力と力
翌朝。
神将達が、早速私に話しかけてきた。
(昨日は危険な目に遭われながらも、 ご活躍
されたと……)
天一が話す。
(色々探りを入れていた為、 お護りできず
申し訳ありません) 天后が言った。
他の神将達も話しかけてくる。
(油断せぬ様、申しておきました)
お師匠様が静かに口を開いた。
(分かっております。……。以後、気をつけ
ます)
私は皆に向かい、そう言った。
しかし……。
私は直ぐに次の危険にさらされる……。
油断せぬ様気をつけていたのに。
私は邸のはなれで、星を見ていた。
夜、一人静かに空を見上げ、星の動きを
よむ。
と……。
内裏に程近い場所に、紅い光の様な物を
捉えた。
何やらゆらゆら揺れている。
私は急ぎ邸に戻り、お師匠様を捜した。
「いない……」
理由を思い出さぬまま、私は四神を呼ぶ。
(申し訳ありません。 内裏の方角に、何やら
揺れる物がありました。 今から向かいます
ので、 付いて来て頂きたいのですが!)
少し慌ててそう言い、内裏へと向かった。
四神の気配を感じ、夜道を急ぐ。
胸の宝玉を握り締め、紅い物を探した。
しばらく歩き、一軒の古びた破寺
の前に立った。
紅い物があるはずなのだが……。
特に異変も感じられない。
「確か、この辺りのはず」
周りを見回す。
しかし、何もない……。
(見間違いではないのか?) 白虎が言った。
(いえ……。 確かに……)
そう言いかけた時、突然身体の自由を
奪われてしまった。
「う……」
何とか身体を動かすが、全く動かない。
これでは術も使えない。
(楠葉! 今助ける!)
四神達が姿を現し、私を光で包み込んだ。
「何だ! この光は……!?」
どこからともなく、男の声がした。
くぐもった様な低い声。
少し慌てている様である。
「構わん、行け!」
その声と共に、暗がりから一斉に人が
現れた。
四神達は私を護る様に囲んだ。
白虎、青龍、朱雀、玄武。
皆、獣の如くの姿である。
男達は私達目掛け走りよる。
と……。砂嵐が舞い上がり、男達の行く手
を阻む。
負けじと立ち向ってくる。
「これしき!」 一人が砂嵐の前に立ち、
何やら唱え、砂嵐を鎮めてしまった。
「その娘だ! 捕まえろ!」
怒号が辺りに響く。そして男達が私を捕らえ
ようと、手をのばした。
再び砂嵐が舞い上がる。
眩しい光も強まった。
「うわーっ!」
男がひるんだ。
しかし、またも一人が何やら唱える。
力と力のぶつかり合いが続く。
四神達は私を護ろうと必死であった。
そんなさなか、私の身体の自由がもどり、
何とか応戦を試みるが、凄まじい
力の中、なす術もない。
(早くかたをつけろ!)
四神の誰かが叫ぶ。
(分かっている!)
その声と共に、バッと水柱が突然上がった。
私達の前に上がる水柱。
(今のうちに……!)
私達は一斉に走り出した。
後ろで叫び声が聴こえたが、振り返る
事なく邸へと滑り込んだ。
途中、余りにも私の足が遅いとの事で、
白虎の背に乗せてもらった。
邸へ入るやいなや、白虎を始め四神達の
姿が消えた。
私は邸の庭に思わず座り込んだ。
先程の出来事は何だったのか……。
(黒幕の手下共が、 いよいよ本気になって
きた様だな……)
青龍が静かに言った。
(黒幕、ですか……)
(まあ、先程のは手下ゆえ、余り力はない
者達……)
白虎が話す。
と……。
(そう言えば、 水柱の前の砂嵐は……?)
朱雀の声に皆黙り込んだ。
(一度目の砂嵐は俺だ。 しかし、一度しか
起こせない。 水柱の前は俺ではない)
白虎がそう言った。
水柱が上がる前、砂嵐も上がった。
一度目は白虎である。
(では、誰が……?)
何と無く、私へ気配を送る。
(私、ですか……? ですが、そんな
術など……)
戸惑いを隠せないでいると、(何やら
賑やかな様子ですね)
「お師匠様!」
両腕を着物の袖に入れ、にこやかに邸から
出て来て、私の前で立ち止まった。
「お師匠様、 申し訳ありません……」
私はこれまでの事を話した。
「……。 大体の事は、式を通じて見て
おりました。 助けに行かずとも、 まあ
大丈夫であろうと……」
懐から蝶の形をした紙を取り出した。
「ご覧になられていたのですか……!」
思わず大きな声を出してしまった。
「宮中に参内しておりました故、 駆けつけ
る事ができませんでした。
異変を感じ、 式に探らせておりましたが、
大丈夫であろうと……」
力が抜ける思いがした。
お師匠様のお許しなく、勝手な事をして
しまい、危険な目に遭った。
しかし、あれを大丈夫だと判断された
とは……。
「ですが、 あちらも派手になって
きました。 気を引き締めていかねば」
優しい眼差しを向けた。
(四神達もご苦労おかけしました。 しかし、
楠葉の力、 いよいよ花開いてきた様子
とお見受けします……)
やはりお師匠様も、砂嵐の事が気になった
様である。
「私の力、なのでしょうか……?」
「この前もお話しましたが、 主としての
力が解放されつつある……。 それに
より、神将の力も発揮される。 今回の
事で、確信に変わりました。
ですが……。 何度も言いますが、無理や油断は禁物です」
(取り敢えず、 楠葉の力が高まってきた
事には変わりない。 しかし、奴らの
力も相当なもの。 まだまだ足りぬ)
青龍の言葉が胸に響いた。
確かに私の中の力が高まってきた。
それにより、使役する神将の力も伴いつつ
ある。
けれど、あちらも相当なものであろう。
果たして大丈夫なのか……。
複雑な気持ちが胸をよぎる。