#179 何故分かるのか
質問を聞いたレチェーデャは困惑していた。シャリヤも近くに居たシャーツニアーもその質問に対して頭の上に疑問詞を浮かべるような表情をしている。脳裏に"baneart"の悪夢が蘇る。
だが、レチェーデャはすぐに優しげな表情に戻ってまた、メガネを上げた。
"Cene tvacferlke'd tesnoken aloajerlerm ler mi firlex ci'd ferlk."
"Mi'd tvacferlke'd tesnoken aloajerlerm es karedza melx edixa la lex leus ci firlex mi'd ferlk."
"Hmm......"
レチェーデャの説明に被せるようにシャリヤが説明を入れる。どちらも同じ語を繰り返しているところを見ると、どうやらこの話をするのはリパラオネ教徒には珍しく説明しづらいらしい。分かっていて当然の常識といったところだろうか?転生者には厳しい世の中だ。
話を噛み砕くとすると、"tvacferlk"の"tesnoken aloajerlerm"を使うことで人の名前が分かるようだ。シャリヤのそれは"karedza"であるらしいが、どうやらそれで分かったらしい。前の会話でシャリヤは翠の"tvacferlk"の"tesnoken aloajerlerm"に関して話していたような気がする。そうなると、レチェーデャは翠の名前も分かるのだろうか。
"Dzeparxarzni'arsti, cene co lkurf mi'd ferlk?"
"Merc...... la lex es snietij pa metista es cen?"
"Xorlnem! Ja, si'd tesnoken aloajerlerm es cen."
シャリヤが手を合わせて蒼い瞳を輝かせる。レチェーデャはそんな尊敬の眼差しを避けるように顔を少しそむけてメガネの位置を直した。
話しぶりから考えるにシャリヤの時はすぐに言うことが出来たが、翠の時はどうやら少し難しかったようだ。シャリヤも驚いているところから、一般的に見て翠の名前を"tvacferlk"から考えるのは難しいことらしい。シャリヤが翠の"tesnoken aloajerlerm"は"cen"と言っているところを見るとこの表現は「名前、個人名」を表すようだ。ということは"tvacferlk"には名字と個人名が存在するのだろうか。
"Dzeparxarzni'ar'it aleron feleceson is firlexer jetesonj ti. Lirs, co'd ferlk es infavenorti ti. Harmue co'd icco es?"
レチェーデャは翠の出身に興味津々の様子で顔を傾げて訊いてきた。権威ある人も難しい問題に直面すると折れてしまうことがあるが、彼女はそういった人ではないのだろう。知らないことを調べ尽くし、宗教的な観点から人を助けるというのがリパラオネ教の聖職者の役割なのであれば尊敬されるのも納得できる。
"icco"は国の意味だが恐らくこの文脈では「故郷」を表しているのだろう。レチェーデャに日本はわからないだろうが、素直に答えれば良い。
"Mi'd icco es nihon."
"Nihona......sti? La lex xale poltaferlkal mol tirne?"
思ったとおり、日本という国を知らないで当然のレチェーデャは首を更に傾げて訊いてきた。シャリヤは首を振った。興味深かったのは、首を振ると共に右手でジェスチャーをしていたことだった。どうやら否定は胸の前で手のひらを話し手の方に向けることで表すらしい。
"Si es waxundeener mal si klie launsar ler fai werlfurp."
"Si es kertni'ar?"
"Ja, Pa cene niv mi fynet lkurf celx mi es niv lespli."
ふむふむとレチェーデャが頷くと奥の方からシャーツニアーの服装をした女性がレチェーデャの元までやってきて耳元に話しかけた。彼女は頷くとその場から立ち上がった。雰囲気からするとどうやらもう行ってしまうようだ。権威ある人間ともあれば色々な仕事があるのだろう。
"Mi slaxers lkurfo cossa'st. Tanstes fal coss."
"Xace fua co at."
シャリヤもレチェーデャが立ち上がったのを見ると立ち上がろうとする。だが、挫いた方の足で立とうとして、酷く顔を歪めて痛そうにして体勢を崩してしまった。レチェーデャと翠は同時にシャリヤを支えた。
"Co pothes lovime'c?"
"Ja, ekce ers pa......"
レチェーデャはシャリヤの足を見ながら、頬に手を当てて考えていた。そんななか、伝令をしてきたシャーツニアーが何かを思いついたように手を叩いた。
"Ivane'd kyrdentixti'ct tydiesto es vynut."
"Ar."
伝令は何やら折られた紙をレチェーデャに渡した。彼女は何かを思い出したかのように頷きながら紙を広げた。そこに書かれていたのは地図であった。レチェーデャはその一点、"Ivane'd kyrdentixti"と書かれた建物らしき区画を指した。
"Jol cene fqa io co veles sleo filx kinium. Deliu co veles sleo. Icve fqa'd lael."
"Xace......"
どうやら、レチェーデャは地図をくれるらしかった。彼女がシャリヤの足が痛むのを見て紹介した場所ということは恐らく"kyrdentixti"は「病院」ということになるのだろう。病院だとすれば"ivane"は恐らく人名、"sle"は病院でされる行為と考えれば「診療する、診る」という意味になるだろう。ただひとつ、"filx kinium"の意味が良く分からなかった。病院を紹介したのはきっと自分たちの状況を気遣ってくれていたからなのであれば、恐らく「診察料なしで」という意味だろう。
"Xace, dzeparxarzni'ar."
"Salarua, mian ad mionasti."
挨拶を済ませるとジェパーシャーツニアーはゆったりと伝令に付き従われながらどこかへ行ってしまった。翠はシャリヤの立ち上がるのを手助けすると、最初に案内してくれたシャーツニアーは出入り口を開いてくれた。人の好意が身にしみる。
"Lecu miss tydiest kyrdentixti, xalijasti."
"...... Ja."
シャリヤは申し訳なさそうに俯きながら、意気消沈した様子だった。自分が足手まといになっているとでも思っているだろうが、自分は全くそんなことは思っていなかった。
出入り口まで行くと、開けてくれたシャーツニアーが"Salarua"と声を掛けてくれた。翠は会釈をしてゆっくりとフィアンシャから出ていった。




