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死闘

※流血表現あります。




 ラスアたちを逃したロイグランは鷹の男と向き合っていた。恐らく、この男が一段のリーダーとみて間違いないだろう。

 他の男たちとは明らかに雰囲気が違った。

 三十騎いた男たちはその数を十騎まで減らしていた。更に今リエナシーナの魔法によって二騎倒される。

 残りの雑魚はリエナシーナに任せれば問題ないと判断をしたロイグランは、目の前の鷹の男にだけ集中をする。


「……まさかこれほどの腕だとはな。正直貴様らを見くびっていた」


 バスターソードを構えた鷹の男が忌々しそうに言う。


「そりゃ悪かったな。ま、こっちも商売なんでね。何よりあんな子供を死なせるなんて目覚めがわりいったらねぇからな。邪魔させてもらうぜ」

「不遜な男だ。だが気に入った。貴様名はなんと言う?」

「ロイグランだ。冥土の土産に最高の名だろ?」

「ロイグランか。私は黒の風団団長バゼイド。死後の世界で俺の名を知らしめるがいい」


 互いに間合いを計りながら相手の出方を待つ。

 二人が作り出した緊張が周りを包み近づけば刺されそうなほど張り詰めた空気が広がっていく。

 明らかに他の男たちとは違うレベルを感じさせる男に、ロイグランは昂揚している自分を感じていた。

 自身の血が熱くなり全身を駆け巡る。

 強い相手と巡り会えたときはいつもこうだ。

 どれほど危機的状況に陥ろうと、自分の力を存分に振るえる相手と戦えると言う期待感は彼の胸を躍らせる。

 戦いが好きなのかと問われればロイグランは好きだと答える。昔は自分を苛む飢餓感が彼を戦いへと駆り出した。今はだいぶ薄れたとはいえ、それでもそれは何処かで燻っていて、こうして強敵と巡り会えば戦いたいと言う欲求は膨れ上がり彼を支配した。

 勝負は一瞬で決すると彼は長年の経験からそれを悟っていた。

 緊張が高まる。

 ふいに緩やかに吹いていた風がその動きを止めた。

 ざっと同時に地を蹴り、相手の急所を狙って剣を振るう。

 バストーソードが目にも止まらぬ速さで振り下ろされるのをぎりぎりでかわしたロイグランは勢いを殺すことなく相手の腹を切り払った。

 ばっと腹から血が噴出しバゼイドの体がゆっくりと地面へと倒れこむ。

 それを趣味の悪い喜劇でも見ているような気分でロイグランは目で追った。

 ヒューヒューとかすれた息がバゼイドの口から漏れる。腹からどろりとした赤が流れ出し周囲の緑をどす黒く染め上げた。


「……行け、俺の、用は、もう、すん、だ」


 バゼイドの傷は深くそして仲間がいないこの状態では助からない。そのことを十分理解していた男は潔く己のプライドを保ったまま死ぬことを選んだ。

ロイグランはそのことを感じ取ると、無言で踵を返した。


「終わった?」


 敵を全て倒したリエナシーナが近づいてきてちらりとバゼイドに目を向ける。


「ああ、そっちも片付いたみたいだな」

「うん。だけど完全にラスアたちは見失ったね。今からじゃ追いつくのは無理だろうし」


 ラスアたちは馬で逃げたのだ。いくらロイグランたちでもそれに追いつくことは無理だった。


「まあ、ラスアのことだから心配はねぇだろ。王都に向かうように入ったからな。道さえ間違えなけりゃ馬なら明日には着く」

「そうだね。…ディーグに連絡を取ってから私たちも王都へ向かおう。もしかしたら途中で待っているかもしれない」


 そう言うとリエナシーナはロイグランの返事を待たずに呪文を唱え始める。

 おそらく連絡が取れたディグラムから盛大な嫌味を言われることは間違いなく、ロイグランは重たい溜息を零したのだった。






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