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#112 Xancan-daps


 倉庫の中は照明もなく、積み上げられた機械で窓も閉じられてしまっていて何がどこにあるのかよく分からなかった。おまけに埃っぽくて、あまり長居したくはない空間だった。積み上げられた機械の中には通信機らしいものの他に、何に使うのか良く分からない機械が並んでいた。

 フィシャの使っていた形式のものと同じ形式の通信機らしきものは見つかった。三つある分、全部を持っていこうとしたところお咎めが終わったらしいヒンゲンファール女史に呼び止められた。


"Cenesti, Deliu co letix fqa."

"Harmie es fqa?"


 目の前に運ばれてきた機械は用途が良く分からなかった。全体的に暗い赤色であり、中心部から三本の太めのパイプが下部に繋がるように配管されている。何かの液体の量を計る目盛りもついている。


"Deliu jiedop mol fua luso olfyl."

"Jiedop es?"


 語彙の少なさから翠が訊いた問いに対してヒンゲンファールは頷いて答えた。女史は翠が運ぼうとしていた通信機の一つを赤色の機械の脇に置いて、通信機から出ているコードの先端を赤色の機械の側部のソケットにねじりつけた。赤色の機械についているスイッチを入れると、低く響くような音を上げながら動き出した。

 ヒンゲンファールはエンジン音のような音を上げる赤色の機械の様子を眺めながら、通信機についているトグルスイッチを上げた。スイッチの上には"infend"、下には"pusnist"と書いてある。「起動」と「停止」だろうか。細い木の棒で木の机を叩くような音が鳴ったのちに機械についている豆電球にいくつか光が灯った。


"Mal, cene lus fqa."

"Firlex......"


 どうやらjiedopは電気かなんかのことだったらしい。この赤色の機械は発電機なのだろう。ファンタジー世界なら魔法で動く機械とかがありそうなものだが、少なくともこの無線機は電気で動くらしい。

 ヒンゲンファールはこれで通信機が使えると言っていたので、このまま通信機と発電機を持って家にまで帰りたいところだったが、このまま街中を運んだら道中で絶対に怪しまれる。イェスカの関係者に見つかれば通信機を破壊されて終わりだ。輸送には慎重さを求められる。


"Hingvalirsti, Selene mi'st letixil mal tydiestil io mi celes xelo fqa'it niv."

"Firlex, pa harmy?"


 ヒンゲンファールが怪訝そうに尋ねてくる。

 ヒンゲンファール自身がイェスカの教会関係者であることは明白なのであまり詳しいことはいえない。しかも、今のところスクーラヴェニヤ・ミュロニユと通信するという体でやっているのだからそれ以上の情報がバレないようにする必要がある。何と言い訳すればいいだろうか。


"Ar, merc, fi fqass veles molo fal ietostal ol fhasfa, fqa is luserl niv cene. Mal, selene mi letix."

"Hmm."


 ヒンゲンファール女史は半ば納得したような感じで答えた。どうやら、目的はそこまで気にしていないらしい。倉庫の中にある大きな布をはたいて埃を取って、台車に載せた発電機や無線機の上から被せてくれた。その上、一緒に図書館の出入り口までこれを運んでくれた。


"Xace, hingvalirsti."


 別れ際でヒンゲンファールに振り向いて、お礼を言う。すると、ヒンゲンファールは急に寂しそうな顔をした。こちらから目を逸らして、悔しげに右手を力を入れて丸めた。


"Als es niv. Fi cene co celdin als, mi celdin co mels als. Edixa cene niv mi'st eso'i elx selene es fal co."


 どうやら、ヒンゲンファールは翠が何をしようとしているのか薄々気付いている様子だった。それなのに止めたり、無線機を破壊したりしなかったのは彼女自身イェスカのやり方に本当に疑問を抱いているということだ。同時に自分にとっては、頼れる信用できる人間ということになる。


"Ja."


 短く答えて図書館を出る。ヒンゲンファールの方へは振り返らなかった。女史がこちらを信頼し、信用しているならば、自分も自分を信用し、信頼して作戦を成功させる。それ以上もそれ以下も何もないからだった。




 家に到着した。

 幸い道中で誰かに声を掛けられることもなく、いきなり無線機を破壊されることもなく、全てを運び込むことに成功した。シャリヤはもう既に集合命令が出されていたようで、家からは出ていた。おかげさまで、どの部屋にも不自然な静かさが溢れていた。

 部屋の中に運び込んで、リビングのテーブルの上に並べる。発電機はテーブルの横に配置し、無線機のコードを全て発電機に繋げた。ヒンゲンファールが行った通り、発電機のスイッチを入れる。無線機のうちの一つのトグルスイッチを"infend"の側に上げて起動を確認する。


(問題はこれが本当に周波数かどうかだな。)


 無線機の前に置かれた紙切れ、そこに書かれた数字と文字列を眺める。

 スクーラヴェニヤ・ミュロニユの示した数字は"120.324"で、その直後には"xancan-daps"とあった。無線機には小さい板が幾つか張られた右側には同じく"xancan-daps"と表記されていた。多分、これは無線周波数の単位なのだろう。板の下のダイアルをひねると、板の一部が光ってセグメントディスプレイのように数字が浮かび上がってきた。

 無線機には手のひらサイズの子機が付いていた。子機の側面には"olfes"と書かれたボタンがあった。周波数を合わせて、この子機を使うことで通信が可能になるのだろう。

 恐る恐るボタンを押してみる。


"Ar, salarua. Cene skurlavenija.myloniju olfes fal fqa?"

"Salarua, Harmae lkurf fal no."


 無線機から声が聞こえてくる。それはスクーラヴェニヤの男性の声ではなく、女性の声であった。


"Mi'd ferlk es jazugasaki.cen."

"Mili plax."


 機械的に対応するような雰囲気で女性は答えた。かちゃりと音が鳴って、環境音のノイズが変わる。


"Salarua, jazugasaki.cenesti, harmie co olfes mi'c."


 声色はあの時聞いたものと全く同じ、丁寧で感情のこもっていない声。スクーラヴェニヤ・ミュロニユ本人の声だと分かった。この際話し始めのお世辞も、世間話も必要ない。翠は単刀直入に尋ねることにした。


"Selene mi qune xancan-daps zu lus fentexoler."

"Firlex, lertasal io letix fentexoler'd fgir pa harmie co lus fgir?"

"Selene mi celdin xalija ad als. Cene mi pusnist elmo."


 答えを聞いたスクーラヴェニヤは押し黙ってしまった。無線から何も聞こえてこないことに少々不安を感じた。自分はもしかしたら異教徒の回し者だと思われているのではないか。そんな感じもした。書類が擦れる音がしたのちにスクーラヴェニヤの声が聞こえた。


"Fentexoler lus......"



 こうして、敵の使う周波数帯を知ることが出来た。味方の使う周波数帯はあらかじめ文章を探して大体理解した。こうして無線に関する準備は整い、出陣式の存在を知ってイェスカと会うという今に至る。

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Co's fgirrg'i sulilo at alpileon veles la slaxers. Xace.
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