#188 滅びた国
"Ej, xij! Edixa cene niv fgir'd jexerrt lus fal no. Fqa aiplerdes felx shrlo fanken!"
肩を叩いてきた方向を見ると男が半ば怒り気味の様子で腕を組んで仁王立ちしていた。銀髪蒼眼のシャリヤと同じような様相だが、怒りを顔に湛えて迫ってきている。レトラの民兵を思い出して、拍動が早まっていった。
紙幣自体が使えないということはこの紙幣は外国のものであるという可能性がある。ユエスレオネ以外に何の国があるのか良く分からないが、そこの紙幣ということなのかもしれない。しかし、それにしては"fal no"と付いているのが気になる。それに外国の紙幣だからといって道端に大量に捨てられているのも不思議だ。
そんなことを考え込んでいると男の怒り顔は怪訝そうに覗き込むような顔になっていた。
"Fqa'd feg es xale takang."
"Mal, si es PMCF'd larta?"
男と店主の間で会話が進んでいくが、翠には何の話をしているのかさっぱりだった。とりあえず紙幣をテーブルから取り、何の話をしているのか訊くことにした。
"Harmie PMCF es?"
"PMCF es icco z'is iccesi'aviraten fal kalzaneno. Co es takang mal es niv PMCF'd larta?"
男が答えるも、"iccesi'aviraten"とか"kalzaneno"が良く分からなかった。ともあれ、"PMCF"というのが"icco"であるというのは理解できた。昔からタカン人と言われ続けてきたが、そのタカン人の国がPMCFという場所なのだろう。国名が略称なのに違和感を感じたが、"United States of America"を"USA"と言うのだから特に変なことでもないのだろう。
"Jol si qune niv PMCF mag es niv PMCF'd larta."
"Firlex,"
店主の言葉に男は納得していた。ここで思い立って、ポケットの中から一枚レジュ紙幣を取り出す。翠は店主と男の目の前のテーブルに置いてそれを指差した。
"Fqa es PMCF'd jexerrt?"
この質問は重要だった。難しいことだろうが、もしPMCFへと国外逃亡することが出来ればこの紙幣は役に立つということになる。そんななか、男と店主はお互いを見合わせて不思議そうな表情を浮かべていた。
"Metista, si nun mels PMCF'd cinasteen arte'el?"
"La lex es niv sur?"
翠の質問に答えようとお互いに考えているようだが、その話の中でもまた良く分からない単語が出てくる。"cinasteen"だとか、"arte'el"は聞いたことがあるが意味はさっぱり分からなかった。
そんなところで誰かが小走りに駆けてくる音が聞こえてきた。視界の端にロングの銀髪が振れるのが見えた。
"Nace! Si ekce...... folte fai illemavain tyrnees niv fal yuesleone."
"Firlex,"
謝りながら事情を説明していたのはシャリヤだった。シャリヤのために屋台で何かを買ってこようと思ったのに逆に彼女に助けてもらうことになるとは情けなさ過ぎる……。
シャリヤが説明をし終わると男も店主も納得した様子で各々どこかへ行ってしまった。翠はシャリヤに引っ張られるがままに紙幣が落ちていた路地にまで戻ることになった。
"Cenesti, Cene niv fqa'd jexerrt lus fal no'd yuesleone."
"Pa, harmie cene niv lus? La lex es ete'd icco'd jexerrt?"
シャリヤは問に首を振って否定した。
"Lirs, la lex es jexerrt fal icco zu mol niv fal no."
"hmm......"
どうやらどの仮定も間違っていたらしい。このレジュ紙幣は滅びた国の通貨ということになる。なるほど、どれだけ紙幣を出しても価値の一片も認められないはずだ。大量に捨てられていたのは最近その国家が滅びたことを表しているのだろう。つまり、レジュ紙幣を使っていたのは……
"Edixa ledze'd jexerrt veles luso fentexoler'st?"
シャリヤは微妙な表情のまま、それでも何かはっきりとしたことを言うことが出来ないようだった。ネイティブが説明しづらいほどにこの紙幣の状況は難しいのだろう。
そんなことを言っていると腹が鳴った。好奇心にはキリがないが、食事を取らなければ死んでしまう。紙幣が使えないのならばフィアンシャへと行く以外に方法は無いだろう。
"Xalijasti, lecu tydiest fi'anxa'l."
まるで乞食のような生活に落ちぶれるとは自分でも思っていなかった。しっかりしていれば異世界転生物小説の主人公のような生活を出来ていたのだろうか。無益な争いを止めて、大切な人を守って、それでも今のような状況に落ちぶれているのは理不尽だ。
理不尽だが、これまで助けてくれたシャリヤのためにも生きなければならない。英雄気取りは生活が安定してからだ。




