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#170 レトラ出発


 エレーナとヒンゲンファールがレトラからの脱出の準備を進めている途中、レシェールは図書館の屋上から外を眺めていた。ここからはレトラの外に繋がる門がよく見える。それぞれの門には、お世話様なことに警察制服を着た人間がぞろぞろと集まっていた。


"Loler vytiet mol ja."


 内戦期は警備が手薄だった南門も今じゃ、警察だらけである。荷物をまとめ、適当に行き先を決めて車を出しても警察にぶち殺されるに違いない。ユミリアども政府官僚が持っているような防弾車はここにはない。ターフ・セレズィヤの映画のように皆撃ち殺されて終わりである。

 では、どうするかというところだが、特に策もなかった。あの包囲を突破する以上は、集中的に一つの門を通る必要がある。そうして、車で出ていけば車の目撃情報で追われるに決まっている。出ていってそうそう足を失くすわけだ。


 それにこの状況だと時間もない。レトラを包囲されている以上、奴らはいずれ俺らを消しにやってくる。捕まれば記憶を消される再教育か、それとも殺されて下の世界に落とされるかで終わりだ。


"Ete'd surul mol niv jarn."


 溜め息をついても、仏頂顔の警察どもの顔色は変わらなかった。

 下階に降りて、ヒンゲンファールに状況を説明した。完全に包囲された現状にヒンゲンファールも突破戦を好まなかった。そもそも、戦闘をすれば他の門の警備をする警察官も集まってくる。危険を冒してまで本当に戦闘をする必要はあるかという疑問もある。

 だが、フィアンシャの地下道は爆破されて使えないし、外部へ繋がる門以外で外に出る方法は無い。ウェールフープで移動すればウェールフープ波で追われるので、これも無理だ。

 目の前のヒンゲンファールは忌々しげに唸っていた。


"Deliu miss yst axelst ilsasj tirne....."

"Lecu miss yst axelst verson molal."


 荷物をまとめたヒンゲンファールはしょうがないとばかりに溜め息をついた。そんなところでエレーナも準備を終えた様子でやってきた。"yst axelst"という言葉を聞いて目を丸くして、俺とヒンゲンファールの二人を交互に見ていた。危ないことをするなと言った本人が渋々認めているあたり、エレーナも覚悟しなければいけないだろう。


"Ulesn coyrtavonj fal tierij, elernasti."

"Ja......"


 エレーナは引き気味で肯定した。


"Celaflapilinadi mol niv ja?"

"La lexepe xale yvidusten mors mol niv tirja."


 面倒だと思ったが、拳銃のマガジンに銃弾を入れる作業を既にヒンゲンファールはやっていた。

 一応レトラが反革命主義者に包囲されたときにレシェールは戦闘を率いた経験がある。だが、今回は人数も多くなければ圧倒的な劣勢だった。


 車に荷物を詰め込み、拳銃を隠し持って門まで向かう。門で何も言われなければ、そのまま素通りできるがもしもの時は警官を殺すしか無い。エレーナは後部座席で伏せて隠れていた。服の色も相まって、分かりづらくなっていた。


"Pusnist, tierijestan!"


 警官が静止を呼びかける。運転中のヒンゲンファールと顔を見合わせた。


"Miss melfert alcirtaer. Mili ekcej fua fonti'ao."

"......"


 警官は写真のようなものを見てこちらと交互に見ると、ガラス越しにこちらに拳銃を突きつけてきた。瞬間ヒンゲンファールが勢いよくドアを開ける。ドアを当てられた警官は体勢を崩して、拳銃を手から落とした。その瞬間にすかさず蹴りを入れる。警官は倒れたまま気絶した。

 しかし、何者かが後ろからヒンゲンファールの右腕を撃った。ヒンゲンファールは苦痛に満ちた表情で腕を抑えながら、銃声の方を睨みつけた。

 警官がもうひとり居たようであった。四人ほど警官が集まってくる。この状況で拳銃を撃っても多勢に無勢。ヒンゲンファールも逃げようが無かった。


"Ers fhanka faixes! Pusnis――"


 全てが終わったと思ったところで、警官は頭から脳漿を吹き出しながら倒れた。長く重く響く銃撃音、何処かから誰かがスナイパーライフルを撃っている様子だった。


"Harmue ler――"


 一人、また一人と近くの警官がどんどん撃ち殺されていった。警官が皆撃ち殺されると、近づいてくる人影があった。切りそろえられた栗毛色の短髪、オリーブ色の軍用制服にはコバルトブルーのユエスデーア章、大切そうにスナイパーライフルを携え、その瞳はこちらを見つめ、常日頃と同じように表情は無い。


"Skurlavenija.mylonijusti......?"

"Mi plasi pesta malefikinail misse'st lu."

"Pa, co's es....."


 爽やかな青年を前にして話しているなか、大声で"pusnist!"と叫びながら警官たちが走ってくる。ヒンゲンファールはその量に立ち尽くしていたが、ミュロニユは後ろを一瞥しても涼しそうな顔をしていた。このままでは捕まるのは必死だと言うのに


"Nienul! Miss malefikina ...... dea?"


 地獄のような連射音、集まってくる警官たちは的のように端から倒されていく。ミュロニユではなく、その背中が銃を撃っているような印象であった。追手を全員撃ち終わると、緊張が解けたかのように銃声は止んだ。

 彼の後ろからぴょこっと顔を出したのは黒髪のポニーテールの少女であった。その手にはサブマシンガンを持っていた。硝煙が銃口をまとっているわけでもないのに格好つけるようにして銃口を吹く。アホ毛が成功を祝うように震えた。


"Co jui es vaxirln lu, vekiet l'es felircasti."

"Ers niv li co, rylun l'es mylonijusti?"


 何が起こっているのかよくわからないという様子で、エレーナも隠れるのを忘れて不思議そうに二人のやり取りを見ていた。なんだかその余裕こいた様子に苛ついて車窓から身を乗り出すようにして、二人の方を向いた。


"Nie-nul."


 元気の塊と無表情の二人は肩をすくめながら、車に乗り込んだ。

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Co's fgirrg'i sulilo at alpileon veles la slaxers. Xace.
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