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#264 因縁の再会


 大通りにしばらく立ち尽くしていると違和感を感じた。インリニアもシャリヤもそれに気づいていない様子だったが、自分だけはその状況が気味が悪くてしょうがなかった。


"Xalijasti, fqa liestu'd elmerss ny sesnud marl?"


 目の前に広がる市場は時代特有の乱雑さはあるにしても、何度か見てきた時と同じように品物が並べられていた。誰かがこの町を襲ったにしても、荒らされた形跡が全く無いというのはおかしい話だった。ただ、ここは異世界であって地球ではない。仮にそういったルールがあってもおかしくはなかった。

 シャリヤは質問を聞いて、目を細めた。


"La lex xale deln mol felx jol niv ci es la lex'i. Jexi'ert, Ny sesnudo es xorln......"

"Niss g'elm eski marl, marlerss tydiest eska marl pesta enil fqa'l. Ers niv la lex ja?


 ボロ布が掛けられた市場の一テントの中に手を伸ばしたインリニアはそう言いながら萎びた青菜を持ち上げて、地面に捨てた。

 多分、文脈的に"eski", "eska"は「~の外で、へ」、「~の中で、へ」の意味なのだろう。シャリヤの言葉の中の"deln"も文脈的には「伝統、しきたり」と解釈した方が良さそうだ。

 ともあれ、町人たちが町の外の戦闘を嗅ぎ取って逃げたとしても、それでも疑問は残る。そこら中に上がる煙や聞こえた悲鳴はどのように説明できるのか。


"Fal panqa, lecu miss tydiest eski fqa'd marl fua kiljoi."


 インリニアは大通りの先を指差した。元々さまよっていた森の中へとまた戻ることになるが、元の世界に戻るまではこんなところで野垂れ死ぬわけにはいかない。

 そう思って後ろを確認していると、がしゃんと何かがぶつかり合う音が聞こえた。三人の視線がその音が聞こえた路地に向いた。鎧を全身に装備した兵士らしき男たちがぞろぞろと出てきた。油断していたといっても過言ではなかった。完全に逃げられない状況に陥ったところで、その列の後ろの方から見覚えのある少女が馬をこちらに進めてきた。


"Le nai jais, lynceu fedaile soi?"


 銀髪は日を受けて煌めき、一本結びになって頭の後ろに落ちている。その軍隊を率いるが如く武装に身を包んだ少女は言わずもがな自分たちを以前救ったこの街の指導者、ユフィア・ド・スキュリオーティエであった。

 ユフィアは馬上からこちらを心配そうに見つめていた。インリニアは彼女の問に答えようとユフィアの方へと歩を進めた。


"Achais, chanths ailyriaut. Fa jais lyncai ne fedaile soi. Pas, noues failaise fammiese saile?"

"......Filaiches ne. Pas, naise jais failais no fa jais mait var ficats anfile failaise ne!"


 ユフィアは笑顔で拳を緩く握って、掲げていた。

 いわゆる、ガッツポーズだが、この世界にもガッツ某が居たということでは無さそうだ。そんなことはともかく、ヴェフィス語が全くわからない俺とシャリヤはとりあえずユフィアに会えたことに安心していた。


"Le selke est cefia?"

"Ja, est selke ailaut. Pas, Qoine est faide kaunniais......"


 ユフィアはインリニアの質問にまた回答していた。最後の方は言い淀んでいるが、とりあえずサフィアという人物と関係していることは肯定しているらしい。

 そんな様子でユフィアとインリニアの現状共有は終わった。しばらくすると、ユフィアは馬から降りて街の様子を眺めていた。彼女の隣には一人の老獪そうな老人が付き従っていた。ユフィアとは異なり、清潔そうな白い布を被っている。賢者というポジションなのかユフィアは街の状況を眺めながら、彼に何かを質問をし続けていた。

 彼を見続けていたのに気づいたのか、ユフィアは一本結びを揺らしながらこちらに振り向いた。


"Le nai jais, si est inyalia var tufait no assnoblaits Najalteit."


 当然ヴェフィス語で紹介されても、理解は叶わない。インリニアに通訳を頼もうとした瞬間、乾いた音が耳をつんざいた。

 古代ではおおよそ聞くことは無いだろう音、それは銃声だった。ユフィアがそれまで連れていた兵士たちは皆その場に倒れ込んだ。地面の土に血が滲み出して黒く染まる。いきなりの出来事に何が起こっているのか理解することが出来なかった。


「やあ、八ヶ崎翠君、久しぶりじゃないかな」


 これもまたおおよそこの異世界では聞くことが無いであろう言葉だった。自分だけではない。その場に生き残ったインリニア、シャリヤ、ユフィア、賢者らしき老人の視線はすべてその声の主の方へと向いていた。スラリとした体型の青年、人を食ったようなその態度は依然健在であった。


「夕張悠里……!」


 夕張は名前を呼ばれて、口角を上げた。現状を楽しんでいるようだった。


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