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竜技の師と弟子  作者: 鷹城
第4章 封刃一族編
106/112

第106話 vs封刃主天 鋼拳龍レズァードその3

 

 左腕が消えた……時期に我のこの身は灰になる。


 痛みは無い、死ぬとはこう言う事なのだろうか?


 畳は滑る。まともに走る事も出来ん。この距離ならば床を蹴り花斬竜(やつ)に接近する事も容易い。


 だが、畳は滑る。



 我は灰になる。花斬竜(やつ)の言う通りに。


 鋼拳龍こうけんりゅうレズァードは腰を落とし右手を床につけた姿勢で滑りやすい畳の上から動けずにいる。


 対するアテネは花の剣を握りレズァードの動きを警戒していた。


 レズァードは顔を俯かせる。


 この状況で我が勝つには?


 灰になり続けている右腕がそろそろ肩の根元まで迫ってきていた。


 レズァードはその時湧き上がる力を感じた。それは彼自身が知っている感覚。まだ残された勝機。


 加えて灰色の龍の眼下の横に積もる灰。


「……!」


 アテネの思惑通りレズァードは動いた。まだ残っている片腕で灰を勢いよく叩きつける。



 目眩しか!この煙の中でアタイに近づく為の!


 レズァードが立てた煙は思った以上に周囲に展開され一瞬でレズァードの姿を煙の中へ消した。


 来る!こっちから仕掛けんのはまずいな! 奴は今待ち伏せている!もしくは煙に紛れての奇襲! どっちかだ。


 アタイを殴ればそれで終わりだからな。絶対に当たっちゃダメだ!


 奴が灰になるまで不用意に近づけない。


 数秒経ったところで周囲を警戒していたアテネは思い出す。


 まさか!? これは!?


 やはり攻撃に転じるべきだった……そう思うが時はすでに遅かった。


 アテネは何よりも竜技りゅうぎを封じられる事を警戒し、レズァードの攻撃を受けずに灰になりきるまで相手の攻撃を凌ぐ事が最善だと。


 そう思っていた。


 レズァードが灰を目眩しの代わりに煙を立てた理由は2つあった。


 1つは煙に紛れてアテネに接近し殴下龍(おうかりゅう)掌撃(しょうげき)を叩き込むこと。


 レズァードとしてはアテネが煙の中へと攻撃を仕掛けてくれた方が好都合だった。

 レズァードにとってアテネの反射速度は脅威ではなく隙を突きやすいからである。


 もう1つは力を貯める時間がほんの少し掛かるがこちらの方がレズァードとしては有利な方向へと運ぶ安定の攻め方。


 そして、アテネの行動はレズァードへと近づかないという結果だった。


 レズァードはもう1つの方法を必然的に本能的に選ぶ。


 足を上げそのまま踏み下ろすと地を揺らし、貪欲に勝機を狙う。


 再び与えられた権利、無駄にしてなるものか!




威身電震いしんでんしん



「くっ!」



 早く、早く治さねぇと!


 アテネは威身電震いしんでんしんによって麻痺した体を治そうと阿葉露離鈇アヴァロンリーフを生成する。



 しかし、先程と変わらず生成は遅い。



 畳は、滑る。全部がそうだ、ここにある全部。おそらくだが。


 ならば、無理に足に力を入れずとも良い。


 力を抜き全力で滑ろ。


「……くっ!」


 レズァードは動きづらい畳を滑った。足に力をいれず、その勢いを利用し、アテネへと接近する、失った左腕の力の分まで右腕の拳に力を込めて。


 今打てる最大限の殴下龍(おうかりゅう)掌撃(しょうげき)を放つ!


「ハァッ!」


 アテネは吹き飛び、廊下にその身体を引きずらせる。


 判断が遅れた、そう思うのも束の間殴られた頰から脳天まで衝撃は伝わり、痛みだけが黄緑色の竜の思考を支配する。


 和室を支配していた、数多の花は衝撃の風に揺られ宙にその花びらを散らせる。


 そしてその一つ一つが色を失い深い茶色の様に染まり。



 次第に全て枯れた。


 それと同時にレズァードの肩から落ち続けている灰が止まった。


 どうやら、死は免れたようだ。



「てめぇ!」


 枯れた花が散らばる部屋にもう1人の猛者もさが勢いよく接近してくる。


 火龍ひりゅうラヴァは飛び上がり垂直に炎の刃を振り下ろす。


 レズァードは自身の拳の骨が砕ける感覚を感じた。


 先程アテネへと繰り出した一撃の反動は重く、丈夫な丸太の腕をしていようとも、さすがに負荷が大きすぎたようだ。



「ウォォォ!」


 レズァードは低い漢声かんせいを轟かせ気合いの拳を時炎怒ジエンドに迎え撃つ。


 でなければ押し負けると灰色の龍は悟った。自身の身体を壊してまで闘わんと武人の魂は久方ぶりに湧き上がる喜びに身を委ね、闘いに全神経を注いだ。


 その勢いもあったのか、はたまたラヴァの身体の限界が先に来たのか、


 遂に拳はラヴァの時炎怒ジエンドを打ち壊しラヴァの懐に会心の一撃を与える。


「ぐぁぁぁっ!」


 ラヴァはあまりの痛みに懐を抑えその場へと倒れこんだ。





 一室から離れた廊下に倒れるアテネは、痛みに耐えかねてやっとの思いで、身体を治そうと竜技りゅうぎを発動しようとした。


 その感覚は初めてだった。


 生成しようとすると逆に何も出ない……まるで最初から何も出来なかったかの様な……


竜技りゅうぎが使えない!」




「ぐぅぅ!」


 震える手でラヴァが生成する火の刃はマッチで起こした様な頼りない小さい火だった。


 ダメだ!くそっ!


 その眼前に見える灰色の鱗が生えた足を見上げれば冷徹に睨みつける視線が絶望を思い起こさせる。


「諦めろ、もう貴様らは"重傷じゅうしょう"だ。竜技りゅうぎはもう使えんぞ」







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