#154 恐れていること
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zantanascheu
-'ceu
fe
ydicel
luarta
da
ladircco
verxen
-stan
klantez
siburl
ispienermedarneust
enomionas
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残った13の形態素。シャリヤは非常に説明に手間取っていた。抽象概念などは本当に言葉で説明しにくい。もし「剣戟の音」を日本語初心者に説明するとしたら、「キンキンキンキンキンキン!」と言わざるを得ないだろう。逆に言葉でダラダラ説明して通じればそうしているのだから、そういうことなのだろう。説明者の説明力不足ということは万一にも無い、そうきっと無い。
まず、シャリヤは"zantanasch"からまた矢印を引いて横に"[zant-a-nasch]"と書いた。きっと単語にまた色々付いたものなのだろう。"zant"という語幹に"-nasch"という接辞がついて、間に緩衝音"-a-"が挟まれているのだろう。
"<zant> es elmel mal <zantanasch> es letixo elmel'it."
"zant"は「戦法」「戦術」のような意味らしい。"-nasch"が付くと「戦法や戦術を持つ」という意味らしい。"is"の補語になっているあたり、名詞か形容詞だと考えられ、多分「武装化した」、「武装化」という意味なのだろう。ただ一つ疑問がある。歌詞に出てきた単語は"zantanascheu"だった。シャリヤが今説明した単語には"-eu"が入っていなかった。
"<-eu> es harmie?"
"A, la lex letix niv kante. "
翠の質問にはっとしてシャリヤは答えた。肩の前に垂れた髪をかきあげる。
"Cene co lkurf <zantanasch> pelx fqa io lus <-eu> fua nesniumusnej. Pa, cirla io la lex letix niv kante melx cene co lkurf faller <lkurftless> ol <lkurftlesseu>."
"Firlex,"
"-eu"は緩衝音の一種と捉えたほうが良いのかもしれない。"nesniumusnej"というのが何なのかよく分からないが、意味を持たないのと、"lkurftless"を"lkurftlesseu"ということが出来るところから適当に挿入される緩衝音がきちんと表記されているだけなのだろう。単語の辞書型ではこの緩衝音は無視されるのだろうから、シャリヤはそれを取った"zantanasch"を説明したことになる。
これで歌詞の一行目の意味は大体理解できる。"Viojassasti! shrlo is zantanascheu."は「同胞たちよ、武器を持て」くらいの意味だろう。二行目の"-'ceu"もきっと"-'c"に緩衝音"-eu"がついたものと考えると読めるようになる。"Farviles stoxiet farvil'i no'ceu."は「今、青い旗を掲げよ」という感じだろうか。
"Edixa mi firlex panqa ad qa'd leiju'd kante."
"Firlex, mal, lecu lersse mels dqa'd leiju."
そういって、シャリヤはノートに書かれた"fe"を指した。
"<fe> es kraftona. La lex kantet ny la lex. Deliu es niv."
"<kantet ny la lex>?"
"<kantet> es <letix kante>. <ny la lex> kantet lkurferl fasta leiju zu krante <ny la lex>."
シャリヤは冷静に説明してくれた。説明してくれる単語すら良くわからない状態でそれをちゃんと説明してくれるのはありがたい。
"fe"は助動詞で、「禁止」を表すというところまではわかったが肝心の三行目の主動詞らしき"ydicel"がよく分からない。
"Mal, xalijasti, <ydicel> es harmie?"
"hnnn, Veleso retoo'it ad lartassa'st elmo es ydicelo."
"hm"
動名詞を表す語尾"-o"が付いているあたり、やはり主動詞という解釈はあっていたらしい。対象になっている単語からみて、"ydicelo"は「恐怖」とか「恐れ」で、"ydicel"は「恐れる」なのだろう。
つまり、三行目の意味も分かる。"Viojassasti! fe ydicel la lex."は「同胞たちよ!それを恐れるな」だ。
"mal,......"
"hm?"
続きを言おうとしたのか、シャリヤは小声でか細く言った。
"Mi ler cen niv molo at es ydicelo."
シャリヤは自分でそう言って、顔を真っ赤にしていた。度重なる紛争の中でシャリヤはここまで翠とともに行きてきた。お互いに欠かせない大切な存在なのだから、シャリヤを置いて何処かへ行くことなんてありえない。
"Mi tydiest niv fhasfa'l filx xalija."
"...... Cirla io lkurf?"
火照った顔をこちらに向けてシャリヤは問いかけてくる。青玉の瞳がこちらを見つめている。
"Ja."
答えを聞いたシャリヤの表情は安堵に包まれていた。それにしても、何故今こんなことを訊いてきたのだろうか。全く見当がつかないが、シャリヤが安堵してくれるなら幾らでも言ってあげようじゃないか。
そんなことを考えているとシャリヤは次の単語の説明を書き始めていた。思考を振り払って、説明の解釈に集中力を傾けた。




