176.風向きが変わった 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
白い部屋は、まだ白い。
何も起きなかったかのように白い。
この色が一番厄介だ。
壁さえ白ければ、壁の中で起きたことも一緒に清められるという錯覚を、いつも人に与えるからだ。だがこの世界は洗濯機じゃない。血は公文書の書式でもない。汚れるべきものは、どれだけ磨いても、ただ気持ち悪いほど光るだけだ。
俺は椅子に座って、指輪を回しながら、気分はまあまあ悪くなかった。
放してもらえたからじゃない。
まだここにいる。
フランスが突然良心に目覚めたからでもない。
良心というものは国家レベルでは記念日に出席するだけで、日常の当番はしない。
気分が悪くないのは、外でようやく声が育ち始めたからだ。
戒面がほんのり冷たい。
山口多聞が冷たい光の中から浮かび上がった時、顔はいつもの死人専用の仏頂面だったが、目の奥に何かあった。値の張る、ぐちゃぐちゃな、非常にパリらしい炎上ショーを見終えて、どの部分から先に突っ込むのが一番効果的か考えているような目だった。
俺は顔を上げて彼を見た。
「どうだった?」
山口多聞は口の端を引いた。
「お前の撒いた餌、外でもう食いついてる」
俺は少し笑った。
「詳しく」
彼は壁に寄りかかって、一つずつ並べ始めた。
記者の方はもう単発の速報じゃなく、「説明の変化」「手続きの調整」「記録と立会いの縮小」という方向に育ち始めている。
チャットルームと掲示板はもっと面白い。フランスの言い回しをとっくに人間の言葉に直して、ついでに悪口にも変えてある。
自メディアとインフルエンサーが一番効率的だった——「保護的措置」をミームにして、「個別接触」を笑い話にして、「関係部署の支援」を、誰でも嗅ぎ取れる欲の匂いに切り刻んだ。
そこまで言って、彼は珍しく一瞬止まった。鑑賞でもしているかのように。
「一番笑えたのはどれだ?」俺は聞いた。
山口多聞は俺を一瞥した。
「『フランス:軟禁じゃない、品のある軟禁だ』」
俺は堪えきれずに声を出して笑った。
いい。
これでいい。
何かがこういう言われ方をし始めたら、一番面倒な線をもう越えたということだ——
もう事実の争いじゃない。
公共の語気になった。
語気というものが一番値打ちがある。
事実は封じられる。
記録は凍結できる。
手続きは変えられる。
だが語気は一度育ったら、自分で住む場所を見つける。
「フランスの方は?」俺は聞いた。
山口多聞は冷たく笑った。
「見事なもんだ。広報は言葉の書き換えに必死で、内務安全は責任の押し付け合いをしてて、外交は国際的な追及を恐れてる。技術線が今一番静かだ——こういう時に一番静かな連中は、たいてい自分が少し前に手を伸ばしたのを一番見られたくない連中だ」
俺はうなずいた。
だいたい想定通りだ。
内務安全が恐れているのは手口を見られること。
外交が恐れているのは、醜さが国境を越えること。
技術線が恐れているのは、このタイミングで「値踏みした」という鍋を被ること。
広報窓口が一番気の毒だ。全員が見苦しいものを見苦しくなく言えと要求してくる。そういう仕事は本質的に人として終わってる。
俺は指輪を回して、気分がさらに良くなった。
山口多聞は俺を見ながら、少し警戒した口調になった。
「今のお前の顔、また何かろくでもないことを思いついた顔だ」
「そんなに俺のことをわかってくれてありがとう」
「褒めてない」
「今日それ何回言った?」
彼の顔がさらに不機嫌になった。
俺は気にせず、さっきの線を頭の中でもう一度並べ直した。
一つ目の餌の役割はもう終わった。
真実を爆発させるためのものじゃなかった。
外全体に匂いを嗅がせるためのものだった——
フランスは説明を変えている。
フランスは人を分断している。
フランスは焦っている。
フランスの内部はまだまとまっていない。
そして、ある手が早く伸びすぎた。
それで十分だ。
外がこういう空気を先に作れば、内側の人間が自分でミスをし始めるからだ。
抑えようとする奴は、抑えるのが早すぎる。
奪おうとする奴は、奪うのが急すぎる。
隠そうとする奴は、喋りすぎる。
責任を押し付けようとする奴は、他人を前に出す。
そして人間は一度外に押し出し始めると、継ぎ目が見えてくる。
俺はあの扉を見上げた。
相変わらず白くて、静かで、設計図に「人道」「秩序」「臨時空間管理」とでも書いてありそうな、綺麗な名詞の成果物みたいな扉だ。だが今見ると、気分がずいぶん違う。扉の外のあの仕組みに、ようやく声が出始めたからだ。
これが重要だ。
音のないシステムが一番厄介だ。
どこが割れているかわからないからだ。
だが一度音がし始めたら、たとえほんの小さな音でも、わかる——
歯車の中に何かが引っかかっている。
山口多聞が低い声で聞いた。
「それで、今は?」
俺は彼を見た。
「今は?」俺は少し笑った。「もちろん、二つ目の餌を投げる」
彼は眉をひそめた。
「まだ餌を撒くのか?」
「当然だ」俺は淡々と言った。「一つ目の餌は外に、この鍋に匂いがあると知らせるためのものだ。二つ目の餌は、内側の人間に自分で疑わせるためのものだ——誰かがもう先食いしたんじゃないかと」
山口多聞は少し黙ってから、顔色が面白いことになった。
理解したからだ。
一つ目の餌は外向けだ。
二つ目の餌は、単純に外向けじゃない。
二つ目の餌は同時に二つのことをやらなければならない。
一つ、外の人間に「これは単なる手続きの失控じゃなく、内部のある線が他より急いでいる」と感じさせること。
二つ、内側のある人間に「外はなぜこんなに正確に知っているんだ——他の部署の誰かが先に風を流して、先に抜け駆けして、まだそうすべきでないタイミングで動いたんじゃないか」と疑わせること。
これが面白い。
俺はゆっくり指輪を一周回して、口調は平坦だった。
「一つ目の餌は名詞だ」俺は言った。「二つ目の餌は方向でなければならない」
「どんな方向だ?」
「外の人間に、もっと悪い問いを立てさせる」俺は顔を上げて彼を見た。「『フランスは分断処理をしたのか』じゃなくて——」
俺は少し止まって、口の端がゆっくり上がった。
「——フランスの内部で、一体どの連中がこの件を一番急いで自分の方に引き込もうとしているのか、だ」
山口多聞は俺を見つめた。
「内務安全、外交、技術線を一緒に火にかけるつもりか?」
「違う」俺は訂正した。「それは雑すぎる。俺が欲しいのは、外にほんの少しだけ匂わせることだ——たとえば、ある種の問い方が単純な安全確認には見えないとか、ある種の言葉が外交が使いそうなものには見えないとか、ある種の手続きの変え方がプレッシャーを恐れているというより、誰かに先に知られることを恐れているように見えるとか」
山口多聞は数秒黙ってから、低く毒づいた。
「お前、本当に閉じ込めておくのに向いてない」
俺は笑った。
「フランスが今頃気づいたのが残念だな」
部屋がしばらく静かになった。
俺は扉を見ながら、頭の中で次の餌がどんな形であるべきか選び始めていた。
大きすぎてはいけない。
大きいとスクープに見える。
本物すぎてもいけない。
本物すぎると口を塞がれやすい。
ちょうどいい加減が必要だ。誰かがテーブルの上に半分の言葉、半分の単語、一つの時間差、まだ出てくるには早すぎる専門的な匂いを、うっかり置き忘れたみたいに。
記者圏が嗅ぎ取れるくらい。
自メディアが語れるくらい。
ネットが続けて突っ込めるくらい。
そして何より重要なのは——
内務安全、外交、技術線の三方が同時に思うくらい。
この言葉、なんで自分たちのことをこんなに正確に語っているんだ、と。
これが餌だ。
甘いんじゃない。
粘りつく。
外が二割しか知らないとわかっていても、その二割が自分の中で一番見られたくないものに近すぎて、眠れなくなるくらいに粘りつく。
俺は立ち上がって、二、三歩歩いた。
白い部屋は狭く、歩き回るというより棺桶の中で少し楽な姿勢を探しているようなものだ。だが俺は空間が狭いことを気にしたことはない。局面を広げられるのは部屋の大きさじゃなく、人の心の中の、光の当たらない何かだからだ。
そしてパリには今夜、それがたっぷりある。
俺は扉の前で止まり、手を上げてその冷たい白い扉板にそっと触れた。
「いい」俺は低い声で言った。
山口多聞が背後から俺を見ていた。
「何がいい?」
俺は振り返らなかった。
「風が立った」俺は言った。「あとは、誰が一番力を入れて窓を閉めるかだ」
言い終えて、俺は少し笑った。
その笑みは浅かった。
そして十分に悪意があった。
次の餌が出れば、この街はもう醜さを隠すだけじゃなくなるとわかっていたからだ。
互いに疑い始める。一体誰が、その醜さの匂いを広げたのかを。
そうなった時、
フランスが最も愛するあの優雅さは、
正式に笑い話の一部になる。
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