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13話 無能だけど大丈夫!

「で、引き受けた、と。それって安請け合いじゃないの」

「いいや、隠れてやるか、表立ってやるかの違いがあったくらいだからさ。どちらが良いかと聞かれれば今回の状況の方がベストだったと思うよ」

「ふーん、まぁ、そこら辺は私には分からないから別にいいけどさ。そういうって事は……かなり酷い状態なの」

「下手をすればカイリでも死ぬよ。それくらい」


 そこら辺の説明はした事あったんだけどなぁ。

 まぁ、いいや。どうせ、説明してもまた忘れられるのが目に見えている。覚える教科は得意だったけど、応用が必要な教科は嫌いだったもんな。適当にBGM代わりにでもして作業の続きでもしようか。


「……無視?」

「別に、甘えたいのかと思っただけ」

「何それ……まぁ、お言葉に甘えるけどさ」


 うんうん、聞き分けの良い妹は大好きだよ。

 下手に話しかけられるより肩に頭を置かれている方が楽でいい。話す方が割くリソースが大きいからね。意外とダンジョンコアの作成って簡単では無いんだよ。特に書き込まなければ行けないデータが多いせいで時間がかかってしまうし。


 そうそう、だから、多少の事は我慢しないと。

 頭を膝に置いたところで大した問題は無い。チャックをカチャカチャしようと気にしても無駄だ。どうせ、その次の段階はイヴリンには出来やしない。……って、待て。何で俺の首に噛み付いてくるんだ。何回もキスしては噛んでを繰り返してきて───




「え、キレていい?」

「んー、無視するのが悪い!」

「なら、甘えてくるなよ」

「それは……うーん、悩む案件ですな!」


 コイツ……マジで仕事終わったら覚えておけよ。

 その柔らかい頬を無限に正反対に引っ張って戻してやる。何度も何度も頬が赤く晴れ上がるまでやってやるからな。本当に覚悟しておけよ……これが失敗したら下手すれば皆、危険な目に遭うかもしれないというのにさ。


「ほら、合成完了だ。かなり素材を使ったけどな」

「ぶー、そういう嫌味口調は嫌いだよ」

「そうか、本当ならもっと早く終わったのに、ね」

「でも、私といられてリラックス出来たでしょ!」


 そんな馬鹿げた自信はどこから湧くんだ。

 ただ、否定出来ないのも事実か。少なくともダンジョンコアの合成のためには俺とカイリの魔力が無ければいけなかったし、減らず口を叩きながらも魔力制御の手伝いをしてくれていたのは流石に分かっている。


「全部、終わったら……二人で旅行でも行くか」

「……嬉しいけど駄目だよ。私は」

「俺の妹だろ。他に何かあるのか」


 だから、俺は無駄に名声を得るのが嫌なんだ。

 どれだけ嫌なものを見ようと、どれだけ苦痛を体感しようとも……内面は死んだ時の高校生のままだからね。本物の大人がなんなのかも分からないまま、俺達は大人の真似事を強いられている。勇者なら尚の事だろう。


「逃げるのが悪いなら俺は兄失格だな」

「ううん……やっぱり、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」

「なら、二日くらいなら休みは取れるだろ。他にも勇者候補がいるのに何も出来ていないのが悪いからな。大きな口を叩くのなら働かせてみても悪くは無いだろ」

「うげぇ……さすがは性格の悪いお兄ちゃんだよ」


 いや、普段から愚痴を言っていたお前が言うか。

 やれ東の勇者はどうだの、西はどうだの……それが事実だとしても言ったらいけない事だってあるだろうに。プロパガンダで担ぎ上げられた勇者と本物に差があるのは当然の事だろ。少なくとも俺達は俺達だけで実績を積み重ねてきたんだからな。

 俺の妹は間違いのない、本物の勇者だからね。

 休みなく働き続けて、東奔西走なんて言葉が生易しくなるような移動を毎日のように続けている。その度合いで言えばフィアナですらも着いていけない程の速度だからね。それを理解している俺が生半可に旅行だなんて言う訳が無いだろ。


「全てが終わるまでに考えておけばいいよ」

「天井のシミを数えている間に終わる?」

「うーん、下ネタにしても古いな」


 しかも、妹に対してそんな事する訳ないし。

 確かに俺が言うのも何だけど、コイツはトップクラスに可愛いだろう。俺との性格の相性だって最高に良い。何かを考える前に察して動いてくれる優しさだってある。でも……前世とはいえ、本当の妹に対して何かをする気にはなれない。


「お兄ちゃん……私、女の子になりたかったな」

「女の子だろ。勇者なんて他者が勝手に与えた希望の象徴でしかない。それに応えるかどうかはカイリが決める事だし、守るべきものが何なのかはカイリの意のままにすればいい」


 ジョブシステム、夢の無い最悪な習わしだ。

 日本にいる時は自分なら何になれるのかと心を躍らせていたが……それは無いものだから面白く感じられたもの。この世界に産まれてしまってはただの鎖にしかならないだなんて体験しなければ考え付かないよな。


「だって、俺の妹は最強の女の子だからな!」

「なにそれ……もう、そう言われたら頑張るしかないじゃん。私は……勇者じゃなくてお兄ちゃんの妹なんだからさ」


 振り向く妹の顔はすごく綺麗だった。

 もしも、記憶が無ければ今すぐにでも連れ去っていたと思える程には見蕩れている。だから、俺は駄目だと理解しながら抱き締めた。静かに頭に手を置いて優しく撫でる。杞憂が杞憂で終わるように願いと祈りを込めて、静かに……。




「……ワガママ言ってごめんな」

「仕方ないよ。それが……お兄ちゃんの役目だって理解しているから。本当なら私がしなければいけないのに出来ないから……だから、謝るのは私の方だよ」

「いいや、無能な俺に与えられた掛け替えの無い役目だから気にしなくていい。それに人には向き不向きがあるって何度も言っているだろ。俺の不向きをやってくれているんだ。気にされる方が面倒臭い」


 俺は……人目に立つのが本当に嫌いだ。

 アンガーマネジメントなんて言葉があるが、そんなものに何の価値や意味があるのか分からない。特に御貴族様は理解せずに俺の気分を逆撫でしてくるからな。何回、影でぶっ飛ばしたか覚えていない程だ。だから、そういった事は全てイヴリン達に任せている。それが果たして簡単な事だろうか。


「明日からはクロムを借りるよ。問題はあるかな」

「特に無いよ……ただ」

「ああ、回顧の剣を護衛に置くよ。元より少しだけ遠出したい理由があったんだ。場所も場所だから手勢は多くて損は無いと思うし」

「いいけど……絶対に守ってね」


 それはどういう意味で言っているんだろうな。

 守らなければいけない事が多過ぎて何を指しているのかすら分からない。だけど、そんな事を素直に言えば皆が不安になってしまう。それだけはゴメンだからな。弱かろうと俺は俺の役目を担うしかない。


「大丈夫、お兄ちゃんに任せろ」


 無能で結構、無能に出来る事をやるだけだ。

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