろう。覚えていない以上、俺には攻撃手段がない。となると攻撃はレフィを使って行うことになるだろう。

 それならば……出来ることは一つだけだ。


"Lefhisti, Fi mi lkurf ≪ers no≫, jedalsies el si."

"Pa, Cene si aklot mi'd jedalsi fal no, xatvasti!"

"La lex es fal no lap."


 不安げなレフィを残して、俺は大げさに両手を上げてアピールする。


「こっちだ!!」


 こちらにワックスの注意を集中させる。挑発と思ったのか、彼はこちらに向けてまた石柱を突き立ててくる。ギリギリで避けて、走り始める。ワックスは移動し続ける俺に向かって石柱を何度も立てる。


"Cene niv co cikina elmo mi'ct!"


 逃げ続けていると思っているのか、ワックスはこちらに向かって吠える。だが、俺がスタジアムを一周していたと共にもう俺の作戦は終わっていた。


"Ja, cene niv mi tydiest eski elx elmo. Pa――"


 スタジアムの状況は一変していた。地面を区切るように立ち上がった石柱はワックスを閉じ込めるための一角を作り上げていた。自分の状況を悟ったワックスは驚き顔でこちらを見る。


"Cene mi aklot ny vynut elmal. "

"Harmie!?"

"Ers no, lefhisti!"


 複数の石柱に阻まれ、レフィの姿は見えない。しかし、ワックスの方から雷撃の轟音と閃光が走った。

 石柱の中に閉じ込められたワックスに逃げ道はない。轟音と共にワックスはその場に崩れ落ちた。同時に歓声が沸き起こる。

 だが、一つだけ忘れていたことがあった。


"Gennitek niv mi."


 背後から声が聞こえた瞬間、依って立つ地面が弾けた。内臓がかき混ぜられているかのような強い衝撃とともに体が吹き飛ぶ。かと思えば、スタジアムの壁に叩きつけられ、目の奥から発するような閃光で視野が満たされた。息苦しさと共に焦点が合わないままの視界に入ってくるのはポニーテールの少女の姿だった。

 レフィの姿は視野には無い。ポニーテールがこちらに近づいてくるも、体に力が入らなかった。次の攻撃が入れば、絶対に避けることは出来ないだろう。

 ポニーテールが俺に向かって手をかざした瞬間、俺達二人の横から石柱を飛び越えて、迫りくる人影に俺と彼女は釘付けになった。


"――Ers genniteko niv? La lex es celstelto ja!"


 仲間の敗北を拒絶する声、それは単語が分からずとも理解できた。石柱を乗り越えてきたのはピンク髪ツインテールの少女――レフィだった。彼女は両手をポニーテールに向ける。


"Kvasmes!!"


 レフィの手から出たスパークはポニーテールへと伝っていく。唖然として対応が遅れたポニーテールは慌てて、回避を試みようとするが間に合わない。触れた瞬間に彼女は近くの石柱に叩きつけられた。

 ……。

 勝利を伝えるようなアナウンサーの声と共に歓声が雨あられのように降りかかる。レフィはポニーテールが再起不能になったのを認めると俺の元に早足で近づいてしゃがみ込んだ。心配そうな顔がこちらを見つめている。


"Co es vynut ja, xatvasti?"

"Mer, metista."


 少なくとも驚異的な体の回復能力が自分の体にあることは知っている。恐らくこれくらいなら大丈夫だろう。そう思って言った言葉にレフィはため息を漏らす。


"lieste'tj lasj sopitame'it fon nefwerlfurp l'es xatva io mi's jel la elenorfene'c ja."

"Ar, nace."


 心配そうな口調で話されるとついつい謝ってしまう。レフィは一旦瞑目してから、咳払いをした。そして、彼女はニコッと爽やかに微笑む。


"Mer, mi vynuterlenerfe tisod niv celx molkka fal nart rerxo at! Pa, fe neferles co'c!"

"Mer...... Harmie ≪neferles≫'d kante es?"

"Xaaatvaaaastiiii!!!"


 レフィは俺の頬を人差し指で突っついて来た。自分の頬をぷくーっと膨らませながらだ。うーむ、可愛いといったら可愛いな……。

 この単語の意味を訊くのはどうやらタブーらしい? いや、でもレフィの態度はどちらかというと物分りの悪い友人をからかうようなものだった。ううむ……。


 何はともあれ、ウェールフープを意識した異能バトルの初戦はこうして白星で幕を閉じたのであった。


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