174.蟻と砂糖 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
一つ目、内務治安ライン。
ここがいちばん単純で、いちばん厄介だ。必ずしもいちばん貪欲ではないが、間違いなくいちばん「事案」を恐れる。彼らにとって、周 士達、林 雨瞳、葉 綺安、ヴィクトリア、エリザヴェータ、レイチェルはもちろん、教廷、台湾の窓口、外部のオブザーバーですら、人間ではない。「リスク一覧表」に並ぶ項目だ。項目が増えれば増えるほど、彼らは苛立つ。苛立てば苛立つほど、「まず回収したい」という衝動が強くなる。
二つ目、軍と技術ライン。
この連中は口では「安全」「評価」「研究の境界」「コントロールされた協力」などと口にするが、頭の中は一文に要約できる。「分解できるか? どうやって? 分解した後の所有権は誰のものか?」技術というものが一番タチが悪い。誰かが「これは転用可能だ」と思った瞬間から、それを単なる危険物として扱うのはほぼ不可能になる。危険物は隔離すれば済む。技術は、予算、防衛、ラボ、産業インターフェース、国家の自尊心、「未来」めいた欲望一式を連れてくる。
三つ目、ナラティブライン。
この連中はたいてい少し離れた場所に座っていて、スーツも一段ときれいだ。彼らは必ずしも人間に触れず、技術に触れるとも限らない。その代わり、最後の一行がどう書かれるかを誰よりも気にしている。対外的な呼び名は何か。国際社会はどう受け取るか。教廷はどう反応するか。各国の大使館はどう記録するか。メディアに匂いが漏れるか――彼らは最も残酷ではないかもしれないが、しばしば最も重要だ。なぜなら、すべての醜聞は最終的に彼らのペンを通って、再び体裁を纏うからだ。
そして、この三つのラインが、すでに互いの邪魔をし始めている。
俺は指輪を見つめ、ふっと笑った。
山口多聞はすぐに警戒した。
「また何か思いついたな」
「とてもフランスらしい死に方をな」
「人間の言葉でしゃべれ」
「どの派閥にも、『他の二派が先に抜け駆けしている』と感じさせる」
山口多聞は一瞬ぽかんとし、それから目つきを変えた。
こいつは馬鹿ではない。ただ死んでいるだけだ。理解力まで墓に入ったわけではない。
「情報を流すつもりか」
「違う」俺は訂正した。「流す、じゃ雑すぎる。パリみたいな場所では、粗い情報は安物の香水みたいにすぐにバレる。必要なのは匂いだ。何かを『伝える』んじゃない。こう思わせる」
俺は一本指を立てた。
「『どこか別の部署で、何かがこっそり進んでいる』と」
山口多聞は二秒ほど黙り、それから低く毒づいた。
「お前みたいなのは、和平交渉の席には絶対出しちゃいけない」
「誰が和平すると言った?」
俺は立ち上がり、部屋の中を二歩ほど歩いた。
白い部屋は広くない。この二歩は散歩というより、棺桶の中で寝返りを打つようなものだ。それでも、頭を本格的に回し始めるには、身体を少し動かしておく必要がある。でないと、これから考えるろくでもないことが静止画みたいになって、熱が乗らない。
「内務治安は、手続きが崩れるのを何より恐れる」俺は言った。「だから、軍が彼らを飛ばして直接技術に触れようとしているとか、安全レベルの調整をすっ飛ばして人間に接触しようとしている、と思い込ませさえすれば、彼らは焦り出す」
「軍は?」
「軍が何を一番嫌がるか?」俺は笑った。「他人に物語を先に決められることだ。外交ラインや内務治安ラインが、これを『単なる危機管理案件』として書き上げようとしている、と匂わせればいい。技術部分を先に封印し、格下げし、正式プロセスから消そうとしている、と感じさせれば、あいつらは自分から飛び出してくる」
山口多聞はうなずき、さらに聞いた。
「ナラティブラインは?」
俺は足を止めた。
「一番簡単だ」
「どうして」
「この連中は汚れを恐れてはいない。恐れるのは『みっともなさ』だ」俺は淡々と言った。「レイチェルの場の内容が、『内部事故』で済まず、『フランスが歴史的被害者を安全評価のサンプルとして使った』という形で他人の口に乗る可能性がある――そう嗅ぎ取らせるだけでいい。そうなれば、彼らはすぐさま飛びかかってきて、話全体を押し戻そうとする」
山口多聞は俺を見つめた。
「本気で三方同時に突くつもりか」
俺は首を横に振った。
「突くんじゃない」俺は言った。「それぞれに、非常に筋の通った誤解を一つずつ渡すだけだ」
そういうものがいちばん毒性が強い。
「某省が何をしている」と、直接言ってはいけない。それではただの挑発だ。相手自身にそこまで推論させる必要がある。入口に適切な言葉を差し込み、適切な空白を残しておけば、官僚システムは自力で物語を育てる。しかも、こっちが書いてやる物語より、ずっと「本物らしく」育つ。
システムを暴走させるのは、決して単なる噂話ではない。
半分本当で、半分だけズレていて、しかもそれぞれの欲とぴったり噛み合う情報だ。
俺は指輪を回し、その感触に満足した。
山口多聞がふいに言った。
「今のお前、機嫌のいいサイコパスみたいな顔をしているぞ」
俺はうなずいた。
「的確な指摘だ」
「褒めてない」
「それならなおいい。お前が褒め始めたら、たいていセットで条件がついてくるからな」
彼は一瞬言葉に詰まり、最後はこらえきれず「クソが」と吐き捨てた。
俺の機嫌は、さらに良くなった。
そのとき、ドアの外で、ごく小さな機械音がした。
ノックではない。
誰かが外で体勢を変えたか、イヤホン越しに新しい指示が入った気配。とても小さく、とても抑制された音で、普通なら耳にも入らないレベルだ。だが、俺は今、この白い部屋の外で鳴るあらゆる微かな音に慣れきっている。どの音が監視、どの音が苛立ち、どの音が「上」が考えを変え始めたサインか、聞き分けられるくらいには。
俺はドアの方に目を向けた。
山口多聞も聞いていた。
「誰かが動いたな」
「ああ」
「お前に向けてか?」
「決まってはいない」俺は笑った。「あいつら自身に向いてる可能性もある」
ドアの外は、再び静かになった。
俺はすぐに何かを仕掛けたりはしなかった。
こういう時こそ、動かないことが大事だ。フランスはすでに滑り始めている。この手の局面で、いちばんやってはいけないのは、自分から飛び出して「俺も変数だ」と主張することだ。そんな必要はない。本当に上等なやり方は、横で見ていることだ。安定しているつもりのものが自壊し始める様を見届けて、最大の亀裂が入り、まだ完全に崩れ落ちていないタイミングを見計らって、一本の釘をそこに差し込む。
それは得意分野だ。
生まれつきではない。
生活指導の賜物だ。
包囲されて長く生き延びた人間は、必ず一つ学ぶ。飛び出したところで助かるとは限らない。包囲している側に「向こう側が先に得をしたかもしれない」と思わせた方が、だいたい早い、と。
俺は椅子に座り直し、目を上げて山口多聞を見た。
「行け」
彼は一瞬きょとんとした。
「どこへ?」
「フランスのどこが一番早く尻拭いを始めるか見てこい」俺は言った。「誰が最初に会議を開くか、誰が最初に上に駆け込むか、誰が真っ先に記録を押さえにかかるか、誰が最初に言い方を変えようとするか、誰が一番に説明権を奪いに行くか――全部持って帰れ」
山口多聞が眉をひそめた。
「そこまで細かく要るのか?」
「当然だ」俺は言った。「人間が慌ててる時、口は嘘をつくかもしれないが、順番だけは絶対に正直だからな」
彼は俺を二秒ほど見つめた。
「尻拭いの順番から、誰が何を一番恐れているかを逆算するつもりか?」
「まあな」俺は笑った。「恥を恐れる奴は、まず言葉を押さえにいく。制御不能を恐れる奴は、まず人を増やす。抜け駆けを恐れる奴は、まず自分のラインの連中を集める。パリは嘘をつけない街じゃない。ただ手続きを愛しすぎてるだけだ。手続きがあるところには、必ず痕跡が残る」
山口多聞は少し黙り、それからふいに言った。
「周 士達」
「ん?」
「お前、本当に災害という仕事に向いてるな」
俺は少し考えた。
「悪くない評価だ」
「褒めてねえからな」
「今日はやけに同じことを繰り返すじゃないか」
「お前が今日は特別にムカつくからだ」
「俺がムカつかない日なんてあるのか?」
彼は一瞬言葉に詰まり、最後に冷たく笑った。
「そういえば、ないな」
そう言うと、彼の姿はふっと揺らぎ、再び指輪の中へと沈んでいった。
部屋にはまた、俺一人になった。
いや。
正確に言えば、一人ではない。
ドアの外には国家機械一式がある。白い壁の監視カメラ、イヤホンの中の指示、廊下を行き来する革靴の音、そしてすでに言い回しを変え始めているいくつかのオフィス。それらはただ、この部屋の中にはいないだけで、壁一枚隔てて、息をしていないふりをしている。
俺は手を上げて、指輪に触れた。
冷たい。
役には立つが、文句も多い死人みたいな冷たさだ。
これから何をすべきかは、もうほとんど見えている。
第一歩は、外に向けて大きな種を撒くことじゃない。
それは早まった手だ。
今いちばん価値があるのは暴露じゃない。疑心だ。まずフランス内部の各ラインに、それぞれ「自分の頭越しに何かが進んでいる」と思わせないといけない。互いを監視し合い、穴埋めし合い、疑い合い始めた瞬間、この白い部屋システムが誇る精緻さは、自動的に塗装がはがれ始める。
第二歩、待つ。
誰が最初に手順をいじり始めるかを待つ。
誰が最初に「このままのやり方では進められない」と口にするかを待つ。
誰が最初にある記録を完全に凍結しようとするか、ある人物、ある技術、ある言い方を他人の手に渡る前に先に押さえにかかるかを待つ。
第三歩。ここからが一番楽しいところだ――そのタイミングで、ほんの少しだけ本物を渡す。
全部じゃない。
ほんの少し。三つのラインが同時にこう確信できるだけの量を。「ああ、本当にどこかの誰かが抜け駆けしようとしている」と。
そこまで想像したところで、俺は笑ってしまった。
声を立てて笑ったわけじゃない。
口の端がゆっくりと持ち上がっただけだ。
パリという街には、とても魅力的な長所が一つある。自分は常に周りより上等だと信じていることだ。同じくらい汚いことをしていても、より美しく、より完全に、よりそれらしくやり遂げようとする。だからこそ、他所の街より醜態を恐れる。一度醜くなったら、本能的に殴る前にまず隠そうとする。
そこに、とてつもなく広い余白がある。
俺みたいな人間は、生まれてこのかた最も得意としてきたことの一つが、人が必死で醜さを隠そうとしているときに、その布をもう少しきれいにめくってやることだからだ。
俺はドアを見つめて、低く一言だけ言った。
「さあ、来いよ」
ドアは何も返さなかった。
白い壁もまた、何も返さなかった。
だが俺には分かっていた。この外側では、もう眠りが浅くなり始めている連中がいる。それで十分だ。
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