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 何もしたく無い日もある。

 ギャロは作業道具の箱を枕に、ごろりと寝転がってその日を過ごしていた。馬車の進む振動が、ガタゴトと硬い枕を揺らす。彼の指先には、美也子が先日作った不細工人形がつまみあげられ、やはり、馬車の振動でゆらりゆらりと揺れていた。

 これを作った妻は、今日は子供たちの勉強を見るため、教室である座長の馬車に乗っている。馬車が止まる夕方までを別々に過ごすのだ。

(やっぱり、美也子に似ているな)

 目の前の人形は不細工だ。見てくれは、愛くるしい美也子に似ていようはずも無い。だが、きゅっと描かれた口元や、それでいて優しい目元など、作り手の気性そのままではないか。

(そうだ。俺は見てくれであいつに惚れたわけじゃないんだ)

 確かに美也子は美しい。醜怪種特有の肌は白く、頭のてっぺんだけに生えた長い髪を掻きあげるしぐさなど、艶やかだ。それに、もう一箇所だけ、彼女の素肌を隠す愛くるしい毛束、そこはギャロだけのものだ。

(っと、いけねえ)

 こういうときに男は不便だ。ギャロは何気ない風を装って、ごろりと横を向く。

(美也子、俺はどうすりゃいいのかなあ)

 彼がここしばらく悩んでいるのは、ギャロリエスの父親から聞いた他の兄弟たちのことである。実はギャロには、三人の弟と一人の妹が居る。もっとも下の二人が生まれたのはギャロが旅座に入った後なのだから、顔すら知らない。所在を教えられたのだから、どこか旅の途中で行き会うことがあれば良かろうとは思う。だが、こちらから無理に会いに行こうとまでは思えない。しかし、すぐ下の弟は別だ。

(あれは、いくつだったんだっけ)

 家を出たときにギャロが5歳だったのだから、弟は3歳だったはずである。いつものように外遊びにいくとでも思ったのか、チトチトと、短い足でついてこようとしていたっけ。あの泣き虫がどのような大人になったのか、ぜひ会いたいと思う。

 ごとん、と馬車が石を踏んで跳ねた。枕にした道具箱の中で、がたり、と音がする。ギャロは無意識に指先の人形を握りこみ、守るように胸元に引き寄せた。

 弟に会いにいくとしたら、美也子は……。

 その弟は、母がギャロから無心した金で高位学校を卒業し、さらに上の研究学程に進んだと言う。現在では王立の研究機関に、魔法の研究者として勤めている。つまり、町で研究者崩れの魔導師など探さなくとも、確実に、空間転移の魔法学者と顔が繋げるのだ。

 もちろん、それ以前の問題はある。実際に対面して見て、その人柄を良く見極めねばならない。何しろ美也子は異界から来た人間だ。うかつに動けば『研究材料』として捕らえられる可能性も無きにしも非ず。

 それでも、あの幼子がそのままの性質で育っていれば、そんな無体はするまいと思ってしまうのは、少々甘いだろうか。どちらにしろ、美也子を元の世界に帰してやるというのはまったくの夢物語、と言うわけではなくなったのだから……

(……なあ、どうしてやるのが、お前にとって一番いいんだろうな)

 不細工人形を指先で弄いながら問う。それでも、答えは見えない。この世には答えまで用意された事柄など、片手の指ほども無いのだ。

だからギャロは、その人形に唇を寄せてささやく。

「ずっと、俺の傍に、居て欲しい」

 そんなのはただのわがままだ。伝えるべきでは無いだろう。

 自分はそんなものよりも強く、彼女を愛している。そして今は美也子の夫だ。ならば妻の幸せを最優先に考えてやるのが務めだろう。

(……そうは思わないか?)

 しかし、内観の声に答えをくれる者など、誰もいなかった。


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