第五章 十九 正体現す
流都は状況を見守るしまなかった。公園から輝が近づいてくる。見知らぬ顔だ。エマと会話していたのをチラッと見えた。
誰?
思い浮かぶのはマネジャーだ。それ以外思い浮かばない。
「そこの子。ちょっといい?」
輝はりりかに話しかけた。
「何でしょう?」
りりかは驚く事もなく、真顔で普通に喋った。
「手に持っているカエルをくれないでしょうか……」
輝は単刀直入に言った。
それを聞いたりりかは無言だが、顔は鬼の形相で、とても渡してくれる状態ではない。
それどころか襲いかかってきそうだ。
輝もどうすればいいかわからずに無言だ。
「それちょっと、貸してくれない?」
輝の背後からエマだ。この状況を打開できるのか。
「貸す? ほら!」
りりかはエマに近づき、カエルを顔に近づけようとした。
「きゃっ!」
エマは悲鳴とともに後退した。
りりかが右手にカエルを握っている背後から、流都はそっと近づき、手首を掴んだ。
「何をするの?」
りりかが首だけ回転し、流都を見た。
「これだよ。ほしい人がいるんだって!」
流都はりりかの腕をさらに強く掴んだ。
「痛い……」
と、りりかは言って、手に持っていたカエルを落とした。
「エマさん、カエルを……」
流都は咄嗟の事で、エマの名前を呼んでいた。りりかは押さえているので、動けない。
エマもカエルを掴まえたいが、気持ちが悪くて動けなかった。
「よっしや!」
輝だ。素早くカエルを掴んだ。そして振り返った。「どうぞ」
と、エマの目の前にカエルを突き出されても受けることも出来ずに、拒否するかのように後ずさるするのだった。
「それ、よこせ!」
輝の背後から人太である。不意打ちだった。体当たりしてきたので、その勢いでカエルが手から落ちた。
カエルはエマの前だ。しゃがんで手を出せばすぐに掴める位置だった。
動けない。
「もらい!」
人太は悠々とカエルを手に入れた。
するとマンホールの蓋がカチカチと音をたてた。
「浮いている!」
輝は目の前で起こっていることが、理解できなかった。いや、重いマンホールの蓋が不自然に浮いていることの合理性の理解に苦しみ、口を開けて傍観するしかなかった。
カエルは急に暴れ出し、人太の手から離れた。
「捕まえて!」
流都は叫んだ。
カエルはマンホールに向かって跳び跳ねた。
その言葉に輝はハッとし、カエルに手を伸ばした。タイミングよく、手に収まった。
ように見えた。
輝がカエルを握ろうしたがぬるっと滑り、手から逃げて行く。着地し、そのまま飛び跳ねた。
「ああっ!」
悲痛な叫びが大きかったのは流都と留樹緒だ。
カエルはマンホールの穴に消えたからだ。
万事休すか?
しばらく誰もが時間が止まったように静止していた。
時間にしたら五秒ほどだが、流都たちは数分間、微動だにしていなかった感覚だ。
動き出したのは、マンホールの穴から黒煙が吹き出したからだ。
「何だ、これ!」
輝はゆっくりと後退りしている。恐怖を感じていた。
黒煙は徐々に薄くなっていた。
それに伴い煙の中心には物体があるようだ。
グロテスクな姿を誰もが想像した。
黒煙が消えると、そこには丸い物が浮いていた。真っ白い球体だ。大きさはサッカーボールと同等だろう。
「やあ、諸君、カエルをありがとう」
球体から音声が聞こえた。
りりかと人太は跪く。敬意なのか。
「何だ!」
輝は起こっていることが夢か現実なのかわからなくなっているようだった。訝しい目で見たかと思うと、顔を曇らせていた。
「C計画は進んでいるか?」
球体は話を続けた。
「もちろんです」
人太は即答した。
「何だよ、C計画って?」
輝は右手を握り、球体を軽く叩いた。
異変は起きず、輝は球体を眺めている。
「大丈夫?」
と、エマが心配そうに球体から離れた場所から言った。
人太が輝に体当たりした。
今度は横目で動きが見えたので、倒れる事はなく、人太が跳ね飛ばされた。
ボトッと音がした。
輝が持っていたペットボトルが落ちたのだ。
「それは何だ?」
球体はペットボトルがなぜか気になったようだ。
球体のひと言で、エマが急に動き出した。何をするかと思えば、輝の落としたペットボトルを素早く拾ったのだった。
「あっ、どう……」
輝はお礼の言葉を言って、受け取ろうとした。
エマはキャップを緩めた。
「まずいぞ! 止めろ!」
球体に不利なことがあるようだ。
「これをぶっかければ……」
エマはペットボトルに入っている炭酸飲料を球体に向けた。
「そうはさせない!」
人太である。球体の前に現れ、炭酸飲料がかかるのを身体を張った。
「うぁ!」
人太に炭酸飲料はかかり、球体に一滴もかからなかった。
「よくぞ防いでくれた」
球体の前で人太がうずくまったまま動かない。
「炭酸が弱点なのに……」
エマは地団駄を踏む。
「そんな物で我々は倒せないぞ」
球体は自信に満ちている。
「もう、終わりね……」
エマは肩を落とした。
絶体絶命である。
この状況で留樹緒は怯えたのか、一目散に公園に走って行った。
「留樹緒、逃げるのか?」
流都の問いに振り向くこともせず、無視した。
「諦めろ」
球体は言った。すると球体が真っ二つに割れた。
そして、中から十センチほどの人が浮いていた。肌は緑色だ。
「何だ!」
輝は叫んだ。いや、それしか出来なかった。




