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13.企画物はバレンタインとチョコとで甘くなるかと思ったけれどやっぱり通常運転です

*ハッピーバレンタイン企画。

読み捨てSS。


*少しの間「活動報告」に掲載していたSSと同じ内容です。

「あーちゃん。はい、これ」

 瑛が、いつものイケメン度を数倍も輝かせ、翠に茶色の紙袋を手渡した。

「……いらない」

 しかし翠は長年の勘を働かせ、受け取りを拒否する。

「え―。ダメだよ。ちゃんと受け取ってくれなきゃ」

 笑顔をそのままに、グイグイと無理やり翠に紙袋を押し付けた。渋々受け取った翠だが、想像よりも重いソレに首をかしげ、中身を覗いてみる。中に入っていたのは白い液体が入った透明な袋とチューブと取扱い説明書。

「何これ? ボンド?」

「違う、違うよー」

 モジモジと両手を後ろに組んで、翠より背が高いはずの瑛は、器用にも上目遣いで翠の顔を覗き見た。

「あーちゃん。今日って、バレンタインだよね?」

「うん。朝に、麦チョコあげたよね」

「うん! 美味しかったよ! あーちゃんがくれたチョコだもん。世界で一番美味しいよ!」

「そう、よかった」

 朝に翠の家の前でソワソワしていた瑛に、翠はラッピングもなにもしていない、スーパーで買った裸のままの麦チョコを渡しておいた。因みに、受け取った瑛は「……裸のままの麦チョコって意味深だよね。暗に麦チョコがあーちゃんの……ぐは!!」と、全部のセクハラ発言をいう前に、翠の回し蹴りをくらう。しかし、玄関前で大の字に転がりながらも「へへへ。あーちゃんの毛糸のパンツ」と言って大層喜ぶ。いつもの光景。変態は通常運転である。

「そういえばさ、他の子から貰った? 何個? 何個? 瑛のその顔に騙されて、まだ変態と知らない憐れな子達もいるでしょ?」

「……逆にあーちゃんは、僕が受け取ると思う?」

「あーごめん。色々、ごめん」

 翠は反射的に瑛の『ヤンデレスイッチ』が入る前に、素直に謝った。少しでも、瑛の翠に対する愛情を疑う発言をすると後々が面倒なのである。瑛にチョコを渡そうとした(翠に対する盲目かつ変態の度が過ぎる激愛振りを知らない)憐れな女の子達に対して、瑛は絶対零度の視線で全部薙ぎ払ったのだった。

「でね、今回のバレンタインって、僕たちが両想いになって……初めてでしょ?」

 再度モジモジとする瑛に対し、翠は内心(ケッ、この乙女が!)と目を細くし、嫌な予感を働かせる。

「安心して! ホワイトチョコと苺チョコは買ってあるから! だから、あーちゃんは、その“シリコン”を使って、あーちゃんの“ピ―”(※)の型を取ってくれるだけでいいんだよ! チョコを流すのは僕がするから!」

「……」

「シリコンで肌が荒れないように、このクリームを最後に塗ればいいみたいだし。もちろん、僕も型どりも全面的に協力するよ! クリームも上手に塗ってみせるしね!」

 興奮気味に前のめりになる瑛。翠は、わいせつ物がギュッと詰まった紙袋を、思いっきり瑛の顔面にフルスイングした。

「~!! どこの誰が“ピ―”(※)の型を嬉々として取るか―! この変態! こんな事に使われると思っていない、シリコンとクリームの製造者の皆様に土下座して謝れ!」

 ガシガシと瑛を蹴り上げていると、ふいに瑛に足を掴まれる。

「……あーちゃん。これ、何?」

「はぁ!? 誤魔化そうと……したっ……て……」

 瑛が手にしているのは、可愛いピンク色のラッピングがされたチョコレート。瑛にフルスイングした時に、一緒に翠が持っていた手提げ袋もはじけ、中身のモノが出てきたのだ。

「……の」

「あれ? こっちにも落ちているね。ハート型だ。あ、あっちに落ちているのはよくCMをしている高級チョコ。手作りのなんかもあるね」

 瑛と翠の周りには、一〇は軽く超えるチョコレートが散らばっていた。

「いや、あのね」

「『翠様へ♡ LOVE』だって。……あーちゃんは、モテるからね」

「その、瑛? 返して?」

 黙々とチョコを拾い上げながら一読した手紙や宛名カードをポケットに入れていく瑛に、翠は下手になるしかない。

「うん? なんで? 差出人が誰か、彼氏である僕が把握しているべきだし? これってさぁ~浮気じゃない?」

「みんな女の子だよ? しかも、元はあんたのファンの子たちでしょ?」

 翠は元々、瑛のファンの子にやっかみをうけ、呼び出しをされていた。しかし、そのほとんどは翠の清々しいまでの瞳と態度、行動に、トキメキ、そして、後からやってきた瑛の変態ぶりに、ドン引いて恋心を強制終了させていた。そして、瑛に対する翠の行動に目をハートにし、信者となっていくのだ。

「僕はね……あーちゃんが他に優しさを向けるのが嫌なんだ。僕の心はペットボトルの蓋に入れた水程度の量の深さと広さしかないよ?」

「いや、そこは海よりも深くて広いでいこうよ。浅くて狭すぎるよ」

「あーちゃん」

「……」

 瑛は散らばった心のわいせつ物であるシリコンやチューブを改めて、紙袋に入れ直して微笑みを浮かべる。そして、今度は翠の手をぎゅっと握りしめた。

「僕のお願い、叶えてくれるよね?」

 翠は瑛のポケットをチラリとみる。あの中にチョコをくれた子からの手紙が入っているある意味人質のようなものたち。例え取り返しても、一読した瑛の頭には全部はいっているだろう。

「はぁ。その子達に何もしない?」

「あーちゃん次第」

「はぁ―」

 大きなため息をついていた翠は瑛に引きずられながら、瑛の家に拉致された。――その後、翠がどうなったのかは、ご想像にお任せである。


作中にあります

“ピ―――”(※)は、お好きなところでどうぞ。


ピュアな方は「唇」とご想像されたかと思われます。

しかし、「裸体の全身」とか「おっぱ…」とか「ピー――」とか想像された方は、作者に毒されています。残念ながら手遅れです。

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