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勇者、怒る

二十話です。

ようやくここまで来たって感じです。



ファンタジーあるあるというか、例によってこの世界も電気やガスがない。

まあ勇者だった頃にいた世界もそうだったので、慣れたし余り気にしてはいない。


ではなぜ突然そんな事を言い出したのかというと、この世界ではそれらをどうやって代用しているかに触れたかったからだ。


電気が無いのであれば、どうやって明るくしているのか。

中世ヨーロッパであればロウソクと言うところだが、そこまでお約束ではない。


もう一つのファンタジーあるある、魔物。

それらから取れる血が、ロウソクよりも断然明るくなる上に長く燃え続けるのだ。

そのためこの世界では余りロウソクが普及していない上に信じられないくらい高価なのである。

逆に魔物の血は、傷まないようにする魔法が開発されたおかげで保存が容易になり、ロウソク一本の値段で100回分になるほど安くなっている。


これがどういう問題に繋がるのかというと、単純にそれだけ遅くまで起きていられることになるのだ。

現代日本人ほどとは言わないが、人によっては日付けが変わるまで起きているくらい、就寝時間が遅いのである。


「……それで、何が言いたいんですか?」


長々と話していたら、じれったくなったのか、それとも飽きてきたのか。アルテミシアが結論を急かしてきた。

もう少し語っていたかったが、それは自重しよう。


「つまり、それだけ見回りとか警備が遅くまでいるってことだ。もちろん日付けが変わっても、最低限の警備はいるだろうけどな」


その分朝起きる時間も遅くなるし、人がいなくなる時間の長さだけで言えばそこまで変わらない。


「……まさか」


俺の発言を聞いて顔を青ざめさせるアルテミシア。

問題となることに思い至ったらしい。


「察しがついたか?」

「……私達、夜更かししなければいけないんですか?」

「夜更かし……まあ、そうなる」


いいとこのお嬢様が、草木も眠る時間まで起きていられるのか。

それが今回、一番の問題だ。


「……私、行かなくてもいいですか?」

「諦めるの早えよ!」


考え込むような仕草も見せず、アルテミシアはキッパリと言った。

やけにキリッとした表情で、まさか拒否するとは思わなかったので、俺はズッコケそうになった。


「でも、私戦闘力なんてないんですよ?どうしろと?」


足手まといになる、と遠回しにーーいや結構ハッキリと言ってくる。


俺が追っ手を一人で処理したこともつかえているのだろう、本人も無意識のうちに少し刺々しくなっていた。


「じゃあ置いていくよ」

「……いいんですか?」


あっさり俺が許可をだすとは思わなかったのか、アルテミシアは目をパチクリさせていた。


「全然構わないぞ」


だって、俺は連れて行く方が安全だと思っただけだから。


「自分一人で追っ手も、日常的なことも全部どうにかできるなら。一人で待ってればいい」


アルテミシアは先ほど以上に顔を青ざめさせた。

そこまで考えていなかったのだろう、オロオロと慌てだした。

いい気味だ。


「え、えっと……私が宿にいた時、何かの方法で私のことを守ってくれたのでしょう?またその方法で守ってもらえれば……」

「無理だよ」


だって今回は同行させるからーー俺は心の中で呟く。

追っ手を処理した時、一部始終話したと言ったがあれは少し違う。

あった事は全て話したが、俺がどうやってそれを成したのかは一切話していない。


もちろん、ミファルの事も。


だからミファルの事を、天使と契約した事を匂わせるわけにはいかないのだ。

天使がこの世界でどういう扱いなのか、調べ切れていなかったという事もあるが。


「じゃあどうすれば……」

「好きにするといい。俺は何も言わない」

「……もしかして、怒ってますか?」


オロオロしていたアルテミシアが、ようやく俺の顔を見た。


「どっちだと思う?」

「お、怒ってます……」

「正解」


そして、涙目になった。

そこまで怖い顔をしたつもりはないのだが、それだけ俺の怒りが面に出てしまったのだろう。

わざとやった部分もあるとはいえ、感情をしっかり制御出来ていないとはまだまだ未熟である。


「何で怒ってるんですか……?」

「へえ」


元凶が、面と向かってそれを聞けるとは。

大胆というか、何というか。

これもある意味器が大きいってことだろうか、なんて思いながら俺は答えた。


「そうだな、例えばの話をしよう」

「は、はい?」

「騎士がお姫様を守るために、寝ずに夜通し働きました。追っ手を倒し、その上捕まりそうになったので、寝ていた姫様を連れて寝ずに数時間も走りました。

さて問題です。そんな時、起きた姫様に「私は眠いから夜更かししたくない」何て言われたらどう思うでしょう?」

「お、怒ります」


自分のしでかした事が理解出来たのか、三たび顔を青ざめさせるアルテミシア。

そりゃ寝てない俺に向かってあんなこと言ったら、怒っても仕方ないだろう。


「そうだろうな。……で、何か言う事は?」

「ご、ごめんなさいぃぃ!」


ようやく謝ったか。

傲慢とは言わないが、それでもやはり王族だ。

人の気持ちを察するのが少し下手なように思える。


けどまあ、謝れるところはやはり他の王族とは違う。

最初に会ったのがアグルムではなくアルテミシアだったらどうなっていたんだろうーー何て考えが、一瞬頭を過ぎった。



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