#278 名前だけで呼んでくれましたね!
"Ja......?"
二人の生徒は俺を認めると、互いに見合わせてからこちらに迫ってきた。一人は髪をワックスで立てた男子生徒で、もう一人は勝ち気っぽいポニーテールの女子生徒だ。
"Rerx makj misse'tj do, jazgasaki.cenesti!"
"Ja ti, miss nat jat niv nilirso!"
ワックスが吠えるのに同調してポニーテールも強い口調で何かを言っている。ワックスの方は良くわからないが、ポニーテールの発言はほぼほぼ理解できる。"jat"は「認める」という意味の動詞で、「私達はまだ負けを認めていない」と言っているんじゃないか。
そんなことを考えていると、ふいにレフィが"firlex,!"と声を上げた。
"Niss es Nestil io misse'st l'elm lartass. Mer, edixa niss es belarxte fua miss."
"Harmie!?"
ワックスが逆上する。どうやらレフィの言葉――"belarxte"は恐らく人を貶める言葉だ――に反応したのだろう。彼女は挑むような顔をしていて、彼に全く威圧されていない。ワックスの反応を楽しんでいるようにも見える。
俺はレフィの肩を持って彼らに背を向ける。彼らを刺激するのを止めるためでもあった。
"Pusnist lkurfo xale la lex, lefhi......sti."
名前で言い淀んだ俺の顔をレフィはしばらくきょとんとした表情で見つめていたが、ややあってそれに気づいたのか、にやりと笑う。
"Co sties mi ferlke'c lap ti~."
"Ur......"
"Lirs, Cene miss es panqa'd iulo'i lap. Lecu tysnen niss, xatvasti."
"Zu?"
"Wioll miss m'elm, molkka. Ers la lex lap."
"Firlex......?"
恐らく"tysnen"という単語は「戦って勝利すること≒打倒する、倒す」ということだろう。
それはそうと、もっと重要な問題がある。
"Harmie leus miss elm ja?"
リパライン語力が低い以上、テストとかだったら厳しいかもしれない。しかし、徒競走とか体力的なものを競うのであれば問題は別になってくる。
しかし、レフィは答えを選ぶのではなく、当然かのような顔で答えた。
"Werlfurp leus corln es rerxo'i ja."
"Werlfurpusti?"
"Ar, werlfurp es......"
"Mili, mi firlex la lex."
ウェールフープといえば八ヶ崎翔太が言っていた能力のことだ。アレス・シャルの光球、夕張悠里や浅上慧の超人的な身体能力は全てそのウェールフープに由来する。俺自身の驚異的な回復能力もウェールフープという能力の一つらしい。ということは、俺はレフィとタッグを組んで異能バトルまがいのことをしなければいけないということなのか?
"Lefhisti, Cene niv elm fal no cun mi gennitek als."
"Elaja, xatvasti! Niss es kna zelx edixa miss molkka fal nestil! Cene miss tysnen filx nitekerl ja!"
"Hmm......"
いきなりの出来事に困惑しているうちにまた背後から声が掛かってくる。
"Ej! Harmie coss es e'i? Lusus aziurgar!"
"Fhur, Mygi larta es ja. Coss qune niv ny la lex? ≪valkarsa'd vyn' faista niv karse filx ietost.≫"
"Lkurf niv! Wioll miss korlixtel lot achkarj ircalart lysola'c lanerme'd lysol'i fal co!!"
言葉を交して、お互いを睨み合うレフィとワックス。火花でも散りそうな光景に俺はついて行けなかった。
二人はお互いに手をかざし合う。俺以外全員覚悟が出来ているらしい。
"Ban missen tonir l'es――"
""――Birleen alefis io""
二人が何処かで聞いたことがあるような句を呼応するように唱えると、辺りの風景は一変した。それまで学園の中だったはずが広めのスタジアムのようなところに居たのだ。スタジアムを囲むのは何人もの生徒たちだ。気が眩むような人数がこの勝負を見ているらしい。
もう、展開が早すぎて理解が追いつかない。丸腰で猛獣の檻に投げ込まれた感覚だ。ウェールフープの使い方だってまだ八ヶ崎翔太に教えてもらっていないのだ。戦えるはずがない。
"Xatvasti, Lecu miss korlixtel lot molkka niss ja!"
"Fhur...... ja, metista......"
理解したことは唯一つだけだ。"korlixtel lot"が「絶対に、必ず」という意味だということ。だが、それはこれから始まる戦いの手助けには一切ならないものだった。




