#159 ヴェフィサイト
――ユエスレオネ共産党 フェーユ地方委員会
ユエスレオネ共産党の歴史は長い。1579年に始まる政治運動「理族革命派」を中心に、フィシャ・ステデラフによる教法学的革命権の提唱、そしてこのユエスレオネで虐げられた人民を救うために人民解放戦線が成立し、イェスカが先導した革命によって今のユエスレオネ連邦がある。一人ぼっちだったはずのこの国は国際関係の中で今危機に陥っている。
"Iulo mol niv eski kantestan melx cierjustelo. Edixa lu kali'aho mak tejiest."
ユミリアの言葉を聞いて、会議室に集まった者たちは顔をしかめた。レトラの知人であるヒンゲンファール・ヴァラー・リーサと過去革命勢力を率いていたレシェール・レフィセナヴィユ、そしてカリアホの隣に常にいたはずのガルタ・ケンソディスナル。カリアホ・スカルムレイが居なくなってからもうすでに数時間が経っている。
"Fi cukalmlei jisesn, la lex is lertasen fafsirl."
"Cukalmlei nat jisesn niv dorne."
ガルタの不満を漏らすような声に、呆れ顔のレシェールが答える。死んでいるか死んでいないかは問題ではなかった。スカルムレイが今何処に居て、何故失踪したのかが問題なのだ。もしスカルムレイがシェルケンによって奪われたとするならば奴らは彼女をどうにでも使って連邦を滅ぼそうとするだろう。
ハタ王国とユエスレオネ連邦に芽生えた絆を切り裂くならこれほど十分なものはない。涎を垂らして狙っているに決まっていた。
"Irfel jumili'asti, xeler ad et mol niv fal tejiestal?"
"Ja, e mol niv mal lulas mol luaspast. Parcaxtersnife'd kiljoi es farfelen jesnyp le snepolta jol. Co lkurf xelo niv als kiljoi's?"
ガルタは不満そうに話している間に牽制するようにテーブルを何回も叩いた。その度に横に居るレシェールの眉間に皺が増えていくのは面白い見ものだったが、現状の面白さはそれ以上であった。
"Kilijoi eser es FF'd SS'd larta. Qa'd larta veles retoo melx liaxu FFLA icve niv jexerrt. Coss tisod eso la lex feat iurle'd dzarter ol jul kurnoner?"
ユミリアの話を聞いてガルタは頭をかきむしった。相当ストレスが掛かっているようだ。自国の政治的重要人物を国外に持ち出しておいて、失踪してしまったという事実がここにある。
"Nisse'd jisesnul es harmie lu?"
考える表情のヒンゲンファールが、ユミリアに問う。レシェールの呆れ顔が段々とこの件に関してはどうでも良いという表情になっていた。
"La lex'i myrda. Edixa denul'd lulen ad etysn veles kakiterceno flenj cystfechenonj. la lex es niv vamexalcerdy gelx jol werlfurp leus kuqa reto pa......"
そう、武器を使えば血が出たり、服が切り裂かれていたりするはずだがそれがないということはケートニアーの特異能力であるウェールフープを利用して人を殺害したと考えるのが筋が通る。ウェールフープで人が殺されるのは何も特別なことではない。ユエスレオネの内戦では日常茶飯事だったうえ、スキュリオーティエ叙事詩の時代から続くファイクレオネという惑星に生まれたケートニアーという人種の咎だ。
ヒンゲンファールは興味深げにこちらに注目している。先を言わないユミリアを見つめていた。
"Pa?"
"Pa, Litarleyl aswarl zu fonti'a mele jesnyp i niv jel werlfurp'd helzar. La lex es karnivan."
ケートニアーがウェールフープを使えば、特有の場が発生するという。それがウェールフープ波というもので、防犯の用のために公官庁や党学校の周辺にはそれを検出する機械が設置されていて、特別警察の警備部門が常に監視している。ウェールフープで警備が殺害されたのであれば、検出されていないのはおかしいのだ。
"Edixa skylarle vefisait mattilienon reto niss fal no villast do?"
"Jei."
レシェールのふざけた発言にヒンゲンファールが憤る。手をひらひらさせて、冗談が通じないやつだなとばかりに振る舞っていた。
確かにスキュリオーティエ叙事詩に出てくる藩王を守る武人――ヴェフィサイトはウェールフープを戦闘に使わなかったという。彼らの宗教上でウェールフープは「神の光」と呼ばれた。あの叙事詩は、そんななかウェールフープを使って攻めてくる北の民と伝統と安寧を守ろうとする南の民との闘いを描いている。
脳筋で教養がないだろうと思っていた人物がスキュリオーティエ叙事詩の話をするとは驚いたが、革命勢力を率いたリーダーたるものこれくらいは知っておかねばならないのだろう。
"Wioll mecceries melfert fal alsel. Edixo cene niv jel, elmi'esm mak reto lartass."
三人の表情は厳しくなった。戦争の惨禍は長い内線で十分に誰もが理解している。やっと終わった戦争を、理由は違えど繰り返すなど絶対に許してはならない。
三人をレトラまで党の乗用車で送り、執務室でまた捜索の手はずを整えようとしていた。国家公安警察、特別警察、軍、議会、使えるものはすべて使う。彼ら三人もきっとレトラのルートを利用してカリアホを捜索してくれるはずだ。
執務室の窓から見えた星々は美しく輝いていた。




