第9話 傷痕と2つの魔力
ソシアさんが長々と解説してくれますが、要点は①②③とか書かれた辺りになります。
目を閉じ、俺の体の魔力の流れを調べてくれていたソシアさんが目を開くとこう言った。
「当分の間は魔力の使用はおやめ下さい。命に関わる可能性が有ります」
……俺の傷はそんなに危なかったの?
「俺の体はどういう状態なんですか?」
「……それがよくわからないのです」
「よくわからない?」
「はい。よくはわからないので事実と私の推測等を順を追って説明します」
「お願いします」
「まず、私が魔力感知で感じたのは2つの魔力です」
「2つの魔力?」
「はい。人間には必ず魔力が宿りますが、その魔力はドラゴニール家のような例外を除けば、1人につき必ず1つです。ドラゴニール家以外で魔力を2つ持つ人間は基本的にはありません」
「……ドラゴニール家が魔力を2つ持つ理由はなんですか?」
「失礼しました。ドラゴニール家全てではなく、ドラゴニール家当主と次期当主はということです」
「なぜ当主だけ?」
「ドラゴニール家の当主になるものは、ドラゴンとの双子で産まれるらしいのです」
ドラゴンと双子? どういうことなんだ? 人からドラゴンが産まれるのか? それともドラゴンから人が産まれるのか?
「出生についての詳しいことはわかりませんが、人から双子としてドラゴンと人間が産まれ、その双子のドラゴンと共に生きるのがドラゴニール家当主だそうです。そしてそういう特殊な産まれからか、ドラゴニール家当主となるものはドラゴンと自分、お互いの魔力を分割して所持し、それを自由に供給しあえるそうです」
なる程。産まれながらにしてドラゴンと自分の魔力を持っているから、例外的に2つあるということか。
「そしてその感じられた2つの魔力の強さですが、片方が並の魔法使いの半分程度、そしてもう片方は、並の魔法使い数十人分から100人分の間くらいだと思います」
「数十から100人分!?」
「強い方の魔力は私の魔力と比べようがない程に強大なので、最低30人分最高でも100人分には届かないくらいかと、かなり大まかな試算です。人が計測器機などを使わず測れるのは、自分からある程度近い位置に有るものまでです。
例えば、魔力量を高さで表すとします。一般的な魔法使いの魔力量が森に生え並ぶ木とすると、私はその中で1・2を争う巨木です。ですから大抵は上から見渡せるので、ある程度正確に解ります。ただ私はあくまで森にある巨木でしかないので、遥か空の上を流れる雲の高さなんて分からないのです。そしてこれほど強大な魔力は、四大公爵家のアルベド様くらいしか私は存じません」
強い魔力と弱い魔力の2つがあり、強い方は四大公爵家のアルベドと言う人に匹敵するくらいに強大だと……レッドリバーにドラゴニールにアルベド……3つ目の四大公爵家か
「話を続けます。先程言ったように、魔力を2つ所持するのはドラゴニール家当主しかいないはずですが、ドラゴニール家次期当主はまだ10代の男性で、ジェリド様とは別にいらっしゃいます。仮にダニエル様の奥様が、ドラゴニール家の方であっても、基本的には当主の妻から当主は産まれると聞き及んでおりますし、ドラゴンと双子で産まれるのは当主1人とのことですので、ジェリド様は除外されます。これまでの話を説明を省いて事実だけを整理し、要点だけ纏めて話します。
①人間は強弱はあれど1人1つの魔力を持ち2つはない。
②ドラゴニール家当主のみが2つの魔力を持つ。
③片方は並以下だがもう片方は桁外れ。
④ジェリド様はドラゴニール家の当主ではない。ここまででが事実の確認です。質問はございます?」
ドラゴニール以外の人間は、必ず1つしか魔力を持たないが、俺はドラゴニールではないし片方は弱いがもう片方はの魔力は規格外。
「……なら俺は一体何者なんですか?」
「ここからは推測になります①②④の事実が有るため、ジェリド様もお気付きのようにジェリド様が2つの魔力を持つことに矛盾が生じます」
「はい」
「ですので、弱い方の魔力はジェリド様の魔力ではないのだと推察します」
「僕の中にあるのに僕の魔力ではない……ですか?」
「そうです。ジェリド様は、キルヒアイゼン辺境泊家メイドのリリアーナ氏に、この風穴が空いていたという傷痕の治療をしていただいたとお伺いしましたが、お間違えないですか?」
「はい。少なくとも私は起きたとき、辺境泊にそう伺っています」
「この傷痕……背中に貫通した痕は無いので、貫通迄はいたらなかったのでしょうが、おへその少し上に私の拳くらいの大きさの風穴が空いていたとして、臓器や神経に損傷がないなんてことがあると思われますか?」
「……ありえないと思います」
「同感です」
「それと、リリーが傷を負った日には臓器を修復して穴を塞いだと言っていました」
「そうだとは推測していましたが……ジェリド様といいリリアーナ氏といい……辺境泊はとんでもない人間を2人も手元においていたのですね……」
「どういうことですか?」
「そうですね……少し話はそれますが、……実は私、結界魔法の使い手になりたかったため、10歳の頃旦那様にお願いし、10歳から18歳で王立学園に入学するまでの約8年間、メイド見習い兼門下生としてアルベド様の元で修行させていただいておりました」
なる程……だからアルベドさんの大体の魔力量を知っていたのか……。
「そして私には、たまたま結界魔法の才能があり、大体の結界魔法は使えたことから、未熟者にも関わらずアルベド様がいとも簡単そうに使っていた最上位結界魔法である、時空間結界を自分も使えると過信し、試しました」
時空間結界……空間と空間の間に時間の裂け目を発生させ、そこを通過する物質・光・魔力等、ありとあらゆる物を妨げる最上位結界で………なぜ俺はそんな事を知っている?
記憶をなくし、名前すら忘れていても文字は読めたし会話も出来たる。道具も使えて敬語も話せる。
無くしたのは記憶であって知識は残っているということなのか?
「結果は当然失敗です。腕の上に結界を展開してしまい両手を失いました」
物の上に時空間の裂け目を発生させた場合、時間という絶対の理により分断される。これは、どんな名刀よりも鋭利だ刃物であるかのように必ず分断される。そして失ったという腕がちゃんと両方ある……つまり。
「そしてご推察の通り、アルベド様が独自に編み出した魔法で腕を再生して頂きましたが、その時使われた魔力量は、アルベド様曰わく、アルベド様の総魔力量の半分だそうです」
「……つまりリリーも」
「それに近い魔力量を有していると思われます」
なる程、リリーも俺やアルベド様と同じか、それ以上の魔力量を有し、その魔力を使って俺の体を再生したということか……そしてその魔力量は一般的な魔力量の数十~100倍かそれ以上……。
「それだけの魔力を体に浴びれば、暫くの間魔力が体に残ります。実際私は、アルベド様の魔力を、アルベド様に治療していただいてから数日間感じました」
だから俺の体に2つの魔力があったということか……
「ならなぜ動くと命に関わる可能性があるのですか? リリーの治療を受け、リリーの膨大な魔力の残滓が残っているというだけですよね?」
「普通体内には自分の魔力しかありません。そして他人の魔力を使うことは出来ますが、とても高度な技術が必要となります。リリアーナ氏の魔力が体内にある状態で魔力を使おうとし、もしリリアーナ氏の魔力が反応すれば体内で暴走することになります」
なる程、半分といえば少なそうだがこれは暴走する魔力量が並の魔法使いの半分。
……自分の魔力を一度に半分も使う術などそうそうない。それが体内で──考えただけでゾッとする。
「そして麻痺しているのは、神経がまだ馴染んでいないからでしょう。私も腕を再生して頂いたとき、暫くは腕が痺れて食器を持つことすら出来ませんでした」
「なら僕のお腹の感覚も暫くすれば戻るんですね?」
「先程の話はあくまで私の推測ですので、確証はありません。そしてなにより、私がアルベド様にかけて頂いた魔法はアルベド様のオリジナルであり、誰かに教えたという話は存じません」
「……リリーが使った魔法はアルベド様の物とは違う可能性があり、そうなると麻痺がとれるかはわからないということですか……」
「はい。私の場合は数日で感覚が戻り、麻痺がとれたのは1ヶ月といったところだったかと思います」
「……そうですか……では数日様子を見てみます。ありがとうございました」
「確証の持てぬ話になってしまい、申し訳ございませんでした」
「いえ、お陰で大分不安がなくなりました」
「最初に申したように、これからはくれぐれも魔力の使用はお控え下さい。そして念のために激しい運動もお控え下さい」
「わかりました」
──コンコンコンコン──
ちょうど話が終わったところでドアがノックされた。
「どうぞお入り下さい」
俺がノックに答えると、身長180cm前後で服の上からでもわかるほど筋骨隆々な40歳くらいの褐色の肌に茶色い髪の男性が、執事服を纏って現れ頭を下げた。
「失礼いたします。お初にお目にかかりますジェリド様。私当家で執事をさせていただいております、ラムサスと申します。以後何かございましたらお気軽にお申し付け下さい」
「わかりました。ラムサスさんですね? 以後よろしくお願いします。それで今回はわざわざご挨拶に?」
「はい。元々ご挨拶に向かうつもりだったのですが、旦那様がお風呂からあがられるところでしたので、失礼ながらアウラ様の着替え等の準備をするようメイド長に伝えるのも兼ねて来させて頂きました」
「そうですか、ありがとうございますラムサス。では私は失礼させて頂き、アウラ様の元に行かせて頂きます。その後になりますが、アウラ様があがられましたらお声掛けさせて頂きます」
「はい。お手間をとらせてすみませんでした」
「お気になさらないで下さい。そしてやはり、使用人に敬語を使うのはどうかと思われますのでお気軽にお話下さい。もし来客時に使用人に敬語で話されますと、相手に舐められる可能性がございますし、我々は主人を窘めることもしない無能な使用人と見られかねませんので」
「わかりました」
「では私も失礼させて頂きます」
2人が出て行った後、俺は傷痕を見て、リリーに何度目になるかわからない感謝を心の中で言ってから体内の魔力を感じようとして目を閉じる。
正直魔力の込め方もわからないが、元々今は魔力を使えないから問題ない。
魔力を感じることが出来れば、リリーを近くに感じられるかと思ったが、生憎とそう上手くはいかないらしい……リリーとはどういう関係だったんだろう? 今度会うときまでに思い出せなかったら、一度思い切って聞いてみよう。
──そういえばローラは大丈夫かな? あれからかなり時間がたった気がするんだけど……。
人物紹介ですが、もうすぐ主要キャラが登場しますので勝手ながらその後に纏めて出すことにさせて頂きます。
最近PVの見方を初めて知り思っていたより読んでくれていた方が多かったことに感動しました。
好きな作家さんの作品を覗いたらケタが違い過ぎて笑ってしまいましたけど……
少しでも近付けるように頑張ります。
次回予告
次回は吊されていたローラのその後と、鉄板ネタですが、鉄板ネタだからこそ書かせてもらったハプニング。
そしてジェリドは疲れ果てて眠ると夢を見ます。
ジェリドはどんな夢をみるのでしょうか?
次回【夢の中の少女】をお楽しみください。