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 その頃、美也子は午前中の授業を終えて、子供たちと昼食をとっていた。膝を陣取っているのはもちろん、座長の娘。

「ミャコせんせえ、これもおいしいよ」

 小さな手が自分の弁当箱からサンドイッチをつまみあげる。実に子供らしい、ちょっと不器用な動きだ。

 その愛くるしい手元を見ながら、美也子は少しだけ苦笑する。すっかり『こっちの世界』の感覚に馴染んでしまったらしい。

その幼子の手は、指先に吸盤をそなえている。皮膚は黄土色でぺったりとした質感が見てとれる両生類のそれだ。もちろん泥の中を這うために使う前足ではないのだから、汚くない事は心得ている。それでも、いくらそういった生き物に嫌悪感を感じないとはいえ、この手で掴んだ物を食べることにためらいがないと言うのは、もはや『あっちの世界』の感覚ではなかろう。

「はい、ミャコせんせえ」

 横長の顔をさらにぺちょっと引き伸ばすような、満面の笑顔。大きな口はかぱっと笑いの形に開く。そんな幼子から手渡されたサンドイッチを何のためらいも無く頬張りながら、美也子は思う。

(かわいい)

 ギャロリエスといい、この子といい、濡肌種の子供は人懐っこいのだ。出来ればギャロとの間には、こういう子を授かりたい。

(子供……)

 昼日向の夢想としては少々はしたないが、『昨夜』を思い出す。寝静まった馬車から二人で抜け出し、闇染めの葉陰に身を隠して、肌をすりあわせたことを……ギャロはひどく真剣だった。美也子を妻として手に入れたというのに、それでも足りないというのか、全てを欲しがるような抱き方をする。それはそのまま激しさとなって、美也子を翻弄し、満たす。

 夢見がちな少女ではないのだから、あれが愛情だけを重ねる行為とは思っていない。それが子をなす生殖行為だと知っていて、妻として夫を受け入れているのだから、いずれ遠くないうちに……。

(ギャロに似た子供だといいのに)

 だが、この世界で異種族の夫婦を観察する限り、子供は母の形質を受け継ぐものだ。屋台の前を、トカゲ頭の子供を抱いた犬頭の父親が通ると思ったら、その後ろからついてくるトカゲ頭の女が母親だと思って間違いない。

 美也子が産む子供は、きっと醜怪種の外見なのだろう。

(せめて、性格はギャロ似だといいな)

 彼のように優しく、繊細であればいい。そして、いま膝に居るこの子や、あの蛙頭の姪っ子のように、おおらかな人懐っこさを持つ子供であれば、どれほど可愛いだろうか。

(一度、きちんと話し合おう)

 子供のことも、これからの生活のことも。そういった現実感あふれる事柄さえ、それが彼と共に歩む未来のことだと思えば、それだけで幸せなファンタジーに思える。

(なんだ、やっぱり私は、ファンタジー好きね)

 久々に夢物語など読みたい気分だ。あとで子供たちに絵本など借りよう。子供にそれを読み聞かせる練習にもなるし、一石二鳥ではないか。

(ギャロと、ずっと、一緒に……)

 だが、それがあまりにも甘い夢想であることを思い知らされたのは、中継地である小さな温泉宿に立ち寄ったときのことであった。


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