戦後の人事移動
そして、帝国と惑星アルファサイドとの手打ちが済んでひと月。
平和が戻ってきた。
もう戦わなくてもいいというのに、乙姫は発令所の中でウロウロそわそわ。
落ち着きなく狭い発令所を歩き回っていた。
「少しは落ち着いたらどうだい、乙姫?」
「落ち着いてなんかいられません! 戦争が終わって艦隊は解散。御役御免になった船の解体が、次々と決定してるんですよ! そんな中での人事移動なんですから!」
「なんですから?」
「い、いえ……その……なんでもありません!」
真っ赤になってそっぽを向く乙姫だけど、砲雷長がニヤニヤしながら近づいてきた。
「そんな中での人事移動なんですから、大好きな麻実也艦長が退艦になったら、私どうしよう!」
などとあまり似せる気のなさそうな乙姫のモノマネでハンカチを噛み締める。
「砲雷長っ!」
乙姫は怒りを露わにするが、耳まで赤い。
「待って待って、僕もこの船を降りたくはないんだけど、乙姫はそうじゃないの? 僕が降りてもかまわないのかな?」
「あ、いえ、そういう訳ではなくて。砲雷長の言うような私まみれな感情やワガママなどではなく、艦長の移動は全体の士気にかかわると申しますか」
「主に私がションボリしちゃうから」
「そうそう、主に私がションボリしちゃうから……って砲雷長っ!」
またまた砲雷長は脱兎のように逃げ出した。
「その辺りは心配してないけどね、僕は」
潜水艦乙姫が戦時中これだけの武勲を立てられたのは、欲まみれな地球の日本人である僕が、主砲のエネルギータンクの役割を果たしたからだ。
移動の可能性は、千にひとつ、万にひとつの確率も無い。
もしもその可能性があるとすれば、移動先は同形艦の桜姫か綾姫、あるいは藤姫ということもあり得るけど、わざわざそんなことをする必要が僕には見い出せない。
なにしろ僕は他の星から拉致されてきた異星人。
それを戦争目的で利用しているのだ。
とてもではないが帝国側、いやアルファの人民にも知らせることのできない存在なのだ。
変に触ることなく、できるだけ秘匿するような人事。
つまり現状維持がベストな策だと僕は思う。
「ムシル泊地司令部より入電!」
通信士が伝えてくれる。
「暗号文、乙・乙・乙! 潜水艦乙姫、艦長伊藤麻実也! 現状維持だそうです!」
重要書類やメモ用紙が、発令所に舞った。
乙姫は脱力しきったように、へニョリラと潜望鏡にもたれかかる。
「なお伊藤艦長は戦果は評されて、中尉に昇進だそうです」
盆と正月が一緒に来たような騒ぎ……とおもったら、僕の昇進にはみんな興味がなかったようだ。
というか、僕の残留で喜び過ぎたというのが正しいか。
とにかく、薄いレスポンスであった。
とりあえず、艦長席を降りて乙姫の肩を叩く。
「乙姫」
「……麻実也艦長……」
「これからもよろしくね」
「はい! よろしくお願いいたします!」
勢いよく頭をさげた乙姫は、手すりに額をぶつけていた。




