14話 弱者は救うので大丈夫!
「ハイホーハイホー、仕事が好き」
久し振りの馬車の旅、それもアイツがいない。
何と甘美な響きであろうか……そう、何をしようにも制限してくる馬鹿妹がいないのだ。クロムや回顧の剣が馬車内にいるとはいえ、自由に外へ出られるという事実は最高の暇だ。そのために全て俺の作った物で出た訳だし。
仮に生き物ならばアリスの監視が入る。
他所から購入した物であればフィアナに何をされるか分かったものでは無い。だから、馬は俺の魔道具だし、馬車にも軽く手心を加えている。仕事というのは俺を籠の中から出してくれる最高のものだ。社畜というものはよく分からないけど好きで仕事をしていても問題は無いだろ。
「あまり聞きたくない歌だな。アタシは仕事なんて大嫌いだぞ。休めるに越した事なんてないんだからな」
「なら、代わりにアリスに来てもらうか」
その言葉を聞いて分かりやすく固まった。
ってか、兜を取っても気が付かないだなんて本当に驚いているんだな。単純な冗談だっていうのに分かりやすく表情を変える妹だ。……それに本当に皆、綺麗な顔をしているよな。クロムなんて特に俺が好きだったキャラクターに……って、おっとっと。
「なんで……そんな酷い事を言うの……?」
「……俺の好きな歌を否定した罰だ、バーカ」
赤髪短髪で吊り目……それに上目遣いとは。
それをされてマイナスな感情を持たない俺なんて何処にもいない。そう、俺からすればノープロブレム。全てを受け入れたい俺からすれば完全なる保護対象……普段は他者を守る盾が俺には弱音を見せるとは最高のツマミだ。って事で、頭を撫でて気持ちを抑えておく。
「それよりも……いや、いいか」
「ああ、どうせ、すぐに終わるからな」
馬車は止めてやった。後は他が……。
って、なるほどな。皆は先に脅威となりそうな敵を狩りに行ったのか。確かに回顧の剣の面々なら瞬殺出来るだろうに……アレ、待て待て、何かおかしいぞ。普通なら分かれて撃破と救助に回る動きのはずなのに……。
「……んで、向かったのは魔物の群れにですかい」
「あの子達からすれば良いところは主様に譲りたいという思いがあるのだろう。確かに彼女達は強いが基礎を育てたのは」
「やめとけ、無能が霞む」
とはいえ、確かに見栄えは良い方がいいか。
俺がどうかというよりは……勇者パーティーが困った人を救ったという方が見栄えが良い。面倒だから適当に仮面を出してっと……はぁ、本当に息苦しいんだよなぁ、コレ。まぁ、文句なんて言っていられないんだけどさ。
「教典解放……力を貸せ、ヌンキ」
「悪ぃが! 先に行くぜ!」
「撃ち抜け、サウザンドアロー」
左手の薬指の指輪、魔道具の名前はヌンキだ。
これ単体ではあまり強みは無いが……実態は他の魔道具との連携が強力である点だろう。特に今、俺の真横で開いている本の魔道具『教典』とは一際強い連携がある。教典の一番の強みは全ての武器や魔法を創造出来るという能力だ。
ただ、これを使用するという事は……。
「さて、俺も行くとするか」
「……え? 誰?」
「フルガード」
教典の補助によるヌンキの変形、大盾。
能力は後方にある全てを防御するという能力を与える事が出来る。とはいえ、後方に限定されるのが本当にネックだ。そのせいで死んでいない兵士達を集める事になったんだぞ。その借りくらいは目の前の魔物共に返してもいいよな。
「フルカウンター」
「矢を全部……何、これ……!?」
「合わせるぞ! 主様!」
俺の放った矢をクロムと俺とで弾き返す。
その間にいる魔物は仮に避けようとも当たった瞬間に死ぬからな。問題は……目の前にいる魔物が想定よりも高レベルなところか。おかしい話なんだけどなぁ。だって、道路に近い場所に湧いてはいけない魔物が目の前にいる。
「オーガ・ジェネラル……S級か」
「まって! 助けてくれたのは嬉しいけど!」
「さっさと死ね、ヘルブレイク」
外野がうるさいな……こんな雑魚相手に。
無能、それはステータスだけの話だ。持っているスキルが扱えないだけに過ぎない。なら、それを発動出来るようにすればいいんだ。その手助けは俺の仲間達がしてくれた。皆の足元にも及ばない雑魚に遅れを取れる訳が無いだろ。
「残心剣」
「何……アレ……こんなの……!」
「これが本来の、我等が主様だからな」
「俺の前に立つ敵は殺す、それだけだ」
居合の抜刀、その刃が無数になるだけだ。
単純に俺の間合い範囲外に入ればいい。それが出来ないのならば容易に切り刻まれて終わりだ。少なくともフィアナなら容易に出来た事だぞ。クロムなら簡単そうに弾いて終わらせていた。この程度の斬撃で潰れるようなら……俺の妹なんて名乗らせていない。
「さて……誰も死んでいないかな」
「……この惨劇を見て誰も」
「ああ、死んでいないな。だから、来た」
こんな事で左の魔道具は使いたくないんだけど。
それでも……身なりは全員、悪くない点からして救っても問題は無さそうか。特に生き残りのような目の前の金髪ツインテドリルは在り来りといっていいだろう。なら、どちらにしてもしていた事だけど済ませておこうか。
「全回復」
「……え? どうして……?」
「死なれたら困るから、だと駄目か」
ぶっちゃけ、必要がどうかはどうでもいい。
俺からすれば……俺の妹達に助け舟を差し出してくれる人達が多ければそれでいいんだ。だから、分かっていて突き放すように口にした。なのに、そんな顔をするなんて想定していなかったな。
「勇者は弱者を助けるだろ。だから、来たんだ」
「……そっか、本当に……いたんだ!」
少女はただ俺の胸の中で大声を上げて泣いた。
それだけで俺には良かった。俺と同じ年くらいの子が頑張って作り出した牙城を崩してみせたんだ。それだけで他なんてどうでも良い話だろう。だって、この子は既に……ううん、俺の口から言うのは酷な話か。
「助けられてよかったよ」
「うん……ラディナは頑張ったんだ!」
「大丈夫、少しだけ休んでいておくれ」
とりあえず、催眠だけかけておいて視線を戻す。
クロムを含めて皆が目の前にいる弱者に何をするか分からなかったからな。この子達は間違いなく俺の大切な指になる。それを先に折ってしまっては咲き開く花が桜かクローバーかも分かりはしないからね。
「俺の邪魔をするな。するなら……いいな」
「……わーってる。今更、言わないでくれ」
「他の者にも言います故、どうかそれだけは……」
そう、それで済むのなら別にいい。
敵になるのなら殺すだけ……その先は何も敵に及ぶ事ではないからね。許すからこそ、首を取られたバカがいた。自身の能力の高さから他者を上手く扱い切れると思い込んだ人間がいたんだ。確かに優秀だったと俺も思っている。でも、覇王や魔王と名乗った先はどうなったのか。
俺は……妹の先を乱す者は誰も許さない。
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