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#259 八ヶ崎翠は吟遊詩人ではない


"Zu, agcelle es mors faller fiertiumss ad fiertiumussu'd dieniep ad virlarteust. Edixa mi xelvin plasi mels fiertiumss ad la lexe'd dieniep ja?"


 続くシャリヤの説明にとりあえず黙って首を縦に振った。

 新しい単語が幾つか出てきている。"fiertium"と"virlarteust"だ。前者に関しては既に説明していると言っているあたり、もしかしたらこっちが韻脚を表す単語で、"agcelle"というのは違う意味を表すのかもしれない。

 シャリヤは言葉を続ける。


"Virlarteust es viroto. Fqa'd durxe leus plasi la lex mal......"


----

slommirca slorgerda roftesk la aldaS'TJ.

misse's ve aprart co el set viujo'i, coSTI.

klantez co jol karse kalt alle asnaST'I.

----


 シャリヤは語尾をわざと強く発音していた。形態素は違えど、すべての文末は[sti]という音で終わっている。これは間違いない。押韻について言っているのだろう。だが、この例だけを見るとリパライン語詩は脚韻のみしか許されないようにも見える。そういえば、押韻は夜に爪を切ろうとしたときのシャリヤの呪文にも見られた。


----

"femmES arfES doluMEN pliurMEN shrlO dO kaxtO doRNE tiRNE kUx dUr."

----


 これもよく見れば脚韻だ。しかし、フィンランドの神話的叙事詩であるカレワラの韻律などに良く用いられる頭韻を聞いた時、彼女たちはそれを"virlarteust"として捉えるのだろうか。もし、そうでなければ"virlarteust"は「押韻」ではなく「脚韻」のことを表していると理解したほうが良さそうだ。


"Xalijasti, Ny la lex es virlarteust? ≪NOstus ad NOleu es FARvil'd FARlea MAL MALca'd MArL MALfarno.≫"


 頭韻を確かめるために出した例文は非文では無いにしても意味不明なものだった。八ヶ崎翠は吟遊詩人ではない。仕組みを確かめるために一つ綺麗な詩句を詠めと言われれば困ってしまうというものだ。

 シャリヤは一瞬良く分からないというような顔をしていたが、そんな意図を読み取ったかのように頷いて見せた。


"Ja, la lex es virlarteustel zu veles stieso konlavel ferkarestut ja."

"Konlavel ferkarestut-esti...... Mal, fqa'd durxe'd virlarteustel es harmie?"

"La lexe'd virlarteustel es konlavel ferkatesnok."


 シャリヤは自分に問い直すようにゆっくりと答えていた。恐らくネイティブでもややこしいところなのだろう。整理すると"virlarteust"は「韻を踏むこと、押韻」を表す単語だ。それぞれの押韻法("virlarteustel"は"virlarteust"に方法を表す語尾"-el"が付いた単語だ)は今確認できるだけでも"konlavel"に単語を続けることで表される。恐らく、この単語も意味は不明だが"konla"という動詞に"-el"が付いた動詞派生名詞だろう。後ろの単語に格接尾辞が付いていないあたりこの説は濃厚だ。ともかく、"ferkarestut"が続けば「頭韻」に、"ferkatesnok"が付けば「脚韻」になる。

 "tesnok"といえば、"tesnoken aloajerlerm"という形でも聞いたことがある単語だ。ユエスレオネをさまよっていた時にフィアンシャで聞いた。リパライン語人名の個人名は(フェリーサなどの例外はあろうが)基本的に姓名の順番になっている。これと脚韻が単語の脚――つまり、右端で踏まれるものであることを照らし合わせて考えると"tesnok"は「右」を表す名詞であることが分かる。すると自ずと"restut"の意味もわかるだろう。そう、「左」だ。接頭辞っぽい"ferka-"は恐らく「端」などのニュアンスを表しているのだろう。


"...... Cenesti?"


 シャリヤの心配そうな顔がこちらを覗き込んでいた。さらりと落ちた美しい銀髪が手元に触れる。どうやら長い間考え込んでいたらしい。筋道立てて考えようとするといつもこうである。


"Ja, edixa mi firlex plasierl pelx selene mi nun panqa lap."

"Harmie?"


 シャリヤはきょとんとした顔でこちらを見つめる。

 疑問は至って単純明快なものだった。


"Harmie co qune loler iulo mels durxe? Harmue co lersse la lex?"


 答えようとしたシャリヤは何を言えばいいのか分からないという顔で戸惑っていた。

 なにか訊いてはいけないことを訊いてしまったのだろうか。"fenxe baneart"の悪夢が脳裏に蘇る。だが、言ったことは取り消せなかった。お互いが沈黙の中、居心地の悪い空気がしばらく流れ続けた。そんな状況を断ち切ったのはシャリヤだった。


"A, Edixa mi veles deroko. Deliu mi tydiest ja......"


 シャリヤはそろーっとこちらに視線を向けた。瞳は「察して、送り出してくれ」と言わんばかりに答えを待っていた。


"J, ja? Salarua, plasi mels durxe fal ete'd liestu plax ja!"

"...... Ja metista......"


 そういってシャリヤはそそくさと部屋から出ていってしまった。淀んだ空気は翠に疑問を投げかけていた。一体、シャリヤと詩の知識にどの様な関係があるのか。変にごまかされたせいで知りたい気持ちは募るばかりだった。


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