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#114 演説


"Alsasti, senost plax."


 無線機の子機から翠が話しかける言葉は、少し震えていた。聞こえているのか、聞こえていないのか良く分からない状況でそれでも用意した言葉を紡ぐしかない。隣にいたエレーナも息を呑む。


"No io elmerss letix harmie kante? Fua sesnudo relod'it ol sesnudo unde'it, es? Fgir es set nix. Dqa'd lartass zu mi firlex, veles reto josnusn'it. Ciss nat es josnyk selun!"


 翠の勢いを増していく声に、エレーナは自分のことについて語っているのだと思ったのか顔をこちらから背けてしまった。嫌そうにしている様子ない。覚悟していたのだろう。


"Cene niv xanpanqa ol sanpanqa ol canpanqa'd lartass nat fynet lkurf mels fqa'd elmo'd kante! Cun, sneiet larta celes letixo kante'it elmersse'st fal no. Edixa fai siss, loler lartass veles retoo."


 適度な間を入れる。異教徒側にも、イェスカの軍側にもこの言葉が伝わっているのかさっぱりわからない。両方が使っている周波数にエレーナが設定し、無線機の子機をどちらからも発せられる設定にしてあるので理論上は伝わっているはず。心配だが、伝わっているとして話し続けるほかに方法はない。


"Lartass io jurlet under veles reto sisse'st fal panqa. Deliu miss elm siss fal no? Fqa es snietij mal deliu niv miss elm zelk fal panqa? Cene miss laozia under!"


 少ない語彙力で意思が伝わっているのかどうか、気になるところではあったが一夜漬けでのスピーチだ。どの語学の先生ですら、翠の頑張りを評価してくれるだろう。言わずもがな、これまでの言語習得も合わせると高得点に決まっている。

 そんなことを考えていると頭がくらくらしてきた。意識が薄まっている気がする。昨日と同じ頭の痛みがぶり返してきた。しかし、ここで話すことをやめるわけにはいかない。シャリヤと多くの命がかかっている。

 エレーナも心配そうにこちらを見つめている。何か言いたげだが、演説中は必ず黙っているという事前に決めたルールに沿って黙ったままだった。


"Mi klie yuesleone fal anqa panqa. Fhasfa'd larta celdin mi mal mi niejod fal no. Mal, als larta celdin fua unde'd under. Fi fhasfa'd larta jaes mi, shrlo senost mi'd lkurfo plax."


 頭の痛みはどんどん強くなってくる。片肘を立てて、頭を押さえ、痛みに耐えているうちに額が汗だらけになっていた。息も荒くなっている。エレーナは心配そうにしているが、何も出来ない状況を悔しがっているようだった。

 作戦が終わるまでは、倒れるわけにはいかない。そう考えるたびに頭の痛みが倍増している気がした。


"Ysev paz plax. Co elm niv mal lecu miss miscaon parl! Mal, cene miss molkka sneiet larta'c zu lirf elmo ad retoo! Lkurf harmae's eso'i jaeso'it!"


 必死の呼びかけを行うたびに頭の痛みがやめろと訴えてくる。心臓が脈打つ度に重しを載せられたような痛みが殴られたような痛みに変わる。

 心の中は早く安心させてくれという願いで一杯になっていた。エレーナも隣で翠の様子を見ていて、同じようなことを思ってくれているだろう。しかし、まだ最後の最後まで、安心することはできない。答えが来るまでは。

 そんなこんなで数分無言の状態が続いた。誰も自分の言うことに耳なんか貸してくれなかったのかもしれないと思うと頭の痛みよりも痛いものを感じた。


 しかし、静寂はその一瞬で途切れた。


"Miss l'es fentexoler'd als elmer jaes co!"

"Ja! Lecu miss pusnist retoo viojssa'd relod!"

"Tvasnk alefis! Dznojuli'o las xelvin es niv niliej!"

"Alsasti, olo jazgasaki.cene'c!"


「探すといい……彼らに銃声を今日の静寂の中に探させよう。」


 脳の痛みがさっと引いて、勝利の快感が体中に走る。その後からも自分に賛同してくれる歓声がとめどなく続き、これまでの疲れも吹っ飛んだ。

 エレーナの顔を見ると彼女は成功を知って、涙を流していた。顔を抑えて、静かに泣いていた。これまでの緊張状態を考えると当然の反応だろうと思った。


"Jazgasaki.cen es vynut larta! Miss elm fua mis――"


 安心しているところに賛同の無線が次々と入る。正直むさ苦しい男の声は煩いので切って、しばらく休みたいところだった。

 椅子から滑り落ちるように倒れる。頭の痛み、体のだるさに耐えられなかった。このまま床で横になっていても別にいいと思った。ただ、エレーナにうるさい無線機を切ってくれ、と頼むところであった。


"egiaaaaaaaa!"


 悲鳴が聞こえる。エレーナでもレシェールでもない。無線機からの叫び声であった。複数の銃声の後に声が聞こえた。


"Votyn als elmerssesti! Shrlo elm mal reto!"

「督戦か……よ……ファンタジー異世界の癖に……」


 怯える声や苦しむような声が次々と無線機から聞こえる。エレーナはうれし泣きを止めて、驚いた表情で無線機を見ている。

 床で薄れゆく意識のなか、翠は作戦の失敗を悟った。

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