146.反撃 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
この手の国家マシンは、人を捕まえるのも、ラインを切るのも、口座を洗うのも得意だ。だが、"宗教半分・心理戦半分・屠殺場の美学半分"みたいな邪教の現場については、たいてい「証拠」と「死体」の二つにしか分類しない。だが、中にはそういう分け方が通用しないものがある。彼らが、わざと"見せるために"置いている部分が読めなければ、次の一手は必ず相手の筋書き通りになる。
そこでバローロ神父が口を開いた。
「私も、彼が同行することに賛成です」
俺は横目で彼を見る。
「今日はやけに俺の味方するな、神父」
「私も同行するからだ」と彼は言う。
今度は俺のほうが目尻を引きつらせる番だった。
「あんたが来て何するんだ。現場で臨終の告解でも受けるのか?」
「誤配置された宗教物品の識別」とバローロ神父。「それから、もし内部の教会システムが汚染された痕跡が残っているなら、どの層が模倣で、どの層が借殻なのか、君より早く見抜ける」
それは、確かにその通りだ。
ヴィクトリアが、そこでふいに淡々と口を挟んだ。
「私も行くわ」
俺は振り返って彼女を見る。
「おまえは、なんでだ」
「だって、もしそこで本当に"誘導"とか"位置出し"とか"タイミング取り"に使う装置を見つけたら――」彼女は自分のツールキットをポンと叩いた。「鑑識に夜明けまで待っててもらって分解なんかさせるより、今この場で私が見るほうが早いでしょ」
最後に林雨瞳も、期待通りの台詞を置いてくる。
「なら当然、私もついて行く」
ハビエルは俺たち四人を見回し、その顔つきはまるで「誰がこんな奇形だらけのテーブルを、うちの国家案件のど真ん中に送り込んだんだ」と問い詰めたそうだった。
俺は親切に、答えを教えてやる。
「運命」
「黙れ」とハビエル。
さすがにこれ以上何か続けると本当にテーブルをひっくり返されそうだったので、大人しく口を閉じた。
そこでようやく、ルシアが態度を示す。
「いいわ。ただし、"あなたがたの好きなように"ついて来るんじゃない」彼女は俺を見る。「あなたは私の班に入る。現場はCGINと国警のタクティカル・ユニットが主導。突入、制圧、拘束、封鎖はすべてこちらの人間がやる。あなた、バローロ神父、林雨瞳、ヴィクトリア、この四人は第二波で入る。私の許可なく、勝手に前に出るのは禁止」
「言い方が、まるで俺が毎回勝手に走り回るみたいじゃないか」俺は言う。
ルシアはじっと俺を見据えた。
「あなたは"走り回る"んじゃない。"穴を見つけると飛び込みたくなる"のよ。それで、自分は皆の時間を節約してるつもりでいる」
少し考えてから、俺は頷いた。
「だいたい合ってる」
「だから、私のルールに従って」
「了解」
俺があっさり承諾したのが意外だったのか、ハビエルは少し目を瞬かせたが、追及はせずにそのまま命令に入った。
「三班同時に動く」
彼は手を上げ、壁の図を指差す。
「第一班。工業地帯のコールドチェーン倉庫。Policía Nacional のタクティカルが突入、その後を財務と科捜が引き継ぐ。目標は生きた拘束者、帳簿、機材、車両。第二班。山間部の廃棄された食肉協同組合。山岳部隊とローカルの支援で一帯を封鎖。捕れるなら捕まえる。逃げたらラインをマーキングして追跡。第三班。北側黙想会館。ここはルシアに指揮を任せる。俺が、お前にとって一番"汚れの少ない"、足を引っ張らない連中をつける」
ルシアが眉を上げる。
「"一番足を引っ張らない"?」
ハビエルは、ちらりと俺を見た。
「少なくとも、公的な記録上はな」
その一言で、誰も笑いはしなかったが、場の張りつめ方は少し和らいだ。作戦卓で一番危険なのは、誰もが固くなりすぎて、口から出てくる言葉が全部お役所文書になった状態だ。そういう局面は、たいてい誰かを無駄死にさせる。
続いて、ハビエルが俺を見た。二秒ほど間を置いてから言う。
「今この瞬間から、お前は"証人"じゃない」
俺は視線を上げた。
「やっとか」
「だが、"警察官"でもない」彼は続ける。「お前は臨時外部協力コンサルタント。責任を負う相手は、俺とルシアだけだ。お前が見たもの、聞いたもの、触ったものは、このオペレーションが終わるまで、この作戦チェーンの外には一切漏らすな。もしルールを無視したら――」
「俺を拘束すりゃいい」俺は言葉を引き取る。「了解、話は分かった」
ハビエルは、俺の軽口には乗らない。
彼はテーブル脇から臨時パスを一枚取り上げ、俺の前に放った。
そこには、気の利いた肩書きなんか一つもなく、数字の羅列と、データベースから引っこ抜いたばかりの俺の顔写真、それから、正直ダサいとしか言いようのないスペイン語の許可文が一行、印字されているだけだった。
俺はそれを二秒ほど眺める。
「お前ら、証明書のデザインセンス、終わってるな」
「ドアが開きさえすれば十分だ」とハビエル。
「スペイン人のロマンはどこで死んだんだよ」
「お前が山に入る前だ」
俺はパスをジャケットの内ポケットに突っ込み、これがたぶん人生で一番"危険な身分証"だな、と考える。これは、どこかの組織の名刺みたいにハッタリを利かせる道具じゃないし、軍や警察の証章みたいに、正面きって保護してくれる盾でもない。ただ一つのことを、はっきり告げているだけだ――今この瞬間から、お前は正式にこの国家マシンと縛り合わされた。前に一歩出れば、それは権限かもしれない。もう一歩踏み込めば、それは火線の中かもしれない。
ルシアが一本のペンをテーブルに放り、バルセロナ北側周辺の地図を一枚押しやってくる。
「周士達、そこまでして同行にこだわるなら、口先だけじゃないって証明して」
「どうぞ」
彼女は黙想会館の周辺にいくつか丸をつける。
「もしあなたがC.A.L.F.だったとして――ここで人、物、ラインを隠すなら、本当のコアはどこに置く?」
俺は地図を見下ろす。
メイン棟は斜面の中腹、小さな礼拝堂が右側、左側には古い宿舎が一列、その背後には、庭園兼メディテーション用らしいサンクンガーデンがあり、そのさらに奥に、斜面の林帯が広がっている。普通の人間なら、まず礼拝堂に目を奪われるだろう。いかにも「宗教的な秘密の部屋」がありそうな場所だ。だがC.A.L.F.が一番好んでやるのは、「いかにも重要そうな場所を舞台装置にして、本当に使うものは背景に見える場所に置く」というやり方だ。
俺はペン先で、そのサンクンガーデンを軽く突いた。
「ここだな」
ルシアは何も言わず、続きを待つ。
「理由は単純。ひとつ目。メイン棟からの視線が死んでる。中の人間が物を運ぶにしても、外から裏の斜面経由で出入りするにしても、どっちにしろ目につきにくい。ふたつ目。サンクン式の空間は音を隠すのに向いてる。さっきの牛の頭のシンボルと、山の鐘の音。奴らは音響を"導き"とか"儀式感"の演出に使うのが好きだ。三つ目。一時的な拘禁や"処理"スペースを作るなら、地上の礼拝堂より、地面の下のほうがずっと"仕事場"っぽい」
俺は顔を上げた。
「礼拝堂は、どうせ見世物用だ」
今度はルシアより先に、ハビエルが頷いた。
「うちのサーモ判読とも一致だ。サンクンガーデンの下に、異常な空洞がある」
俺は今度はハビエルを見た。
「最初から知ってたわけか」
「さっき入った」と彼。
「なんで先に言わない」
「お前が"口先だけの人間"かどうか、確かめたかった」
俺は笑った。
「で、今は?」
「今は――」ハビエルは言う。「残念ながら、"本当に役に立つ"と認めざるを得ない」
彼としては、これがほとんど最大級の賛辞だ。
ルシアはすぐさま地図を引き戻す。
「よし。黙想会館の主攻ポイントを、後方に変更。正面は計画通りノイズと視線の牽制。実際のブレイクスルーはサンクンガーデンの外側から行く。突入後、まずコントロールルーム、地下空間、通信設備を制圧。周士達、あなたの最初の仕事は"探索"じゃない。"どこがセットで、どこがコアか"を識別すること」
「了解」
「林雨瞳、あなたは現場のクイックログと画像マーキング担当」
「分かった」
「ヴィクトリア。機械類、鐘楼、誘導、タイミング、トラップ発動装置は、まずあなたが見る。自信のないものは触らないこと」
「自信あるものしか触らないわ」とヴィクトリア。
「バローロ神父。教会のシンボル、聖像、祭壇、文書、封印箱。全部あなたの一次判定。そこでまた"持ち帰って上に伺いを立てる必要がある"なんて言ったら、私があなたを車に縛りつける」
バローロ神父は、深々と溜息をついた。
「了解しました」
俺はテーブルの縁にもたれながら、この連中がようやく物事を「戦争」として語り始めたのを眺めていた。「行政手続き」じゃなく。そうなって、むしろ少し落ち着いた。
状況が好転したからじゃない。
一番危険な瞬間というのは、たいてい敵がナイフを抜いた瞬間じゃない。自分たちがまだ「銃を抜いていいのか」を迷っている瞬間だ。今はもう、全員が同じ事実を受け入れた。C.A.L.F.は、のんびり捜査して、交渉して、裁判所のスケジュール待ちをしていられる案件じゃない。
奴らは、すでにラインの消去を始めていて、複数拠点を同時に動かせる、極端な宗教系暴力ネットワークだ。
こういう相手は、先に手足を折らなければ、これからも誰かがずっと吊るされて血を抜かれ続ける。
部屋が、一気に慌ただしく動き出した。
装備リストを持って入ってくる者、外に出て回線をつなぐ者、監視カメラを調整する者、各拠点の同期タイミングを照合する者。二枚のホワイトボードが中央に引き出され、タイムライン、突入順序、現場の優先順位、医療待機ポイント、後送ルートが書き込まれていく。複数のモニターが同時に点灯し、一方では監視映像が流れ、一方では口座凍結の承認処理が走り、一方では特定済みの数本の電話の位置情報がリアルタイムで追跡されている。
俺はテーブルの前に立って、ふと奇妙な感覚に包まれた。
修道院の、あの死体だらけの床から始まったことが、この瞬間ようやく、本当の方向を見つけた気がした。
謎解きじゃない。
開戦だ。
ハビエルが俺の隣まで来て、声を少し落とした。
「一つ、先に言っておく」
「どうぞ」
「今回の協力は、お前を信用してるわけじゃない。お前のことが好きなわけでもない」と彼は言う。
「奇遇だな。俺もだいたい同じだ」
「だが、C.A.L.F.を片付けるまで、お前はこちら側に立つ」
俺は壁の、血で引きずられたように描かれた牛の頭のシンボルを見つめ、ゆっくりと口元を緩めた。
「コミサリオ、そういうことはわざわざ言わなくていい」
「奴らが修道院の人間を生贄にして、工業地帯の人間を家畜みたいに扱い始めた、その瞬間から――」
俺は手を伸ばし、テーブルの上の銀の鍵をそっと指先で叩いた。
「これは、もうスペインだけの話じゃなくなってる」
ハビエルは二秒黙って、頷いた。
「よし」
彼は振り返り、声を一段上げた。まるで刃がそのまま作戦室全体を薙いでいくような声だった。
「全員、配置につけ。二十分後、同時行動開始」
「今夜は報告書を取りに行くんじゃない。人間を取りに行く」
「生け捕りにしろ。喋れる状態でだ。無理なら、両脚をへし折ってから連れてこい」
作戦室に、誰も格好いい掛け声なんか上げなかった。聞こえてくるのは、椅子の脚が床を擦る音、書類がめくれる音、ホルスターが留まる音、無線機のテスト通話。それだけだった。何よりも実際的で、だからこそどんな熱弁よりも、本物だった。
俺は臨時証明書をジャケットの内ポケットに留め、銀の鍵の箱をそっと閉じた。
バローロ神父が隣で、低く訊いてくる。「何を考えてるんだ?」
俺は壁の、これから突入される三つのポイントを見ながら、静かに言った。
「C.A.L.F.が今夜初めて気づくことを考えてた」
「牧場は、奴らだけが使えるもんじゃないってことを」
「柵の門が閉まった時、中で屠られるのが羊とは限らない」
ルシアが反対側から歩いてきて、防弾ベストを俺に投げてよこした。
「言い終わったなら、それを着て」
受け取って、一瞥する。
「国家のセンスが滲み出るほどダサい代物だな」
「文句言うなら、POLICÍAって書いてあるやつを着せるわよ」
「それよりはこっちがいい」
ベストを被り、ベルクロを引いて締めた。胸に、好きでもない責任をもう一枚巻きつけたような感覚がくる。でも文句は言わない。文句を言って何になる。いざ突入したとき、これは神父の十字架より確実に役に立つかもしれないんだから。
時間が、一秒一秒前に進んでいく。
部屋の照明は白く、冷たかった。テーブルの上の地図と写真は、その光の下で、手術前に並べられた臓器の標本みたいに見えた。外はまだ夜明け前だ。だが俺には分かっていた。今夜はもう、「夜」の時間じゃない。
この瞬間から、鐘を鳴らしに行く番は、俺たちだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




