第103話 共闘
アタイが敵わなかった敵に力で押しかった……
背丈も体躯も段違いの格上相手に!
こいつは押し勝った!
遠のいた意識をはっきりさせた花斬竜アテネは目の前にいる火龍を呆然と見ていた。
「アンタ……一体」
アテネは不思議で不思議で仕方なかった、封刃一族同士が闘っているという光景を見る事になるとは思いにもよらなかった。
「ハァ……なぁ……!」
目の前の振り返った赤い龍はアタイに何かを言いかけた……だけど突然倒れやがる。
「なぁって、何だよ!ちゃんと喋んなきゃわかんねぇだろーが!」
ちっ! しょうがねぇなぁ……治すか?
いや!待て!あの封刃一族だぞ
アタイの故郷を見境なく襲いやがった、クズ野郎共と一緒だ!
本当にいいのか? アタイがそんな事をして! アタイは三重の美芸だ!封刃一族を滅する為にアタイはいるんだ……
いやそうじゃなかった……滅する為じゃ無い……何熱くなってんだよ!アタイは……そうだ……シャーレアが言ってたな、三重の意思は強制ではない……その意思に背いたとしてもアタイ達には何も起きないと、くだらない洗脳だって……
アタイはどうしたい?こいつを、少なくともこいつはアタイを……
間違いなく"守った"
それはアタイを利用する為か?アタイの竜技を何かとんでもない事に利用しようと企んでやがんのか!?
(頼みがある、リィラを助けてくれ!)
そこまで考えてアテネはラヴァに言われた言葉を思い出す。
そうか……こいつは誰かを助ける為にアタイを探していたのか……守るべきものがいるんだな……どんな奴とも知らないアタイをわざわざ探しに来てまで……賭けて来たんだな
あーあ、しょうがねぇなぁ……治すか。
奴に"傷"を負わされたアタイの竜技でどれぐらい治せるか……
アテネは倒れるラヴァに屈み込むと右手に螺旋状に連なる様に積み重なった、赤、青、黄、緑、黒、白の様々な植物で生成された剣を床に突き刺した。
「阿葉露離鈇」
倒れるラヴァの周りに花の剣に付いている物と同様の花が次々に咲き始め、その一つ一つの花が発光する黄緑色の花粉を放ち爽やかな香りと共に癒しの空間を作り出した。
それから数分たち、ラヴァは閉じていた眉をピクリと動かし目を開ける。
目を開けたラヴァの視界に疑わしい目を向ける黄緑色の龍が立っていた。
***
我が力で押し負けるとは……
亀裂の入る木の床に叩きつけられた灰色の龍は瓦礫の山から手を出した。
左肩に手を当てると血が流れていた……
この感覚は久しぶりだった。
時炎怒王だと!? なんだったのだ!あれは!
聞いた事がない、我が竜能に対してここまでの威力を出せるとは……
灰色の龍の竜技 殴下龍掌撃は、竜技を殴ることで竜技に傷を負わせることが出来る、そのダメージは竜技使用者の体力に応じて変動する。
"傷"を負わせた竜技は基本的にはその性能を低下させる、体力が少ない物であれば数日 竜技使用不可まで陥らせる事も可能である。
そして灰色の龍が持つ竜能の我止は相手から受ける竜技の効果を受けず、傷も受けないというものである。
灰色の龍は過去に力試しで時炎怒の使い手と闘ったことがあった、確かに時炎怒は我止を打ち消し灰色の龍に当たった。しかし、頑強な肉体に傷をつける事は一切なかった。
それ故に灰色の龍の心を動かした。
幼き頃に感じた、強者との闘い、緊張感、封刃一族としての喜びを。
その感覚は久しぶりだった。
灰色の龍は二階へとその足を急かせる。
***
「借りは返したからな」
やっぱアタイには無理だ……こいつを治すだけでも充分罪だよ。
「待ってくれ、頼む! リィラを助けたいんだ!」
火龍ラヴァは必死に立ち去ろうとするアテネを引き止める。
「なら、アタイにまた借りを作るんだ、それなら考えてもいい」
借りだと!?くっそ!さっき俺気絶しちまったから……治してもらったのに、またさらに治せだなんて言えねぇ
やっぱ敵なのか、こいつは……味方じゃねぇのか
ここまで、来たんだ!絶対に逃せねぇ!
俺がリィラの味方なら!敵だろうと関係ねぇ!頼むしかねぇ!
「待て!貴様ら!」
言い争う2人を更に呼び止める声。
「あいつか!?」
「またアンタか!」
「そこの貴様!先程の技は全力ではあるまいな?」
灰色の龍はラヴァに問いかける。
「何言ってんだあれが全力だぜ!」
「……そうか、ならば我が負ける事は無いな……貴様、名は何という」
「火龍ラヴァだ!」
「そうか、我の名は鋼拳龍レズァード……確実に貴様を倒す、我が竜技 殴下龍掌撃で!」
レズァードは足を踏み鳴らし両手の握り拳を構えた。空間を震わせるほどの威圧感が広がった。
「ラヴァ、アタイに借りを作るなら今だよ」
「……アテネ?」
「アタイに勝てなかったアイツをアンタが倒せば借りみたいなもんだろう? まぁアタイも戦うけどね……やられっぱなしじゃ満足いかないから」
「あぁ!わかった!頼むぜ!アテネ!」
「時炎怒」
「阿葉露離鈇 薔薇の剣」
火龍は燃える刃を花斬竜は紅の鉄の剣を両手で待ち構える。
次の瞬間眩い炎閃、飛び散る花、俊足の殴蹴が交わう。