↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
632/713

183.自分の遺書は自分で書け 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

俺は「遺書は誰が書く」というプラカードを見て、思わず笑った。


面白いからじゃない。


こういう言葉が一度生まれてしまうと、政府はもう「行政上の瑕疵」というレベルに話を引き戻せなくなるからだ。


行政上の瑕疵で、街頭が「遺書」を語り始めたりはしない。


手続きの失当でも、そうはならない。


屋根の下に何が隠れているか、みんなもうわかっていて、それでも当事者が「ただ電球が切れただけです」と玄関口で言い張っている時にだけ、こういう言葉が生えてくる。


山口が最新のフォーラムのスクリーンショットを俺の前に押し出してきた。


流出のタイムスタンプを突き合わせて検証し始めている人間がいる。


どの会議で「フロント処理」という言葉が使われたかを逆算しようとしている人間がいる。


内部安全保障の次席窓口が、過去数年の別案件で似たような語彙を使ったプレゼン資料を貼り出している人間もいる。


これだけでは有罪の証拠にはならない。


だが、本当に眠れなくなるべき人間を、眠れなくさせるには十分だ。


俺はまだ、出していない第二層の資料には手をつけなかった。


今は出す時じゃない。


今のテンポが良すぎる――政府が自分たちで穴を掘り続けている。


ここで俺が前に出たら、むしろあいつらの時間を節約してやることになる。


林 雨瞳(リン・ユートン)がテーブルの横に立ち、俺が手を動かさないのを見て、聞いた。


「誰が先に落ちてくるのを待ってるの?」


俺は少し考えてから答えた。


「落ちてくるのを待ってるんじゃない。誰が先に焦って、自分から這い出してくるかを待ってるんだ。」


「違うの?」


「違う」と俺は言った。「落ちてきたやつは、まだ『運が悪かった』と言える。自分から這い出してくるやつは、たいてい他人の肉をくわえてる。」


山口がそれを聞いて、低く笑った。


「お前の比喩、今夜はどれも映像的だな」


俺は答えず、ただ画面を見続けた。


クレールは今日、俺の予想以上に的確に動いている。


もはや「ニュースを追っている」のではない。


局面全体の翻訳をしている。


街頭の怒りを、生中継に乗せられる骨格に変換し、政府が自分で書いた言葉を、視聴者が一聞きで理解できる侮辱に変換している。


こういう人間は、もちろん手元に置きたい。


だが今じゃない。


今はまだ早い。


記者というものは、ある種の国家と同じで、まだ自分が「専門的な傍観者」でいると思っている間に手を伸ばしてはいけない。彼女自身が橋を半分焼き落とし、一歩退いたら「あの連中の食卓を拭く役」になると気づいた時に、初めて声をかける。その時になって初めて、彼女は自分が「買われた」のではなく、もっと大きく、もっと正確で、もっと自分の知性を侮辱しない物語に招かれたのだとわかる。


俺が探しているのは広報担当者じゃない。


ヨーロッパのこの腐肉が、どこから腐り始めたのかを読める人間だ。


クレールは、もうすぐそこまで来ている。


あと少しだけ、火が足りない。


---


ニュース局の第二波は、第一波より、はるかに「処刑」に近かった。


ルノーはもう、下位の広報担当者には繋がなかった。


歴史学者、財政犯罪捜査の元検察官、戦後資産問題の研究者――三者を同時にオンラインで繋いだ。三分割の画面、三つの異なる職業。だが最終的に全員が語っているのは、同じ一つのことだった。


まともな政府なら、こういう旧ネットワークのノードを目にした時の最初の反応は「切断」であるべきで、「評価」であってはならない。


歴史学者が最初に口を開いた。


「戦後遺留ネットワークのいちばん危険なところは、その中に金や物があることだけではありません。それ自体が、構造的な道徳汚染を帯びているということです。国家機構が一度でも、それを保存し、接触し、あるいは査定しようとする衝動を持てば、その瞬間から、管理者から参与者へと変質します」


元検察官が続けた。


「全体像はまだ確認できていませんが、もし内部記録の中にすでに『フロント処理』と『バックルームの旧資産ライン』という並列表現が出ているとすれば、それは少なくともある時点で、意思決定者がこれらを偶発的な情報としてではなく、一体の問題として扱い始めていたことを意味します」


最後に、戦後資産の研究者がいちばん鋭い言葉で締めた。


「これは、単純に『汚職』と想像するより、もっと複雑な問題です。どちらかといえば――戦後に残された骨を見て、まず埋めようとするのではなく、先に値段を確かめようとした人間がいる、という話に近い。」


この一言が出た瞬間、ルノーは追加の問いを挟まなかった。


この言葉は、自分で生き残るとわかっていたからだ。


プロデューサーのシャルロットはすぐに資料班にテロップへ打ち込むよう指示した。編集局長はガラス張りの部屋の中を行ったり来たりしている。興奮しながらも、自分が今まさに「国家崩壊の現場」を見ている外科医のような顔をして。


ちょうどその時、クレールの中継が現場に切り替わった。


彼女は専門家の意見をすぐには語らなかった。まず広場の一角を指し示す。そこでは、さっき専家が言った一文を、誰かがもう一度「街頭語」に翻訳し直して、新しいプラカードに書き上げていた。


骨を見て、まず埋めるんじゃなく、まず値段を確かめる。


クレールはそのプラカードを見て、カメラに向かって言った。


「これが今夜、いちばん危険なループです。専門家がスタジオで冷静な判断を下し、街頭はそれを即座にもっと直截な侮辱に翻訳し、それがまた世論全体を前へ押し進める。フランス政府が今直面しているのは、単発の流出でも、単発のスローガンでもありません。急速に形成されつつある、一つの公共的な理解の体系です。」


一拍置く。


背後でまた、声が揃う。


「八十年前に死んだやつら、八十年後に山分け!」


今回、クレールは迂回しなかった。直接その言葉を受け取った。


「そしてその理解の核心は、もはや『彼らが何を間違えたか』ではありません。『なぜ彼らは、あのようなものに手を伸ばしたくなったのか』です。」


この一言で、スタジオのルノーまでもが、ほんのわずか、前のめりになった。


ニュース局全体が、転向を完了した瞬間だった。


事故を追うのではない。


瑕疵を追うのではない。


誰が謝罪すべきかを追うのでもない。


動機を追う。


メディアが動機を追い始めた瞬間、政府は「発言ミス」から「人格の審判」へと滑り落ちやすくなる。


それは、まったく別の地獄だ。


---


首相府の方でも、地獄の扉はほぼ開きかけていた。


第三版の声明文は半分まで書いたところで、また全部ボツになった。


最初の完全なタイムスタンプ付き会議録が流出した今、「個別の誤判断」という言い方で事態を収めようとするどんな文章も、死に遅れた笑い話にしか見えない。タイムスタンプ付きの危機対策記録を「誤読」と言い張れるか?「フロント」「バックルーム」「現行の説明は全面的に破綻する」を「断片的な文脈だ」と言い張れるか?強がることはできる。だが強がれば強がるほど、外の人間は「まだ口の中に何か吐き出していないものがある」と思う。


デヴォは草稿をテーブルに放った。力を入れたわけじゃない。それでも、その音は会議室の中で妙に刺さった。


「もう書いても意味がない」と彼は言った。


ロランが最初に反応した。


「なら先に誰かを出しましょう。とにかく外に一つ、頭を差し出す」


モローが冷たく言う。


「誰を?会議録もまだ全部読んでいない次官を?それとも、ずっとあなたたちの後始末をしてきた広報担当者を?」


「建物ごと全員死ぬよりはマシでしょう」


「その言い方、まるで自分がこの建物の外にいるみたいですね」


二人がまた噛み合い始めようとしたところで、デヴォは今夜初めて、本当に「うんざりした」という表情を見せた。


「今さら誰かを一人差し出せば、外の人間が目が見えないとでも思っているんですか?」と彼は言う。「白房の時ならまだ使えた。今はもう使えない。外が求めているのは、誰が『言い間違えた』責任者じゃない。誰が『考え間違えた』責任者だ。」


この言葉が、全員を静かにさせた。


そうだ。


白房の段階では、まだ問題を「失手」「失言」「手続きの暴走」に縮小できた。


だが密帳が出て、会議録が流出した今、問題はこうなっている。


誰が最初に、あの念を起こしたのか。


誰が最初に、触れてもいいと思ったのか。


誰が最初に、見てもいいと思ったのか。


誰が最初に、査定してもいいと思ったのか。


これはもう、通常の行政責任で包める話ではない。


ロランが低く罵り言葉を漏らした。


「じゃあ今、俺たちは一体何をするんですか?」


デヴォは彼を見て、ゆっくりと答えた。


「今は?四つ目が落ちてこないようにすることだ。」


この言葉は、どんな指令よりも正直だった。


政府全体が今いちばん恐れているのは、広場の人数がさらに一万人増えることでも、ニュース局が特集をもう一本組むことでもない。


もう一枚、内部の何かが流出することだ。


もう一つ、録音が出ること。


もう一版、草稿が出ること。


もう一人、より愚かで、より貪欲で、公文書の近くに存在すべきでない言葉を口にした人間が出てくること。


ベルナールがついに、温度ゼロだが非常に官僚的な提案を出した。


「内部設備、会議録、次席窓口の外部通信を全面封鎖。必要に応じて、一部人員の対外通信を一時停止する」


モローはそれを聞いて、声に出して笑った。


「今さら封鎖?」と彼は言う。「棺桶はもう開いてるのに、窓を閉めろということですか?」


ロランも続けた。


「それに、誰を封鎖できます?今いちばん危険なのは、政府を嫌っている人間じゃない。俺たち自身の人間だ。」


この言葉が、ようやく核心を突いた。


デヴォも反論しなかった。


これも事実だからだ。


本当に逃げ始めているのは、街頭でも、メディアでもない。政府そのものだ。


そして内部から逃げ始めた政府は、どんな野党よりも、自分自身を解体するのが上手い。


---


街頭に、ついに「顔」が生まれた。


政党関係者でもない。


労組の幹部でもない。


著名な公共知識人でもない。


スーパーのジャンパーを着た女性と、拡声器を握った労組の老人だ。


この組み合わせは、いかにもパリらしく、いかにも皮肉だった。国家機構が一晩中バタバタした末に、いちばん的確な言葉を言ったのは、仕事帰りのレジ打ちの女性と、声が潰れた老いた労働者だったのだ。


女性の名前はマリアンヌ。最初は誰も名前を知らなかった。クレールが近づいて、生中継に出てもらえないかと聞いた時、彼女は頷いた。特に緊張した様子もなく、ただ先にジャンパーの前をきちんと合わせてから。


クレールが聞いた。


「今日、なぜここに来たんですか?」


マリアンヌはカメラを見た。最初に「どれだけ怒っているか」を語ることもなく、「民主主義」「法の支配」「共和国の価値」といった綺麗な言葉を持ち出すこともなかった。


ただこう言った。


「最初は、あの人たちはただ間違いを犯したんだと思っていたんです。でも後から気づいた。間違いを犯した後で、その間違いの中に、何か残せるものがないか確かめようとしていたって」


あまりにも的確だった。


クレールは遮らなかった。


マリアンヌは続けた。声は高くないが、揺れない。


「白房の時は、本当に怒りました。でもあれはまだ――あなたたちは人間を書類扱いにしている、という怒りでした。今はもっと怒っています。なぜなら、あなたたちは人間を書類扱いにしただけじゃなく、歴史を倉庫扱いにしていた可能性があるから。それは違う。それは、吐き気がする。」


カメラは切り替わらなかった。


こういう瞬間、誰もが知っているからだ。どの大臣よりも、この女性の方が「人間の言葉」を話している。


一方、労組の老人の方も、別の局のカメラに囲まれていた。彼は記者の質問を待たず、マイクに向かって直接言った。


「俺たちが過激すぎるとか、そういうことを聞くな。過激なのは俺たちじゃない。あいつらが腹を空かせすぎてるんだ。白房は残忍だと理解できる。帳本が出てきた瞬間、俺たちにはわかった――あいつらは残忍なだけじゃなく、ひと噛みしたかったんだってな。これはもう政府じゃない。骨を見た野良犬だ」


この言葉は粗かった。


だが粗いからこそ、スタジオの専門家全員よりも効いた。


なぜなら、この件全体を、誰でも理解できる一枚の絵に翻訳してしまったからだ。


お前らは間違えただけじゃない。食おうとしたんだ。


この瞬間から、街頭はただの「群衆」ではなくなった。


顔を持ち始めた。


マリアンヌという、「気持ち悪い」という感覚をどんな理論よりも正確に言葉にする顔。


老いた労働者という、政府を「野良犬」に翻訳する顔。


街頭に顔が生まれれば、メディアは追いやすくなり、政府は逃げにくくなる。


---


俺はマリアンヌの中継を見た時、頭の中にあったのは一つだけだった。


そう、それだ。


俺がやりたいのは、フランス政府を「邪悪な帝国」に仕立て上げることじゃない。それは幼稚すぎるし、漫画的すぎる。


俺がやりたいのは、もっと実際的なことだ――フランスの人民自身に、この連中が『理論のある悪』でも『美学のある邪悪』でもなく、醜さが非常に具体的だと気づかせること。


間違いを犯した後で、その間違いの中に食べ残しがないか確かめようとするやつ。そういう醜さだ。


マリアンヌは、俺より的確に言った。


「間違いを犯した後で、その間違いの中に、何か残せるものがないか確かめようとしていた」


この言葉は残す価値がある。


山口を見た。


「記録しておいてくれ」


山口は笑って頷く。


「もうとっくに記録してますよ」


林 雨瞳(リン・ユートン)が聞いてきた。


「記者の方向性、今夜で考えが変わった?」


俺は首を振った。


「変わってない。むしろはっきりした」


「どう?」


「彼女はもうすぐ、報道者から刃になる。」俺は言った。「彼女自身がそれに気づいて、それでも退かない選択をした時に、初めて話しかける」


それ以上は言わなかった。


こういう人間は、まだ「カメラの後ろに立っているだけ」だと思っている間に手を出してはいけない。


彼女が自分でふと気づく日を待つ。自分はもう、刃の上に立っているんだと。


クレールはもうすぐその一歩手前まで来ている。


今夜の彼女がいちばん良かったのは、「敢えて言う」ことではない。


街頭の侮辱、スタジオの骨格、政府自身の自白を、一本の刃に縫い合わせる方法を、わかり始めていること。


こういう人間は、焦って手元に引き込んではいけない。


焦れば、取引になる。


彼女自身がその場所まで歩いてきて、一歩退いたら自分への裏切りになると感じた時に、こちらから手を伸ばす。その時になって初めて、彼女は「買われた」のではなく、もっと正確な道に招かれたのだとわかる。


外ではまだ「遺書は誰が書く」という声が上がっている。


俺はそれを聞きながら、今夜のパリはようやく少しまともになってきたと思った。


混乱しているからじゃない。


ようやく、正確になってきたからだ。


---


ニュース局での第三の追撃は、第一・第二よりも、はるかに「フォーマット」の中に踏み込んできた。


流出した会議録、街頭のスローガン、スタジオの専門家、政府の広報発言――これらを繋ぎ合わせた五分間の総合特集が組まれた。タイトルはこうだった。


《フロント、バックルーム、そして書き終わらない遺書》


こういうタイトルは普段なら「文学的すぎる」と批判されるところだが、今夜はちょうどよかった。全員がわかっていたからだ。この件はもはや技術的な問題でも、政治的な問題だけでもない。国全体が自分自身の遺書を書きながら、筆を押しつけ合っている現場劇になり始めている。


ルノーはこの特集の最後に、今夜また「生き残る一文」を口にした。


「フランス政府が今直面している最大の問題は、何かをやったと発覚したことではありません。すべての人間から、あのようなものの中から何かを理解しようとし、何かを残そうとし、あるいは何かを守ろうとしていたことを、見られてしまったことです。」


コントロールルームで、編集局長が顔を上げた。


「いい。マリアンヌの発言と合わせろ」


シャルロットが聞く。


「マリアンヌのどの言葉?」


局長は手元のメモを見て、そのまま読み上げた。


「『間違いを犯した後で、その間違いの中に、何か残せるものがないか確かめようとしていた』」


二つを並べた瞬間、今夜の報道全体が、一本の軸として立ち上がった。


もはや「情報の流れ」ではない。


道徳的な位置づけだ。


街頭が感情を与えた。


ニュース局が骨格を与えた。


政府自身が自白を提供した。


三本の線が、ここでようやく完全に噛み合った。


---


危機対策室では、四つ目の悪い知らせはまだ来ていなかった。だが、全員がそれが来ることをわかっていた。


外が強いからではない。


内部で、すでに誰かが限界に達し始めているからだ。


デヴォはテーブルの端に立ち、今夜の自分がいちばん似ている職業は政治顧問でも危機管理者でもなく、漏れ続ける棺桶の横に立ち、逃げることも、本当に亀裂を塞ぐこともできない人間だと、ふと感じた。


ロランが低く言った。


「いくつかの窓口を先に停職処分にするか?」


モローがすぐに返す。


「今停職にするんですか?外の人間に、内部に後ろめたいやつがいると、わざわざ教えるつもりですか?」


ベルナールが補足した。


「停職にしなくても同じです。もう一枚流出すれば、今度は隠蔽と見なされます」


三人が言い終えて、誰も次の言葉を続けられなかった。


これが「詰み」だからだ。


停職にすれば、認めたも同然。


放置すれば、引き延ばしだ。


引き延ばして、もう一枚出れば、隠蔽になる。


この局面は、相手が強すぎるからではない。


自分たちで自分たちをこの状況に追い込んだからだ。


デヴォは今夜いちばん「本音に近い」問いを、ついに口にした。


「周 士達(ジョウ・シーダー)の方に、今も動きはあるか?」


この問いが出た瞬間、全員がその本当の意味を理解した。


「彼が今どこにいるか」ではない。


「彼がいつ、次の一刺しを入れるつもりなのか」だ。


誰も答えられなかった。


それこそが、いちばん最悪な部分だからだ。


彼がまだどれだけ持っているか、わからない。


次の一刀がどこに落ちるか、わからない。


そもそも彼が何もしなくても、ただ座って待っているだけで、こちらが自分たちで第二層の内傷を噛み出すのを待っているだけなのかどうかも、わからない。


危機対策室の誰も、この感覚が好きではなかった。


崖っぷちに立っていて、足元の地盤が緩んでいるのか、それとも背後にいたはずの人間はすでに立ち去っていて、自分が恐怖で重心を崩し、怖いと思えば思うほど、自分から外へ外へと踏み出してしまっているだけなのか――そういう感覚だ。


デヴォはゆっくりと言った。


「今は彼を探す時じゃない。彼を助けないことだ。」


この言葉は来るのが遅すぎた。だが、少なくとも正確ではあった。


残念ながら、ほとんどの危機が死ぬのは、正しい言葉を言う人間がいなかったからではない。


正しい言葉が出た時には、たいていもう手遅れだからだ。


---


最初の一時間が終わった時、パリはようやく本当の「転向」を完了していた。


街頭は、もう白房だけを叫んでいない。


ニュース局は、もう密帳だけを追っていない。


政府内部も、もう責任の押しつけ合いだけをしていない。


三本の線が、同じ一つのことをしていた。


問い続けること。誰が最初に白房をフロントとして使ったのか。誰が最初に帳本をバックルームとして使ったのか。誰が最初に、あの旧ネットワークの前で、起こしてはならない念を起こしたのか。


広場の中心では、「顔は後回し、まず命を守れ」という言葉が、ある種の裏国歌みたいに繰り返し叫ばれていた。


スタジオでは、ルノーとクレールが冷静さと正確さを分担しながら、二本の用途の違う刃のように機能していた。一本は骨を断ち、もう一本は肉を削ぐ。


危機対策室では、デヴォ、ロラン、モロー、ベルナールが互いを見つめ合っていた。棺桶の中に何が入っているかは全員わかっているのに、誰が最初に蓋を開けたのかだけが、わからない人たちのように。


そして俺は窓際に座って、二枚目を出さなかった。


今いちばん見る価値があるのは、俺の手元にある資料じゃないとわかっていたからだ。


あいつら自身だ。


誰が先に焦るか。


誰が先に怖くなるか。


誰が先に、他人を棺桶に押し込もうとして、手が滑って自分も引きずり込まれるか。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。