第104話 vs封刃主天 鋼拳龍レズァード
垂直に振り下ろした時炎怒を鋼拳龍レズァードが丸太の様な腕を交差し受け止める。
両者は睨み合い力で押し合う。
僅かに力が勝ったのはレズァードだった。
「くっ!」
両腕を解放し炎の刃を弾き飛ばしたレズァードは通路に面している襖を火龍ラヴァごと押し破って広間に躍り出る。
ラヴァは何とかレズァードの接近から逃れ広間の畳の奥まで転がった。
レズァードは自身の背後に殺気を感じ後ろを振り返った。
そして、辛うじて瞳の隅に映った凶刃から軌道を直感で予測し、灰色の鱗が特徴の右手で床の畳を叩き、それを軸にして自身の体全体を左方向へと飛び込む様に避ける。
「ちっ」
花斬竜アテネが垂直に振り下ろした紅鉄の剣は畳へとめり込んだ。
「背中を狙うか、卑怯者め」
「卑怯? アンタだって卑怯だろ? アタイの竜技に"傷"を負わせやがって」
「ふん、"傷"を治せる者が何を言っているのだ、貴様こそ卑怯ではないか」
その言葉を皮切りにアテネは畳に埋まった紅鉄の剣を抜き取り正面に対峙するレズァードへと右下から左上に切り上げる。
レズァードは後ろに引きその剣を避ける。
「遅い!」
そしてその隙に引いていた右の拳を突き出そうとした同時に
アテネはその瞬間剣を天井へ投げた。
「何!?」
レズァードが突き出した拳は問題なくアテネの腹部に当たり、アテネの竜技、身体、双方に"傷"を負わせ、後ろへと吹き飛ばした。
レズァードは天井へと投げられた剣に何かがあると察した。
その予想通りだった、天井にある剣が樹木へと変貌し尖った刃物の様にレズァードへと向かっていく。
「ぐっ、貴様!」
レズァードは見落としていた、後ろへと避ければ当たらないと思われていた天井からの樹木の刃は陽動だと気付くのが遅かった。
アテネが使用する、薔薇の剣は突き刺した所から刃の如き鋭さを持つ樹木を咲かせ操る竜力。
そう、アテネが先ほどレズァードの背中へと振り下ろした畳から下の階の天井に這わせる様に樹木をレズァードの背後の畳から突き破り狙っていた。
アテネは少しよろめきながら立ち上がる。
「レズァード、アンタの言う通りアタイは卑怯だ、そこ以外"傷"は負わないと本能的に思ったみたいだ、でもどうだい? 弱いアタイから受けた傷の具合は?」
アテネが樹木の刃で突き刺したレズァードの血が滲み出る右肩を抑えレズァードは言う。
「何を言う……どんな奴だろうと敵の弱い所を狙うのは当たり前だろう……当然の権利だ」