遊びの前触れ、現世(うつしよ)への迎え
今更ながら、プロローグを書いてみました。割り込みになりますが、ここから読んでいただけたらなと思います。
鳥居を潜ると、視界を遮るように深い霧が立ち込めていた。
日の光すら届かない薄暗い境内には、人っ子一人いない。
だが、一歩でも先に進めば、あの日に死んだ、少女の声が響き渡る。
『狐さん、みんな来るかな?』
細められた瞼の隙間から、ギラリと赤い瞳が覗いた。
ゴロゴロと涼しい日陰で寝こけていようとしたが、耳元で鈴のような少女の声が優しく響き、それは断念することにした。
今年もまた、あの季節が巡り来る。
ジメジメとした空気が身に纏わり付いて気持ち悪い。昔の現世はこんなに蒸し暑くなかったのに、人間の発展と共に「温暖化」なるものが進んでいるという。
朝も夜も遠ざかる気配のない暑さは、生え変わった毛皮では動くのも億劫になる。
「うん、来るよ」
『楽しみだなあ。今度は何をして遊ぼうかな?』
「そうだね。楽しみだ」
『狐さんも一緒に遊ぶ?』
「勿論だよ」
『本当!? じゃあ、追いかけっこがしたい! まだ決着ついてないでしょ?』
「そうだね。君との勝負はいつか決着をつけなきゃね。でもその前にみんなを迎えに行かないとね」
『うん、待ってるからね! 早くみんなを呼んできてね!』
少女は声を弾ませる。
すると忽ち、境内の霧がカーテンのように開けた。
今しがた、この場所は閉ざされた空間と化したのだ。
この場に呼ばれる子供たちは、すでに夢の中にいる。
──夢か、現か、どちらを選ぶだろうか。
マヨイガの社編に続きます




