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#268 UNAWEF


 相変わらず自分たちが居たのは病院と事務所を組み合わせたかのような施設だった。人影は翔太とクラディア以外には見られなかった。開放感のない施設の中にずっと居て息が詰まってしまう。そんなわけで散歩がてら適当な廊下を進んでいるとやっと外部に出られそうな出口を見つけた。

 手前に見えるのは舗装された地面であった。むき出しの土の中にアスファルト舗装の滑走路様の道が見える。施設の側には数台の車が止まっていた。滑走路の奥には鬱蒼としたジャングルが広がっている。


「数日でこれを仕上げたとは思えないよな」


 声は背後から聞こえていた。短髪で素朴な顔をしている。良く見れば年増になった自分のようにも見える声の主――八ヶ崎翔太は壁によっかかりながら、紫煙をくゆらせていた。


「二人で作ったわけでは無さそうですね」

「当然だろ」

「一体、誰と組んでいるんですか」


 翔太は止めてある車の方を指差した。車の側面には「UN」とプリントされている。


「国連……?」

「夕張のせいで地球は一度滅びかけたからな。Xelkenと諸々に世界を蹂躙されたら、どうにかしたくもなるだろう」

「……どうやら、俺が知っている歴史とは違う歴史を歩んできたみたいですね」


 翔太はため息をついてこちらを見据えた。


「国連軍は夕張を生け捕りにしたいらしい。それも従来の武器を使って、豚箱に投げ込みたいんだと」

「ウェールフープが使えないのにそんなことが可能なんですか?」

「無理だろ、だから数少ない俺達のようなケートニアーが茶番に付き合わされているわけだ」


 翔太の表情は何か遠くを見ているようだった。煙草を地面に捨て、踵で揉み消す。


「いよいよ世界観が完全に壊れてきたって感じです」

「幻想は幻想でしか無かったってことだ。夕張も倒す以外に方法はない。でなければ、こんなことはいつまでも続くだろうな」

「一つ質問してもいいですか?」


 話を区切るとともに冷たい風が頬を擦った。


「何だ」

「国連軍御用達の割には人が少ない気がするんですけど」

「……ああ」


 翔太はうつむきがちに首を振った。


「俺たちケートニアーは信用されてないってことだ。良く分からない魔法使いを使うくらいなら、お得意の軍事力で蹴散らそうとでも思っているんだろう」

「でも、地球もxelkenに蹂躙されたんじゃ? その時にウェールフープの存在を知っていたなら理解も早いだろうに」

「これが面倒なことに多国籍軍側が善戦してしまったんだ。xelken側のケートニアーがしっかりしていなかったからな。まあ、夕張らはそんな程度じゃないのは当然だから問題なんだ」


 ファンタジーな話が続きすぎて偏頭痛がしてくる。翔太がこの話をしている間、ずっと真面目な顔をしているのもある意味で滑稽さを増していた。


「簡単には信じられない話ですね」

「俺だって信じたくはないさ。だが、幾度寝て起きても現実らしいからな」

「……結局これからどうやって夕張を探し出すんですか?」


 翔太は腕を組んでこちらに視線を向けた。


「夕張が見つかったあのとき、国連軍と有志連合は数万人単位でこの世界の中を捜索していた。見つけたのは俺たちのほうが先だったが、逃しただの何だのとにかく文句をつけて俺たちをここに閉じ込めて捜索を続けている」

「手掛かりは何か無いんですか?」

「司令部はシャリヤとシャルを連れてる以上、ウェールフープを使ってもそれほど遠くには行っていないという目測らしいが、ウェールフープは世界間を飛べるような能力だから根拠はない」

「世界間って……地球とこの異世界以外にも世界があるってことですか」

「まあ、実在するかは保証できないが可能性としては排除できないな。別の世界に行ってくれれば、それはそれで楽なんだがな」


 そう言い切ると、翔太は滑走路の先を見つめた。同時にその視線の先に強い光が見えてきた。暗くなってきた空を良くみると、グレーに塗装された巨大な輸送機が見えた。


「捜索から戻ってきたんですかね」


 しかし、翔太は怪訝そうにその機体を見つめていた。


「こんなすぐに引き返すとは思えない。何かあったような連絡も来ていないのに何故……」


 静かに観察していると機体は轟音を振りまきながら着陸した。駐機場に移動するのも億劫なのか、滑走路上に静止する機体後部が開いて多くの軍服やら事務服の人間がなだれ込むように出てくる。青色のヘルメットに安心感を抱くも次の瞬間、目に写ったのはこちらに小銃を向ける兵士たちだった。


「どういう風の吹き回しだ……?」


 いきなり銃を向けられても状況が分からない以上、こちらにはどうしようもなかった。翔太も何が起こっているのか理解できないらしく、気づけば青色のヘルメットを被った兵士たちに囲まれていた。背後から声がしたと思えば、振り向くとそこにはクラディアとインリニアが居た。一方は無表情を崩さず、また一方は兵士たちを異様に見つめる。

 兵士たちの間を縫うように上物のスーツに身を包んだ人間が顔を出してきた。首から下げている身分証に書かれた肩書は「United Nations Another-World Emergency Force, Commander」、金髪をオールバックにした長身の男はこちらを見下しながら、目の前に出てくる。

 翔太は顔を歪ませながら、その男に向かっていった。


「ウィルコックス大佐、これはどういうことだ」

「どうもこうも」


 ウィルコックス大佐と呼ばれた男は流暢な日本語を喋りながら大げさに反応してみせた。


「君たちが夕張のスパイだということが分かったからな。身柄を拘束させてもらう」


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