#169 名前の意味は
私はカリアホの話に関してシャリヤから話を聞いていた。話を聞くもなにも、私とシャリヤとカリアホは同じクラスである。そういうわけで、カリアホがどういった存在なのかというのは大体わかっていたし、ユミリアやら謎の外国人が関わってきた時点でただ事ではないと思っていた。
ウェールフープでシェルケンが異世界に干渉しているというような噂は社会に蔓延していたが、何かとシェルケンの話もシャリヤにまとわりついていたのも心配であった。
だから、私は気になっていた。心配だった。
"La lex es xorln celx tejiset lartassa's ti ja."
"Elernasti......"
銀のロングポニーテールの先が振れる。深い蒼色の目が申し訳なさそうに視線を私から外していた。自分の名前を呼んだのは、それが数えられるくらいしか無かった人物――ヒンゲンファール・ヴァラー・リーサであった。彼女は言いづらそうに表情を歪めていた。
昨日からシャリヤがレトラに戻って来ていなかったことは不思議であった。翠も、カリアホも同じように戻ってきていない。カリアホとガルタの死体が後に発見されたということはレシェールやヒンヴァリーの話を聞いて理解していた。翠もシャリヤも一緒に戻ってこないのは、どう考えてもおかしいのだ。
"Deliu co melses niv fqa celx co veles retoo."
"Selene harmie co kantet jarn."
ヒンゲンファールはため息をついた。
図書館の一室、ここは翠が通って色んなことを学んでいた部屋だ。彼のひたむきな姿は、私に彼がシャリヤを支えるのに十分な力を持っていたと信用させた。これまで二人がどれだけ危機を打ち破ってきたか、考えればわかることだ。シャリヤの幸せのためには翠が必要だし、翠の幸せのためにもシャリヤが必要である。それなのに目の前から二人共消えてしまった。ただで居られる訳がない。
"Edixa jumili'a reto galta. La lex es fua pielyno cirlaverl zu veles retoo kali'aho'it. lex melses miss l'es lexerl ad mi at veles faljneo. Pesta retovil, Jol miss eski tydiest lerj retla lyme. Co'st la lex'it quneerl veles niv quneo jumili'a'st. Mag......"
"Mag, niss'it xelnkanon sietiv nujononj. co lkurf la lex?"
ヒンゲンファールは私の反駁を聞いて言葉に詰まってしまった。完全に肩を落として落ち込んだ様子だ。少し強く言い過ぎたのかもしれない。ヒンゲンファールはエレーナの身を案じてくれていたのだ。
"Hingvalirsti, co es farnen fua celdino xalija ad cen'it!? Fal la mieste io celdinerlsto es xale yfi'a'd 4'd xurxifa...... da...... jarn?"
闖入者は大きな手を掲げながら、意気揚々と部屋に入ってきた。ヒンゲンファールの姿を見た途端に反射のように声を上げていたが、エレーナの存在に気づいてつい言ってしまったというような顔をしていた。
ヒンゲンファールが更に一層深い溜め息を付く。忌々しげにレシェールを見上げていた。
"Jol coss lap celdinerlst qa fal ecesol mi'st ja?"
"...... Cene niv josnusnon xel selun fal la lex."
ヒンゲンファールは今度こそはっきりと私と向き合ってくれるかのような表情になった。上から冷酷に見下げるような目、それでもその本当の意図はエレーナをここに残して傷つけないための配慮だ。彼女なりの剥き出しの優しさはどうしても暴力的になってしまうのかもしれない。
"Niralsen xalija xelil elj elx cene niv mi riejiel mal fav tisod. Selene mi'tj at tydiest."
"Senost elerna's......!"
臨界点を超えたヒンゲンファールの怒りは、二人の間に出された手によって遮られた。レシェールがヒンゲンファールの言葉を止めるように、手で抑えていた。そのレシェールの様子はいつもの頭の悪そうな脳筋おじさんではなく、冷静にこちらを見つめていた。
"Edixa mi lkurf mi'd ferlk cene'c fal melfertil kali'aho. La lex es lefjcenaviju, lexerl.lefjcenaviju da. lefjcena es dexafeleserl fua karse fka. Zu, mi taty ny la lex. Wioll mi karse co. Pa, liacy cene niv mi snaj la lex. Mag, mi tydiest fua snajo."
レシェールは自分の罪を告白するかのように淡々とこちらを見ながら言っていた。言い切ってから、ヒンゲンファールの方を向く。
"Hinggenferl'd tesnoka'd ferlk es lirca. Lirca es litarleo. Liaoll cene litarle mors pelx cene niv litarle fusaf do. Elerna'd fusaf at io litarlesykinerfergerl mol dea ja."
"Lexerlesti......"
レシェールの説得に圧されたようにヒンゲンファールはさっきの拒絶とは全く違う顔をしていた。今世紀一番深い溜め息をついたが、レシェールの真面目な話に日常との違和感を感じたのか、彼女は少し笑みを見せた。
"Celespacon, Miss adurt co tirlu pelx wioll fudiumme niv. Co tanlat?"
"Ja."
レシェールも笑って、私を受け入れてくれた。それから、準備はすぐに進んだ。さようなら、レトラ。私は翠とシャリヤを守るためにまた新しい新天地に行く。
