「物理部の怪談」
「九月に入ったっていうのに、毎日あっついですね~」
下敷きでバタバタと扇ぎながら部室に入ると、タオルを首にかけた部長がぽつんと部室の真ん中に突っ立っていた。窓の外をぼーっと見つめているようで、こちらには背を向けている。
「あれ、部長? 今日は用事あるって言ってませんでしたっけ?」
声をかけると、背を向けたまま部長が妙なことを言った。
「……暑いから、怪談でもしないか……?」
「うち物理部ですよ? なんの関係がーって、いやですよー、部長。こっち振り向いたらのっぺらぼうだったりしないでくださいね?」
部長は妙な小ネタを仕込んでは、わたしを驚かせるのを生きがいにしているようなところがあって、わたしはよく被害にあっていた。なので、たまにはこっちから反撃してやろうと、なにかネタでも仕込んでるのかと早めに釘をさしたら、部長の肩がぴくりと震えた。
どうやら思ったとおり何かのネタを仕込んでいたらしい。
「あー、えーっと。一つ目小僧だったらいいか?」
「三つ目ならかわいいかも?」
にやにやしながら部長の肩に手をかける。
「どんなネタ仕込んだんですか?」
こちらを向こうとしない、部長の背中側から、部長の顔を見ようとのぞきこんだら。
首にかかったタオルごと、部長の首が、ごろん、と転がって床に落ちた。
「……すまないな、三つ目は用意していないんだ」
床に転がった部長の首が、のっぺらぼうな顔で、すまなさそうに言った。
帰宅途中に、踏み切りの事故で部長が死んだと聞いたのは、翌朝のことだった。
最後にわたしに会いに来てくれたことは、嬉しく思うべきなのだろうか。
なんとなく、来年のお盆には部長が三つ目を用意して、わたしの前に来てくれそうな気がした。
死してもそれをネタにする部長の芸人根性を笑ってあげるべきなのか、首がゴロンな不気味な話と取るのか、解釈は読んだ方におまかせします。




