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#237 スキュリオーティエ教典


 彼らは自身の仲間を弔う暇もなかったようですぐに俺たちを馬に乗せ静寂な森の中を移動していた。何処に連れられるのかは分からないが、何の根拠もなく悪い扱いはされないだろうと思っていた。

 周りにいた一本結びの少女の取り巻きたちはお互いに顔を見合わせて感心した様子で俺たちのことをちらちら見ていた。もう誰一人も俺たちを疑う気配はない。先頭に立つ者の命を守っただけあって、言葉は通じなくても強い信頼を得られたようだ。一本結びの少女は好奇心に溢れた表情でこちらに馬を寄せて近づいてきた。


"Achais no baile naut. Aifais pele naile?"


 木漏れ日に輝く美しい銀色の髪、ブルーサファイアのような蒼い瞳、凛々しい顔立ちに見惚れてしまう。答えられずにいる内にインリニアが俺にすっこんでろとばかりに手を振ると同時に遮るように前に出てきた。


"Faileis Cain de Ehazgadzaki. Mait, faileis Chalieha de Alaise. Failais...... Inlinia de Skuelavainia."

"Filaiches pas, aifair einyoi failaise ne lef."

"Ah...... Jais kailes wellouir neit lef."


 一本結びの少女は何かを理解したように首を縦に振っていた。インリニアと通じ合えるということはおそらく彼らはヴェフィス語を話す人々ということになる。

 話のところどころに出てくる自分たちの名前で大体会話の内容は察した。ヴェフィス語はどうやらリパライン語と異なり、名姓の順で名前を並べ、その間には"de"という単語が入るようだ。


"Sans Yfia de Skyliautie var est chanths ailyriaut."


 インリニアは彼女の言葉を聞いて幾度となく瞬いた。横に並んで馬に乗せられているシャリヤも完全には理解していないような顔をしているが一本結びの少女を驚いた様子で見つめていた。

 一体何を言われたのだろう。少女自身もその取り巻きたちも何らおかしなことを言ったというような様子ではなかった。分かるのは"Yfia de Skyliautie"というのが名前だということだけだ。名字が同じインリニアが身内が殺しに手を染めているのに驚いたのならまだしも、シャリヤまで驚いている。それまでの謎の信頼に加えて、奇妙な驚きに俺は全くついていけなかった。


"Xalijasti, edixa harmie ci lkurf?"


 舗装なんて一箇所も見つからないような道を馬で進んでいるだけあって振動が直接伝わって、声も震えてしまう。だが、シャリヤにはしっかりと伝わったようで彼女は一本結びの少女――おそらく名前はユフィアだろう――を指差して言った。


"Ar, jopp...... Ci es skurlavenija.yfi'a zu es skyli'orti'e'd yfi'a."

"......? Zu, harmie?"


 単なる同語反復のように聞こえる言葉に聞き返してしまう。シャリヤは何かを思い出したような顔をして、悩んでいた。


"Zu...... jol no'd rout es skyli'orti'e'd xendusira'd liestu."

"Hm......"


 "xendusira"という言葉はシャリヤに会ってすぐの頃に彼女に言われていた。重くシックな装丁と中身の文章の飾りが脳裏に浮かぶ。確か教典や神話のような存在だと理解していた。"skyli'orti'e'd xendusira"はおそらくそういった文書の名前で、つまり彼女はその時代に自分たちがいると言っているらしい。


"Mal, ciss es parcdirxele'd set lartass ja?"

"Hmm......"


 語彙力が無いばかりに質問が非常に曖昧で幼稚なものになってしまう。シャリヤはまた悩みこむようにして頭を傾げた。


"Jexi'ert, ciss ekce melses parcdirxel pa skyli'orti'e'd xendusira es larfa z'ilyr mylon ad lartanascho."

"Firlex,"


 シャリヤの説明でも良く分からないところが多いが、おそらく俺たちは夕張の飴の効果で「スキュリオーティエ教典」とやらの時代に遡りしてしまったのだろう。シャリヤとインリニアはおそらくその教典の描写にぴったりなところに来てしまったことに驚いていたのだろう。

 そこまでの理解を整理して分かったことは結局の所、自分には無力な土地なのだろうということだった。ため息が自然に出てしまう。無力さとともに空を仰いだ。


 そんなことを考えている内に視界は開けた。目の前には平原が広がり、先の方には街のようなものが見えてきた。

 ユフィアがトレードマークの一本結びを陽光にきらめかせながらこちらに振り向く。


"Qait est ≪meineche justaut≫ litelgait."


 ヴェフィス語は全くわからないが、それがあの街を指して言っているのだけは理解することができた。古代の街が一体どうなっているのか、好奇心を抱きながら一行は馬に揺られていた。



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