エピローグ 忠臣の血
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
空っぽなのは、工場だけじゃない。
全員が死に物狂いで追いかけてきた、その最後の一息も——空振りだった。
ロッテルダム沖のあの大海戦は、鋼鉄の墓場がひっくり返るみたいに激烈で、北海全体を旧時代戦艦の残魂が引きずり込むような戦いだった。山口多聞と周 士達が命も、火力も、判断も、供給も、その全てを注ぎ込んだ——それでも結局、あれは決戦なんかじゃなかった。
あれは最後の清場だった。
そして最後の時間稼ぎだった。
ワイスマンは最初から海上にいなかった。
始めから終わりまで、周 士達と海で雌雄を決するつもりなど、一切なかった。
ビスマルクは偽の核心、ロッテルダムは偽の前線。海戦全体が、全員のために用意された最後の大規模な目眩まし。ドイツ海軍残影シーケンスを鉄の幕として使い、港区の炎上と艦隊の砲撃戦を鐘の音として使い、真のプログラムのために最後のわずかな時間を稼いだ。
そして今——時間が、尽きた。
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ドイツ。
ヴォルフスシャンツェ《狼の巣》。
より正確には——ベルリンの地下深くに隠され、ヴォルフスシャンツェ構造として再建された旧式要塞だ。
地上では、この国はまだ二十一世紀の文明社会としての体裁を保っている。高速道路、電力網、通信、議会、金融、難民、抗議、選挙、嘘と平和の幻想——しかし地底深く、外部に開放されることなく、そもそも存在してはならないコンクリートの腹腔の中では、もう一つのドイツがとっくに静かに目を覚ましていた。
現代のドイツじゃない。
墓の中のドイツだ。
分厚い気密扉が幾重にも閉ざされ、鋼製の廊下が巨大な死体の喉管みたいに地の底へ続いている。壁面には旧帝国の鷲章が削り取られた後の痕跡が残り、新しいケーブルが旧時代の戦時構造に沿って這い回り、冷たい光と供給電力と——人の世界には属さない何かの脈動を、最深部の祭壇室まで送り届けている。
空気は錆と埃と消毒液と、古い石材が湿気を吸って黴た匂いに満ちていた。
それから——血の匂い。
新鮮な血の匂い。
祭壇の中央に、その兵器があった。
いくつもの時代を経て、伝説の中にしか、標本の中にしか、偽史の中にしか、狂人の妄念の中にしか存在しなかったはずのもの。それが今、黒い台座の上に垂直に固定されていた。槍身は細長く、その色は金属の色じゃない——無数の献祭に浸され続けた後に残る、暗い赤だ。表面には古い銘文と、後から人工的に刻み重ねられた神秘の符号が這い回っている。宗教、政治、戦争、虐殺——この世で最も汚れた四つのものが、同じ一本の手によって強引に縫い合わされた祭器だ。
ロンギヌスの槍は、最終プログラムを完了していた。
ロッテルダム港区が炎上した瞬間から始まり、ビスマルクが自爆し、海戦が周 士達と山口多聞の主力を釘付けにするまでの間に——最後の供給と錨定が、すべて閉合された。ヨーロッパ大陸に数十年にわたって隠されていた幾条もの黒い脈絡が、この瞬間ついに回路を完成させた。
地上の海戦は、喧噪だ。
地底の儀式こそが、心臓だ。
祭壇の四方で、蝋燭の火は揺れなかった。
風が、ここには存在しないからだ。
黒い儀式用の長衣を纏った人間たちが、その槍を囲んで低く吟じていた。その言語の半分は教会の墓窖から来ていて、半分は親衛隊の機密文書から来ていた。残りの半分——そう、こういう代物は半分を余分に生やすことさえある——は、八十年前に死んだはずの国が、地の底でまだ歯を研いでいるみたいな音だった。
そのとき、ベルリン地下要塞のワイスマンが、最後の儀式を発動した。
彼は祭壇の前に立ち、両目を赤く充血させ、過剰な興奮で顔全体が微かに痙攣していた。理性も、国家も、歴史も、人間としての底線も——全部を薪として燃やし尽くした狂人の顔だ。海上で何が起きているか、彼は気にも留めていなかった。周 士達がビスマルクに乗り込んだかどうか、山口艦隊がまだ反撃しているかどうか、ロッテルダム港が何層目の油槽まで燃えているかどうか——それは全部、プログラムの尾声だ。清場だ。時間稼ぎだ。祭壇のために最後の一息を稼ぐための花火だ。
花火は、打ち終わった。
墓の扉が開く番だ。
吟唱が、高くなっていく。
黒い祭壇の周囲、地面に刻まれた紋路が一条また一条と光り始めた——血管に血が再び満たされていくみたいに。壁が震え始め、天井の奥から重い摩擦音が降りてくる。まるでヴォルフスシャンツェ全体が、この存在してはならない召喚に応えているみたいに。
誰もいないはずの狼の巣が——
動き始めた。
まず一声。
それからもう一声。
そして——無数の壁から、無数の廊下から、とうに封鎖された無数の地下室から、一斉に誰かが口を開いたみたいに。
「Sieg Heil!」
「Sieg Heil!」
「Sieg Heil!」
歓声じゃない。
墓穴の共鳴に近い。
ニュルンベルクの絞首台の下で、東部戦線の焦土の中で、ベルリンの廃墟の中で、とっくに腐り果てているべき群れが——八十年後の今、闇の中から一斉にその名に答えたみたいな音だ。
ワイスマンの全身が震えた。
ついに奇跡の降臨を目撃した狂信者のように右手を高く掲げ、その吐き気を催す反響の中で興奮して叫んだ。
「Sieg Heil!」
祭壇の中央で、石板が割れ始めた。
爆裂じゃない。
ひどく遅く、ひどく古く、ひどく秩序立った開き方だ。完璧に封印された棺が、ついに内側から蓋を押し上げることを許されたみたいに。黒い霧が隙間から湧き出してきた——煙じゃない、長年にわたって地獄の底に積もり続けた呼吸そのものだ。それが渦巻き、蠢き、凝集して、最後に祭壇の上方で人型に近い陰影を形成した。
ワイスマンの目の中の狂熱が、溢れ出しそうになった。
わかっていた。
自分が成功したと、わかっていた。
彼は生涯で多くのことをやってきた。嘘をつき、扇動し、策を弄し、遺伝実験、亡霊工学、工業化された献祭、海戦と内陸の儀式を同一のプログラムに縫い合わせること、無数の人間の命を——帰ってきてはならない死者一人のために踏み台にすること。だが、そんなことはもうどうでもよくなった。この瞬間が成功するなら、彼は第三帝国を墓から掘り返した男になる。
黒い霧の中から、まず一本の手が伸びてきた。
蒼白で、干からびているのに、恐ろしいほど安定していた。
続いて肩、胸、頭蓋。
吟唱の中で——その男が、地獄から這い戻ってきた。
ワイスマンは呼吸が乱れ、気を失いそうになりながら、それでも新しい玩具の包装を破ったばかりの子供みたいに興奮していた。祭壇の中央を食い入るように見つめ、その男がゆっくりと身を起こすのを見た。二十世紀にヨーロッパ全土を火の海に引きずり込み、人類文明が今なお繰り返し鏡の前に立って「自分はどれほど醜悪足り得るか」を確認し続けなければならない原因を作った——その顔だ。
短い口髭。
暗闇の中で邪悪で冷たい光を放つ両目。
復活には見えなかった。
歴史の誤りが、ついに封印を突破した——そういう感じだった。
地下要塞の中の全ての音が、一瞬だけ静まった。
それから、その男が口を開いた。
声は低く冷たく乾いていた。焼かれてから継ぎ接ぎされたレコードみたいな声だ。
「成功したな、ハインリヒ博士。残るは最後の一歩だけだ」
ワイスマンは神託を受けたみたいに、ほとんど即座に跪いた。笑い、喘ぎ、泣いた——勝利者には見えなかった。ようやく死を許された狂信者に見えた。
「はい、わが総統……残るは最後の一歩だけです」
震えながら、懐から一振りの短刀を取り出した。
刃は短く、古く、まるでこの一幕のためだけに今日まで保存されてきたみたいだ。
彼は祭壇の上の男を仰ぎ見た。その目に躊躇は一欠片もなかった——あるのは病的な極致まで達した満足感と栄誉感だけだ。そう、本当の汚物は死を恐れない。それが最も恐れるのは、死に際が十分に演劇的でないことだ。
ワイスマンが歪んだ笑みを浮かべた。
「忠臣の血を」
それだけ言って、一切の間を置かず、逆手に刃を返して自分の喉に突き立てた。
刃が皮肉に食い込む音が、死寂の祭壇室の中で異様なほど鮮明に響いた。
血が一気に噴き出した。
熱く、濃く、人間の最後のわずかな体温を帯びたまま、祭壇と槍身と石板の縁に飛び散った。ワイスマンの身体が揺れた。まだ何か言おうとしたが、口から出てきたのは砕けた気泡と暗赤色の泡沫だけだった。彼は跪いたまま前へ倒れた——最後の任務を終えて無造作に捨てられた道具みたいに。
祭壇の上の男は、死んでいくワイスマンを気にも留めなかった。
ただわずかに頭を下げ、自分の指先に飛び散った血を拭った。
それから——八十年遅れで届いた供物を味わうみたいに、そっと舐めた。
そして、立ち上がった。
その瞬間、ヴォルフスシャンツェ全体が再点灯したみたいになった。
灯りが点いたんじゃない。
意志が、点いた。
あるいは——歴史の毒泥の中に永遠に埋めておくべきだったものが、もう一度鎌首をもたげた。
祭壇の下方から、一つまた一つ、人影が暗闇の中から浮かび上がってきた。
まず軍靴の音。
次に衣擦れの音。
それから、武装した部隊が整列するときの金属音。
もともと誰もいなかったはずの階段、観覧台、儀式プラットフォームの周辺が、いつの間にか人影で埋まっていた——いや、人じゃない。亡霊だ。親衛隊の制服を纏った将官、士官、衛兵、旗手。肩章、襟章、勲緒と黒い制服が冷たい光の下に並んでいる——歴史の遺体安置所から整然と引きずり出されてきた死者の波みたいだ。彼らの顔色は蒼白で、目は虚ろだが、立ち姿は驚くほど直立している。八十年の死が、彼らに口を閉じることを教えられなかったみたいに。
さらに遠く——地下要塞の奥深く、ヴォルフスシャンツェの上方、ベルリン地底の各封鎖甬道と兵器坑道から、さらに多くの足音が伝わってきた。
数百じゃない、数千でもない。
面単位で、甦っている。
親衛隊の亡霊が、長い暗闇の中から目を覚ました。
整列する。
待機する。
再びヨーロッパへ進軍する、その時を待っている。
祭壇の上の男は下方を俯瞰し、表情に狂喜はなく、感動もなく——ただ機械に近い冷酷さだけがあった。彼にとって、歴史は教訓ではない。ただの一時停止だ。何も学ばなかった。八十年だけ先送りにされて、この瞬間——もう一度立ち上がっただけだ。
彼は一歩前に出た。声は高くなかったが、ヴォルフスシャンツェ全体の反響を圧し切るほど鮮明だった。
「Es ist jetzt das Jahr 2026, mein Führer. Willkommen in der Zukunft, 80 Jahre später.《今は2026年です、わが総統。八十年後の未来へ、ようこそ》」
他の誰かの紹介じゃない。
地下要塞全体が、狂気の歴史全体が、亡霊の儀式全体が、彼に捧げる献辞だ。
そして——まるで新しい玩具を与えられた子供みたいに、ワイスマンが死の直前に爆発させかけた狂喜が空気の中にまだ残っているかのように、ほとんど狂乱に近い絶叫が、祭壇の四方でまだ反響していた。
「諸君、八十年だ。今こそ、もう我慢しなくていい。総統が帰ってきた——」
声が、血溜まりの中で途切れた。
だがヴォルフスシャンツェ全体が、その後半を引き継いだ。
「Sieg Heil!」
「Sieg Heil!」
「Sieg Heil!」
その男は目を落として、足元のワイスマンの死体を見た。使命を果たして価値を失った祭品を見るみたいに。それから身を翻して、すでに親衛隊将官の亡霊たちで埋め尽くされた下方へ向いた。
口を開いた。
今度の声は、さっきより冷たかった。
「諸君——今この瞬間から、我々の栄光を取り戻す」
地下の亡霊軍陣が一斉に直立した。
無数の靴跟が地を打ち、頭皮が粟立つほど整然とした重い響きが轟いた。
彼はゆっくりと右手を上げた。
黒い制服、蒼白な顔、赤い徽記、死者の軍容、古い口号と現代のケーブルが絡み合い——ヨーロッパ全土を眠りの中から叩き起こすのに十分な一枚の絵が、そこに完成した。
そして彼は言った。
「その名において」
ヴォルフスシャンツェの深部で、十万の亡霊が潮のように応えた。
地上では、誰も知らなかった。
ベルリンはまだ眠っていた。
ヨーロッパはまだ眠っていた。
だが——歴史の中で最も忌まわしいその死体が、もう一度、身を起こした。
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