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77.情報交換 77-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

晩餐の散会は、音楽よりも遅かった。


最後の弦楽がまだ高いところで響いているのに、グラスとグラスが触れ合う細い音は、もう一層一層と引いていく。扉の外で小声の別れが交わされ、誰かがひどく大げさに笑う——自分の体面を取り繕うために。


真鍮の鍵が俺の掌に冷たく食い込んで、硬い線を刻んでいる。今夜、本当に残ったのは、酒でも名帖でも立場表明でもない。一枚の扉だ。


エレオノーラは客を見送らなかった。


ただ内廳の扉のそばに立ち、黒いシルクの手袋をはめた手で、軽く扉枠に触れている。最後に残るべき人間が、自分で空気を読むのを待っているように。


エリザヴェータが彼女を一度見て、それから俺を見た。


その視線は短かった。刃が酒面を掠めるくらい、短く鋭く。


「外の者が全員引き上げるまで」彼女は言う。「妾は今夜集めた名を仕分けに行く。汝は残れ」


エレオノーラの唇の端が、わずかに動いた。弧は小さいが、深い。


「女大公殿下は、本当にお優しいこと」


「優しさではない」エリザヴェータは手袋を一寸ずつ引き伸ばしながら、温度のない声で言う。「汝が先ほど、あのテーブルの前で妾の手への一刀を受けてくれたからじゃ。品定めをしたいなら、すればよい。ただし——品は妾のものじゃということを、忘れるでないぞ」


エレオノーラの深紅の瞳が、初めて本当の光を宿した。


「所有権は、常に尊重いたしますわ」


「そうしておけ」エリザヴェータはそう言ってから俺の隣まで来て、手を伸ばし、酒の気配で微かに乱れた俺の襟元の折り目を指腹で押さえた。その指が喉仏の上を掠める。提示のようでもあり、委任のようでもある。「今夜、彼女が求めているのはお前の失態ではない。お前の本音だ」


「分かってる」


「いや」彼女は俺を見て、声をさらに低くする。「彼女が今夜見たいのは、お前が本音をどこまで言えるか、だ」


言い終えると、彼女は俺の掌からあの真鍮の鍵を取り上げ、一度見てから、また戻した。


「なくすなよ」


それだけ言って、彼女は背を向けて出て行く。


内廳の扉が、背後で静かに閉まる。音は小さかった。だが、その一音で、この場の空気が一段、収縮した。


---


ここは応接室ではない。


エレオノーラの内廳——人が公の顔を脱ぐために用意された場所だ。


外はウィーン。中は、彼女だ。


酒棚の水晶瓶は、揃いすぎるほど整然と並んでいる。壁の絵画は、口を割ることを拒むように暗い。テーブルは細く長く、食事のためというより、条件を並べるためにある形をしている。


彼女はすぐには口を開かなかった。


黒いシルクの手袋を、ゆっくりと脱いでいく。一本の指ずつ、抜いていく。礼儀という名の何かを、身体から剥がしていくように。


脱ぎ終えると、手袋をテーブルの上に置いた。俺がさっきグラスを置いた場所の、すぐ近く。近すぎるのは、意図的だ。


「今夜は、思ったより静かでしたのね」彼女は言う。


「今夜は、喋りすぎた人間が鍵を手にしてなかったからな」


「では、手にした後は?」


「どこへ通じる扉かを見てから、何を言うか決める」


彼女は低く笑い、こちらへ歩いてくる。俺の正面に立つ。


「エリザヴェータは、あなたをよく仕込みましたのね」


「犬を褒める言い方だな」


「違いますわ」彼女は手を上げ、指先で俺のネクタイの結び目を押さえ、下へ引いた。 俺が少し頭を下げて彼女を見ざるを得ない角度まで。「犬は吠える。あなたは今夜、息の音さえ収めていた。それは刃に近い」


俺は引かなかった。


彼女も引かなかった。


二人の間には、酒の香りと、香水と、晩餐から持ち込まれたわずかな熱気だけが残っていた。彼女の纏う匂いは甘くない。深い色の花弁に、煙と木が重なったような香り。近づいてはじめて、その底に、危険な種類の温もりが一筋あることが分かる。


「それで」俺は言う。「俺を残したのは、刃の切れ味を確かめるためか?」


「半分は」


「残り半分は?」


「切る時に、音がするかどうか」


彼女はネクタイをもう一度引いた。今度はさらに近く。睫毛が灯りの下に落とす影が、はっきりと見えた。その瞳の奥にあるものは、欲望とは少し違う。もっと冷たく、もっと正確で、値踏みをしている目だ。


俺は手を伸ばし、彼女の手首を押さえた。


「エレオノーラ」


「なに?」


「試してもいい」俺は彼女を見る。「ただし、ただ俺を抱きたいだけのふりはするな」


その瞳の奥の笑みが、初めて本当に割れた。


「結構」彼女は低く言う。「男が自分を戦利品だと勘違いするのが、一番好きじゃないの」


言い終える前に、彼女は唇を重ねてきた。


探るような触れ方ではない。晩餐での擦れ合いとも違う。唇は熱く、酒と辛みのある果実の香りを帯びていた。ぶつかってくる力は、しかし、恐ろしいほど冷静だ。どれだけ押せば相手が退けなくなるか、どれだけ深ければ逃げられなくなるか——計算しながら、それを感じさせない。


俺は片手で彼女の腰を掴み、テーブルの縁へと押し込んだ。水晶瓶が卓上で微かに震え、中の酒液が一周揺れた。この内廳で唯一、この場の乱れを認めようとしているものだ。


彼女が低く息を吐く。指先が俺のネクタイから滑り込み、シャツの襟口を辿って、喉仏を越え、二番目のボタンの上で止まった。


「さあ」彼女は俺の唇に触れたまま、声を磨り出すように低くする。「情報交換と参りましょうか」


「さすが貴族の流儀だな」


「違いますわ」彼女は二番目のボタンを外し、俺を見る。「これはウィーンよ。貴族は欲望を礼儀の形に包む。ここはその包み紙を、直接剥がす場所」


俺は笑った。


彼女は目を細めた。こんな時に笑えるのが気に入らない、という顔で。次の瞬間、彼女は俺を噛んだ。軽く。だが痕が残る程度には。


「先に答えなさい、周士達(ジョウ・シーダー)」本名で呼ぶ。「ハインリヒ・フォン・ワイスマンが今、表向きに名乗っている肩書きを知っている?」


「リヴァイアサン・バイオテクノロジーの最高経営責任者」俺は言う。「それと、死霊工学の博士号」


「結構。では——本当に危険なのは、肩書きではないと、分かっている?」


「分かってる。本当に危険なのは、その肩書きで、多くの人間が扉を開けてしまうことだ」


彼女は俺を見た。答えが速すぎないか、確かめるような目で。


すぐには返さない。代わりに、脚をゆっくりと俺の両脚の間に割り込ませた。スカートの布地が西洋ズボンを掠め、細かく、しかし致命的な熱を引く。俺の手掌が彼女の腰を辿り、背中の布地の下に隠れた留め具の列に触れた。彼女の呼吸が半寸、乱れる。だが瞳はさらに鋭く光る。


「あなたは私が思っていたより危険ね」彼女は言う。


「だから残したんじゃないのか?」


「残したのは」彼女は言う。「エリザヴェータが、あなたをテーブルに置く覚悟があったからよ」


彼女は額を俺の額に当て、鼻先が触れそうなほど近づく。


「今夜あのテーブルにいた者のうち、三分の一は彼女を買おうとしていた。三分の一は試そうとしていた。残りの三分の一は、彼女が倒れるのを待っていた。それでも彼女はあなたを前に出した——まるで、すでに署名済みの答えを提示するように。これが何を意味するか、分かる?」


俺は指を一本引っかけ、背中の最初の留め具を外した。


「他人に見られることを、怖れていないということだ」


「違う」エレオノーラは低く笑い、手を伸ばして俺のスーツの上着を肩から押し下ろす。「他人にはっきり見せたいということよ——彼女の領域に触れようとする者が、最初に触れるのは誰か、ということを」


彼女のスカートは体に沿っていた。沿いすぎていて、一種の緩慢な刑罰のようだ。 俺は彼女を抱き上げてテーブルの縁に座らせる。軽い。だが落ちた瞬間に、テーブルの空気を全部、彼女が埋めた。 彼女は俯いて俺を見る。膝をわずかに開き、つま先が俺の脚に引っかかる。その動作は、優雅すぎて残酷に近い。


「では、こちらから半枚のカードを」彼女は言う。


「聞いている」


「あの真鍮の鍵は、档案庫の正面玄関ではない」彼女は話しながら、手を伸ばして俺の袖口を外し始める。指先が手首の骨を辿る。刃物の重心を確かめるように。「外扉しか開かない。その先にはもう一枚、鉄の扉がある。扉の向こうは档案室ではなく——篩の間よ」


「何を篩にかける?」


「名簿。輸送。受領。返却。焼却。番号の付け替え」最後の三つを言う時、彼女の声は低くなった。壁に聞かれたくないかのように。「そこに残っているのは、普通の商業文書ではない」


俺は彼女を見つめる。


「中に入ったことがあるのか?」


「私の家の者が、入ったことがある」彼女は言う。


「中に何があるか、知っているということだな」


「一部は」彼女は身を傾け、唇が俺の耳の脇を掠める。吐息は熱い。それでいて、言葉は氷水のように冷たかった。「悪夢を見るには十分。宴席で声を上げるには、足りない」


俺の手掌が彼女の腿の外側を辿り、布地の縁で止まった。彼女の呼吸が一瞬詰まり、指の爪が即座に俺の肩へと食い込む。先に崩れるのは自分ではない、という警告だ。


「それで、俺から何を引き出したい?」


彼女は二秒、黙った。それから口を開く。


「もし中で、私の家の名前が載ったページを見つけたなら——先に私に持ってきて」


「それだけか?」


「それ以外に何が?」彼女は俺を見る。瞳の底に、薄く、危険な笑みが浮かんでいる。「エリザヴェータへの裏切りを、ここで要求すると思っていた?」


「そんな馬鹿なことはしないだろうと思った」


「正解よ」


彼女は再び俺の唇を塞いだ。今度は長く、深い。外の最後の音楽がとうに消えて、内廳には俺たちの呼吸と、布地が擦れる音と、テーブルの角に何かが当たる細い音だけが残っている。彼女の手が胸を辿り、ベルトのバックルの上で止まった。すぐには外さない。ただ軽く触れる。問いかけのようでもあり、命令のようでもある。

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