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黒猫の魔導書  作者: 巌沢雪乃
元騎士団長、転生する

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プロローグ

 自分の世界を表現できたらな、と思います。よろしくお願いします。

目が覚める


 神は何を考えているのだろうか。自分の想像の及ばない出来事を前に、私はただ目を瞑った。




 <ライトハルト王国>の王都。そこで騎士団長として生きた私は、妻も子供もできぬまま戦場で散ったはずである。それがどうしたことか、見たことのない部屋で目を覚ました。

 自分が死んだ、そう思っていたにも拘らず目を覚ました場合、まずどんな行動をとるだろうか。

 私はまず手を持ち上げ、顔の前まで運んだ。


「なんだ、これは」


 剣だこや無数の切り傷によりごつごつとしていたはずの手は、細く白く柔らかな手に変わっている。驚いて上げた声は、戦場でも響く低く太いものではなく、鈴を転がすような愛嬌のあるものであった。

 慌てて起き上がり、自身の体をまさぐった。ないはずの場所には柔らかな控えめな山が。あるはずの場所にはあるべきモノがない。


「なんだこれは……」


 死んだと思っていた私は、あまりにも細く、あまりにもか弱い体に生まれ変わってしまったようだった。




 目を瞑り、また開く。何度か繰り返すも夢ではないようで、目の前の光景は変わらず現実であることを伝えてきた。

 諦めて目を瞑っていると、誰かが部屋に近づく気配を感じた。

 もし敵兵であるなら姿を見せてはまずい。急ぎ、しかし音は立てずベッドの横に降り、身を隠した。


 肉体が変わり、心臓も随分弱くなってしまったらしい。自分で聞こえてしまいそうなほど跳ねる鼓動と、緊張による喉の渇きに耐えること数秒。


「ソニア、入るわよ」


 ノックとともに入ってきたのは一人の女性であった。


「ソニア……?」


 少なくとも害意は感じないその声を聞き、意を決して立ち上がった。


 障害物がなくなり視界に入った女性は驚いた顔をしていた。やがて目元に涙を滲ませたかと思えば、その場に膝から崩れ落ちた。

 声を堪えてうずくまる彼女に困惑したが、事情があるのだろうと歩み寄り肩をさすった。その瞬間に抑えていた声も漏れ始め、本格的に泣き出してしまった。これはしばらく落ち着かなそうだ、そう思い膝をついて涙が止まるまで彼女に寄り添うことにした。




 かなりの時間そうしていたと思う。窓から差していた陽光がオレンジ色に染まった頃、鼻を鳴らしながらも女性は呟いた。


「ソニア、あなた目を覚ましたのね……」


 呼ばれた名前は馴染みのないものではあったが、きっと自分のものなのだと察していた。


「えっと、その……はい。そのようです」


 この女性と自分のこの肉体の関係がわからない以上、発言には気を付けるべきだと思い、神妙な顔をしてうなずいた。

 女性はきょとんとした顔をした。


「私のこと……わかるわよね……?」


 こちらの目をのぞき込む彼女の栗色の瞳には、どこか恐れにも似た感情が見て取れた。

 何と答えるべきなのか悩んだ挙句、静かに目を閉じて首を横に振る。


 女性は目を見開く。しかし優しい顔で微笑み、私の頭をそっと抱き寄せた。




 しばらく彼女から現状を聞いた。判明したことがいくつか。

 一つ。彼女は自分の母親である。名前はルディアだそうだ。

 二つ。自分の名前がソニアで、数日前に川で溺れ、昏睡状態にあったこと。そして今は十四歳らしいこと。

 三つ。今は統合歴1628年。つまり、ソニアが戦死してからちょうど300年が経っているということだ。


 くぅ、と音を鳴らしてソニアの体は空腹を訴えた。しばらく意識がなかったのだ。何も摂取していなかったこの体は栄養を欲していた。


 食事を済ませた頃に、父であるゴルドが仕事から帰宅した。母よりも大きな声で泣いた彼は、母と同じくソニアを抱きしめた。ひどく汗臭かったが、その抱擁は長らく忘れていた愛情のようなものを感じさせた。


 ゴルドが水浴びをしている間に家の中を歩き回ることにした。部屋が三つ、それを繋ぐ廊下。そして厠と水浴び場があった。

 部屋の一つは居間兼台所。そして残りの二つは両親の寝室と私の寝室である。発光する小さな瓶が各部屋の壁に設置されており、それが照明の役割を果たしているようであった。


「ふぅむ……」


 顎に手を当てて観察する。照明の瓶の中央には優しい明るさの光源が浮かんでいた。底の方には何やら粉末が積もっている。元々暮らしていた環境ではこのような物は存在していなかった。時間の経過と共に、いくらか生活の質が上がっているようだ。理解の及ばない技術に溜息を吐いて感心していると、ルディアが顔を出す。


「それが気になる?」

「はい」


 問いに対し頷くと、ルディアが歩み寄ってきた。


「これは|魔石灯<マナランプ>よ。ずいぶん昔に勇者様が開発した物なんですって。詳しくは知らないけど、砕いた魔石を入れて蓋をすると光るの。ちょっとお高いから壊さないようにね?」


 微笑みながら解説してくれたルディアにお礼を言い、今の発言に対して少し思考する。


 まず勇者。おとぎ話で聞いたことがある存在だ。強大な力を持つ魔王と呼ばれる存在が誕生し、世界が混沌に沈む。そこで、神から力を授かった存在、勇者が誕生し魔王を退ける。そんな話に憧れて力を求め、必死に訓練した時期があったなと思い出す。

 しかし、あくまでそれはおとぎ話であったはずだ。ソニアの死後に何が起きたのか、いつか知らなければならないと感じた。


 そして魔石の粉末についてだ。ソニアの知識では、魔石は大きな衝撃を与えると爆発を起こすはずである。技術の進歩により粉砕が可能になったのだろう。

 きっと他にも知らない常識が現れるのだろう、とソニアは思った。

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