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84.口を滑らせる 84-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

俺は座席変更の名簿を手前に引き寄せた。


紙面には細かい皺が寄り、端の方はまだ刷り上がったばかりの硬さを残している。俺の名前は一席前に移され、エリザヴェータの側は接待委員会の連中、文化安全顧問、プライベートバンクの代表に取り囲まれていた。彼女が立ち上がった時の見栄えが悪いのを恐れて、座る姿勢まで先回りして決めてやろうとしているみたいだ。


シキがちらりと目をやり、鼻で笑った。


「こんな配置、もてなしやない。首縄や」


林雨瞳(リン・ユートン)は顔を上げなかった。ただペン先が紙の上で一瞬止まる。


「隔離かもしれない」彼女は言った。「質問できる人間、切り離せる人間、話を通せる人間を全部最短距離に配置して。こっちがどんな問いを出しても、まず向こうが用意した肉壁にぶつかるようにしてある」


葉綺安(イェ・チーアン)は一番外側に座り、今日持参するものを三層に分けて整理していた。最上層は表に出せる正式書類、中層は昨晩のやり取りをまとめた写し、最下層は書庫から持ち出した数枚のグレーページ──今日のテーブルの空気を一変させるに足る代物だ。


作業中に余計なことは言わない性分だが、今回は一言付け加えた。


「これは食事会じゃない。検傷よ。ただし今日、傷を確認されるのは私たちじゃない」


エリザヴェータは上座に座っていた。一晩手つかずのコーヒーはとうに冷め切っているが、気にする様子もない。今日の装いは極めて簡素で、濃い色、体に沿ったライン、余計な装飾は一切ない。貴族、血統、伝統、影──そういったものを連想させる要素を意図的に全て封印し、最も装飾の必要のない部分だけを残したように。


位置だけを。


彼女は手袋をテーブルに置いたまま、すぐには嵌めず、二つの書類の束を見つめていた。


「今日は答えを追わぬ」


俺は顔を上げて彼女を見た。


視線は右側の、工学用語で埋まった書類束に落ちている。声は平坦で、冷たい。


「今日追うのは機能じゃ。誰が話を取り繕う役で、誰が話を流す役で、誰が本当に見えるべきものを隠す役なのか。妾が欲しいのはその三層であって、奴らの口先の善意ではない」


シキが椅子の背もたれを後ろに傾け、鼻を鳴らした。


「ほんなら、もっとストレートに聞いたろか?例えば──そんなに安定が大事やったら、一体誰のために安定させとるんや?って」


「最初の一手でそれはダメ」林雨瞳が言った。


シキが横目で彼女を見る。「もっとキレイな刃があるって?」


「ある」林雨瞳は紙を裏返し、自分がまとめた質問の順序を俺たちに見せた。「まず言葉を問う。『非標準化開封』『技術保存』『固定受入れプロセス』──こういう言葉が普通の館蔵品には使われないと、向こうに自分で認めさせる。次に責任を問う。その言葉を使った以上、誰が責任を取るのか。最後に場所を聞く。どこへ、と直接聞くんじゃなくて──もしウィーンが最終保護層だというなら、なぜ移動の話が出ると緊張するんですか、と」


そこで一度止まり、ペン先で「移動」の二文字に線を引いた。


「ここで向こうが失手したら、私たちが地名を言ってやる必要はない」


エリザヴェータが頷く。


「然り。今日は奴らの代弁はせぬ」


そう言って、ようやく手袋を一枚ずつ嵌め始めた。


その動作はゆっくりで、静かだった。だが手袋を引き上げる時、指先がわずかに張り詰める角度を見ていると、昨晩あの小部屋から出てきた時の彼女の姿が頭をよぎる。今はテーブルに出せないものを、彼女は素早く鍵をかけて仕舞い直した──あまりにも本能的な速さで。だが鍵をかけたからといって重さが消えるわけじゃない。その重さはまだそこにあって、ただ居場所を変え、今日テーブルにつく彼女の、より平坦で正確な声になっている。


彼女は踏ん張っている。


踏ん張り方は見事で、そして危うい。こういう時に余計な一言でも出れば、昨晩ようやく閉めた扉がまた揺れかねない。


俺は何も言わなかった。


少なくとも、今は。


エリザヴェータは最後の指を手袋に収め、顔を上げて俺を見た。


周士達(ジョウ・シーダー)、今日はワイスマンを追うな。歴史も、一九四一年も追うな」


一語一語、区切るように言った。昨日の遠隔通信で最も火がつきやすかった場所を、あらかじめペンチで挟んでおくみたいに。


「追うのは手順じゃ。用語。そして誰が一番先に妾らをここに留めようとするか」


俺は頷いた。


「わかった」


「わかっただけでは足りぬ」彼女は言った。


椅子の背にもたれ、視線は俺から離れない。


「ワイスマンが昨日わざわざ直接出てきたのは、妾らに問題を私事化させるためじゃ。旧友、古い因縁、山の血、燃え尽きかけた命、それから奴の口から出た『もう死んだ人間』──これらを投げてくるのは、そなたにまず奴を追わせ、次に奴の影を追わせるためじゃ。だが今日、妾がそなたに求めるのはその逆」


指先でテーブルを軽く叩く。


「影から奴を剥がし、機械だけを残せ」


その言葉が落ちた瞬間、胸の中でずっと燻っていた火が少しだけ収まった気がした。


彼女の言う通りだ。


昨日の通信で一番危なかったのは、ワイスマンが何を言ったかじゃない。奴が人を自分の言語に引き込む術をあまりにもよく知っていることだ。その言語の流れに乗れば、最後まで奴のペースに引きずられる。わざと投げてきた骨、年号、冷笑、半分しか言わない言葉──そういうものを追い続けることになる。


だが奴を一台の機械のオペレーターとして見るなら、問いは変わる。


奴が何を考えているかじゃない。


誰が奴に電力を供給し、誰が奴に防音を施し、誰のおかげでその機械が文明社会の中で電源を入れてもブレーカーが落ちないでいるのか。


俺は低く言った。「今日は駆動系だけ見る。芝居は見ない」


エリザヴェータの目が、ようやく一寸だけ緩んだ。


「よい」


その時、テーブルの端末が光った。


葉綺安が先に開く。接待委員会から届いた最終議程の修正版だった。タイトルが変わっている。昨晩の「歴史的敏感資料臨時保護協調提案」より、ずっとクリーンで、ずっと気持ち悪い。


──接待地側非公開理解会談


シキがそのタイトルを見て、悪い笑い方をした。


「理解会談?誰が考えたんやこれ、薬でもキメとるんか」


林雨瞳が二、三秒で流し読みし、冷たく言った。「タイトルを変えても目的は変わらない。下を見て」


画面をこちらに向ける。


名簿の最後に、一人増えていた。


接待委員会の老人でも、プライベートバンクの代表でも、文化安全顧問でもない──これまで書類の表に一度も出てこなかった名前だった。肩書はひどくあっさりしていて、むしろ存在感を意図的に薄めているように見える。


技術保存連絡担当。


シキがすぐに眉を上げた。


「へえ、『技術』まで堂々とテーブルに乗せてきよったか」


葉綺安がその名前を静かに書き留め、キーボードの上で指を止めて聞いた。「調べる?」


「背景は後でよい」エリザヴェータが言った。「今日、奴が直接テーブルに座ること自体が、背景より使える」


彼女はその肩書を見つめた。目は刃の峰みたいに冷たい。


「歴史的敏感資料の話し合いをしたいだけの会談に、なぜ技術保存連絡担当が必要なのか。今日の最初の一刀は、そこから入れる」


俺は何も言わず、心の中でその肩書をゆっくり反芻した。


技術保存連絡担当。


この七文字は滑らかすぎる。磨き上げられた骨みたいに。「保存」で人心を宥め、「技術」で機能を隠し、「連絡担当」は最もありふれた逃げ道だ──私はただの伝書鳩で、決める立場じゃない、という。


だがこういう逃げ道ほど切りやすい。「ただの伝書鳩」を装えば装うほど、追い詰められた時に本当に決めている奴の名を口走りやすくなる。


エリザヴェータが立ち上がった時、空の色はもう黒から冷たい白に変わっていた。


明るくなったわけじゃない。ウィーン全体が昼間の顔を取り戻し始めただけだ。規律正しく、整然とし、品がある。どんな出来事も、昼の光の中に置けば自動的にもっともらしく見えてくるとでも言うように。


後ろについて外へ向かいながら、彼女の身体から漂うごく淡い冷たい香りを嗅いだ。清潔で、ほとんど意図的なほどに。昨晩の宮廷式の威圧感でも、小部屋の古い血と歴史の匂いでもない。今日の彼女は自分をひどく鋭く整えていた。感情的で、均衡を失った、刺激を受けすぎた貴族の女だと誰かに言わせる隙を、最初から与えないために。


玄関で、彼女が突然立ち止まった。振り返らない。


「もう一つ」


俺は返事をした。


彼女は手袋の端を整えながら、天気でも確認するような声で言った。


「もしイレーナが今日その場にいたら、奴の言葉には乗っていい。だが奴のリズムには乗るな」


シキが後ろで「ふん」と鼻を鳴らした。ずっと待ってたんだろう、その一言を。


俺は笑いをこらえながら、素直に答えた。


「区別はつく」


エリザヴェータがようやく横を向いて、俺をちらりと見た。


「本当につくといいが」


その一言に、嫉妬の気配はなかった。刺さるものも何もない。


だからこそ、俺にははっきりわかった。彼女が話しているのは女のことじゃない、道具のことだ。イレーナは余韻じゃない。一夜の肉体的交換が残した危険な残り香でもない。自分で開く角度を選ぶ扉だ。俺に渡してくる言葉はどれも値打ちがあって、どれも代償を伴う。その代償をいつか理解とか親密さとか阿吽の呼吸だと勘違いし始めたら──俺が扉を使っているんじゃなく、扉が俺を使っていることになる。


俺は低く言った。「わかってる」


エリザヴェータはもう何も言わず、外へ向かった。


車が出発した時、ウィーンの朝はもう完全に目を覚ましていた。窓は清潔で、街灯は消え、路面電車が整然とした軌道の上を滑っていく。カフェの椅子が一脚ずつ引き出される。この街が昨晩、何かを経験したとはとても思えない。ワイスマンの顔も、一九四一年ベルリンという言葉も、書庫の灰色も、歴史資料には載るはずのない工学用語も、ある街が別の街を自分の後ろに隠そうとしていることも、何もない。


窓から整然とした建物の正面を眺めながら、俺はだんだん苛立ってきた。


ウィーンが本当に優れているのは秘密を隠すことじゃない。「隠蔽」を制度にして、「たらい回し」を文化にして、「私たちは何も知らない」を一種の高級な教養にしてしまえることだ。だからテーブルにつて安定を語る連中は、みんなただ世界が醜くなりすぎないようにしているだけみたいに見える。でも本当にテーブルクロスの下に手を伸ばしてみれば、全員が、どの角を捲ってはいけないか知っていることがわかる。


シキが隣で、次々と後ろに流れていく建物を見つめながら、ぽつりと言った。


「前はな、直接刃物を持ち出す奴が一番嫌いやった。でも間違ってたわ」


俺は振り返った。


シキが冷たく笑った。


「直接刃物を出す奴は、少なくとも嘘をつかん。ここの連中は刃物を銀の皿の下に隠して、『デザートはもう一皿いかがですか』って聞いてくる」


俺は笑えなかった。


あまりにも正確だったから。

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「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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