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#119 不明


―レトラ、連邦人民解放戦線地下本部


"Harmie...... fqa es......?"


 眼の前に差し出された書類を見て、私――ヒンゲンファール・ヴァラー・リーサは本当に意味不明だという顔をしていた。そして、目の前に立っている人物でさえも何故ここに居るのか全く分からなかった。


"Harmie irfel jeska'd viojunsar klie fal fqa?"

"Nillast,"


 見覚えのある銀の髪色、その髪はツーサイドアップになっている。目の片方はリパラオネ人らしい鮮やかな蒼の瞳、もう片方は深い紅の瞳。女性用制式政治将校の制服で目の前に居たのはユエスレオネ共産党党首であるターフ・ヴィール・イェスカの妹――ターフ・ヴィール・ユミリアであった。共産党のNo.2であり、革命勢力の中でも政治的影響力が強い人間だ。それが、レトラのような誰も気にしないような街にやってくるなど異常だと思った。しかも、目の前に差し出された書類は全く意味不明な出来事を報告していた。


"Edixa irfel jeska fura......?"


 驚いた。以前からそんな兆候は出ていなかったはずだ。私と喫茶店で話したときも変なことを言っていたが、あれが自殺に繋がるとは思えない。私が知っているターフ・ヴィール・イェスカとはブルジョワ民主主義政権である共和国政府を粉砕し、労働者のための国を作ろうと全力を注ぐ人物だ。革命が終わって何かを恐れて死ぬような人間ではない。


"Jol edixa fhasfa korsissatit niv?"


 ユミリアは表情を変えずに首を振った。


"Liestustan io fhasfa fav mol niv fal snutokastan. Vaj jeska'st paz'it larkra'ct rodeson jisesn edixo. Ers favj la fura."

"Celde la lex?"


 ユミリアも状況を冷静に理解しているように見えて、戸惑っている様子だった。ため息をついて、プラスチック製のスツールに腰を下ろした。

 もし、自殺する原因があるとしたなら何なのだろう。革命が成功して興奮して自殺したというのはあり得ない話だ。多忙の彼女がファークの乱用者だったとは思えない。政治的圧力があったとも考えることは出来ない。この革命派で最高の権力を持っているのが彼女だったからだ。政府軍との裏での秘密の話し合いでもあれば分からなくもないが、イェスカもユミリアも知らないうえで行われるとは考えづらい。


"Xel fqa."


----

நீ என்னுடைய தவறு.

நீ என்னுடைய எதிர்பாட்ட மனிதன்.

நீ ஒரு சாவி.

நீ தொடக்கம்.

நீ மாற்றவர்.

こ れ は タ 三 ル 言 吾 で す 〇

言 売 で み て ね 〇

----


 ユミリアが一枚の紙を差し出した。紙の端は血のような色で真っ赤になっている。書かれている文字列はリパーシェでも燐帝字母でもなかった。だが、どうやら二種類の文字で書かれているようで、片方の文字は見覚えがあった。見たことのない文字がいくつも連なっているのをみて疑問に思い、ユミリアを見た。


"Carxa krante ly. lkurftlesse'd stefart lkurf alsat firlexo niv lkurftless xale la lex ."

"Ers xorln...... Fqa'd lyjot――"


 そこまで言って、ユミリアは表情を明るくしてこちらに近づいてきた。


"Cene co akranti fqa!?"

"Niv...... lirs"


 ユミリアは私が口ごもっていることに怪訝そうな顔をしながらも読めないのだろうと解釈してまた大きなため息をついていた。俯きながらスツールの木の部分をコツコツといらだだしげに人差し指で叩いていた。

 私が口ごもってしまったのは、下の二行がシャリヤが見せてくれたニホン語によく似ているからだった。燐帝字母とタカン文字を混ぜたような書き方、まるでそっくりそのままだった。八ヶ崎翠がニホンという国から来たことは分かっている。しかし、その言語に似た文字をイェスカが知っていて、遺書に書き残したというのは何とも不思議なことだ。

 しかも、これを言ってしまえば、翠はもしかしたら共産党系武装組織に拘束されるかもしれない。言うのを止めたのは、そう思ったからでもある。


 机に近づいて、じっくりと手紙を見てみる。血が付いているということは、自分の胸を撃ち抜いたあとで書いたということになる。本当に奇妙なところは、その文字がタイプライターで打ったかのような活字のような感じがしたからだ。一つ頭の中に想起させられたことがあった。未開の地の宗敎では神や霊を憑依させることで自動筆記をさせるという話だ。イェスカにラーデミンでも憑依したらそうなりそうだが、それもまた馬鹿な話だ。

 よく考えてみれば、彼女がおかしくなったのは八ヶ崎翠を求めてレトラに来てからじゃないだろうか。決定的におかしくなったのは、カフェで「八ヶ崎翔太」の話をしてからだ。


"Jazgasaki.xortasti...... harmae si es men......?"

"Ng? harmae,"


 ついつい口走ってしまった名を繕うことはできなかった。ユミリアも不思議そうにこちらを見ている。だが、それを隠す必要ももはやないだろう。どうせイェスカの死には今まで我々が知らなかった何かが絡んでいる。調べるのに使えるルートは全て使ってやる。


"Irfel jumili'asti, la tiliest'i niv senoston dzarn larta zu veles stieso <jazgasaki.xorta>"

"Ni melses, men?"


 ユミリアはヒンゲンファールの声色に何かを感じたのか、真剣な表情で問いた。ユミリアの問いに、私は深く頷く。ユミリアは少し唸りながら、考えていた。


"firlex, wioll olfes fal firlexil fynetj fhasfa'st."


 そういって、彼女はすぐにスツールから立ち上がって書類をまとめ、挨拶をする暇もなく去ってしまった。

 八ヶ崎翔太、そして八ヶ崎翠の存在。狂ったイェスカと彼らは因果関係があると見ていいだろう。彼らが一体どのような存在なのか突き止めて、イェスカや反革命勢力との関係をはっきりさせなければならない。第三の勢力である可能性もある。

 ヒンゲンファールは書類をまとめ、このことについてしっかりと調べることを心に留めて部屋から出た。

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