第110話 別人
「おい……起きろ」
揺り起こされる感覚。誰かのゴツゴツした手がアタイの背中に触れる。
殴られた痛みが和らいでいく……いや、もう完治したかな。
目を開けた。外がぼんやり見えた……雪が降ってる。どうやらアタイは少し湿った茶色い板床で倒れてたみたいだ……
そしてアタイを見下ろしている龍が1人。
「……やったのか?あいつは?」
花斬竜アテネは火龍ラヴァへ問いかける。
目の前の赤い龍は何も言わずアテネへと手を差し出す。
少し息を吐くとアテネは差し出された手を掴みにかかる。
アテネとラヴァの手が触れた瞬間ラヴァが驚きの声を出す。
「……!! 汝は龍神の免疫か!?」
あれ?何だい、この喋り方……
妙に落ち着いているしどっかの爺のようだね
「あんた、誰だい?」
雰囲気も違う……見た目に変わりはない。
「我の名はジエンド=アルバーン……龍神の炎だ……分かるか?」
と威厳たっぷりに豪語する。
「いや、知らないね」
「何故だ?共に闘った仲であろう」
ジエンド=アルバーンと名乗る赤い龍はガッカリしたように肩を落とした。
共に闘った。ねぇ……
「あぁ、確かに闘ったよ、だけどアタイが一緒に闘ったのはあんたじゃなくて、火龍ラヴァって奴だよ」
「誰の事を言っている?」
なんであんたはラヴァの事を知らない?
……アタイが倒れている間にラヴァに何かあったのか?
だとしたら別の誰かがラヴァに取り憑いている?
"取り憑く"竜技が存在する可能性は充分にある。
何故なら、霊霧竜アストラルが住む、薄暗霊峰の山岳地帯に住む人や龍が自分の身の危険を守る為に物体に魂を移し変える。
そんな竜技があるって聞いた事がある。
もしこの"取り憑いている"という事が"悪い状態"だというのなら。
アタイの"竜技"で治せるはずだ。
「阿葉露離鈇」
アテネは花の剣を生成した。
「どうしたのだ?傷を治してくれるのか?」
「あぁ、そうだよ、どうやらレズァードは退けたようだね」
ついでに取り憑いてるのが治るかも確かめる!




