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#242 フィメノーウルとリノーツ


 目の前に現れたのは曲剣と弓を構えた男たちだった。整った服装に髪型、透き通った蒼色の瞳には山賊たちに襲われたときのようなものを感じなかった。彼らに足元に過たず撃つことが出来るだけの精度があるなら自分たちは既に殺されているはずだった。ならば、彼らに殺意がないことは明白になる。

 鬱蒼とした森の中で、お互いにしばらく膠着状態が続いたが暫くすると黒髪短髪の凛々しい少女――インリニアが毅然とした表情で彼らの方に歩き出した。


"Filaiches, nachais no jenfas naut var vailies. Jais kyness ne at faidaile qaut."


 相変わらずヴェフィス語は全くわからないがリパライン語と似たような発音の単語が幾らか聞こえてくるおかげで大体何を言っているのか予想できる。"filaiches"は以前も出てきたが"firlex"と同義語なのだろう。"nachais"は"nace"とよく似ている。

 おそらく謝っているのだろう彼女の言葉を聞いて、リーダー格のような曲剣を持った男はその得物を下げた。それを見て、彼の周りの弓を構えていた者たちも弓を下げる。リーダー格の男は目を瞑って一拍置いてからインリニアの言葉に答えるように話し始めた。


"Jais faehais ne fol var eschais var lyncais jenfai naut var vailies."

"Mait, fammiai?"

"Vincer fait est alinaudes fimainaulaut faut jais. Mait, aitoilache ne nai jais ats jenfas var kiche fase jais."


 インリニアが真摯に聞いている横で、俺は分からないなりに聞きながら分析を試みていた。"jenfas naut var vailies"と"jenfai naut var vailies"というよく似た句が二回出てくるが"jenfas"と"jenfai"の違いは一体何なのだろう。前者が"nachais no"という単語列に続くのを考えると、リパライン語の"nace fua"という構造に似ているとすれば"no"は前置詞だと仮定できる。もしかしたら、ヴェフィス語には前置詞の格支配のようなものが存在するんじゃないだろうか。ドイツ語に限らず、ヒンディー語、リトアニア語、タミル語、ロシア語、カンナダ語など接置詞に格支配が存在するのは通言語的だ。


 そんなことを考えているとリーダー格の男は背負っていた袋をおろしてその中から干し肉のようなものを取り出してこちらに渡してきた。その目はこちらを可哀想だと思っているのでもなく、ただしょうがないからという雰囲気で見つめていた。受け取ると彼らは踵を返して静かに森の別の方向へと去っていってしまった。

 インリニアはその様子をじっと見送ると大きく息を吐いた。緊張が解けたようで腕を上げていた。身体を伸ばしていると胸元が強調されて、つい目が行ってしまう。有意な胸がないというのに強調されるとはこれは如何に? 胸の存在論的証明とは?

 視界を閉じて頭を振る。バカバカし過ぎる考えに強制的に別れを告げた。


"Fhur......! Xetten!"

"Inlini'asti, Edixa si lkurf harmie? Plasi plax."


 インリニアはこちらに向き直って、彼らによる餞別を見分しながら近くの倒木に座った。


"Edixa rypisestan es siss tvasnkerl mag siss pusnist retoo la lex."

"Lipalaone tvasnk rypis?"


 シャリヤたち多くが信仰していたリパラオネ教では確かアレフィスだったはず。タームツィ教はPMCFの人々が信仰していた宗教だったし、もしかしたらヴェフィス人は他の宗教を信仰しているのかもしれない。


"Niv, Siss tvasnk fimenorl."

"Hmm......"

"Tvasnker fimenorl letix nisse'd linorz mal la lex letix set jurleten kante fal tvasnko. Siss pusnist cun sisse'd linorz es rypisestan fal fqa'd liestu."

"Firlex ja,"


 言い終わるとインリニアは地面に落ちていた石ころをつま先で蹴って転がした。

 おそらく、"fimenorl"というのがヴェフィス人の信仰を指しているのだろう。フィメノール教は恐らくアミニズム的な信仰で"linorz"というトーテム的なものを信仰しているのだろう。自分のトーテムを殺されようとすれば反感を抱くのも当然だろう。彼らは相手に自分の干し肉を無償で分け与えるまでして先祖との呪術的な繋がりを守ろうとしていたのだろう。


"Lirs, harmue ales.xalija tydiest edixa?"


 そういえば、というような口調でインリニアは言う。その視線は先程までシャリヤが居たとこにあった。確かにこちらからではシャリヤの姿が確認できないでいた。なんだか、心のなかにざわつきを感じる。次の瞬間にはもう焦りで足が勝手に動いていた。


"Jei, mili!"


 インリニアの抗議するような声が後ろから聞こえたが足を止めることは出来なかった。


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Co's fgirrg'i sulilo at alpileon veles la slaxers. Xace.
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