第五章 十三 カエルの行方
流都はスリッパを履いて部外者だと、改めて思い知る。
留樹緒がどこにいるのか知らないが、佐村先生なら職員室だろう。扉は閉まっている。ゆっくりとドアを開け、中を覗いた。
放課後なので、先生たちも和やかな雰囲気だ。ぱっと見渡した。佐村先生は不在だった。
職員室にいる先生に聞けば早いが憚れた。在学中も職員室などほとんど来ていないし、現在は部外者であるのでなおさらだ。
流都は何もせず、職員室を退室した。。
「流都!」
留樹緒である。職員室を出て、すぐ声をかけられた。
「おう……」
流都は不安だったので、合流が出来て、安堵した。
「さがした?」
留樹緒は流都が不安だった事など知らない。だから、ニコニコしている。
「あれ? カエルは」
流都は上から下まで留樹緒を見回した。手ぶらだ。それにこの事態にニヤついていたので、イラッとした。声には出さないが表情は睨んでいた。
「流都、怖いよ。どうしたの?」
と、留樹緒はおどけた。
「カエルは?」
流都は声を低くして喋った。怒りを抑えているのだ。気になる質問だ。
「教室に置いてきた」
あっけらかんとしている。あれはただのカエルではないのだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫だろう。逃げないようにしっかりと蓋は閉めたよ」
「そうじゃない。盗まれないかって事だよ!」
「生徒はみんな帰ったし、大丈夫だよ」
「本当かな……」
流都は不安だった。
「あっ、先生!」
留樹緒は佐村先生に気がついた。
「あれ、まだ、下校していなかったの?」
佐村先生はしばらく、留樹緒を見ていた。その表情は怒るのを抑えているようで、嵐の前の静けさだ。すぐそばに流都がいるのに無視している。
「お久しぶりです」
この雰囲気を変えようと、流都は手を振った。目立つためである。
「あら、野丘君。どうしたの?」
作戦成功だ。佐村先生は頬が緩んだ。
「預かってもらいたい物があるんですけど……」
流都は迷っていた。
「なあに、預かってもらいたいって」
「カエルです」
「ええ、今、何て言った?」
佐村先生は急に嫌悪感な顔つきに変わった。
「だからカエルです」
「最近、話題になっているアレだよね」
佐村先生の横で、留樹緒はなぜかニコニコとしている。
「そうです」
佐村先生は何も声に出していないが、表情は拒否だ。これでは預かってもらうのは無理だと流都は察した。
「エサとかやらなくてもいいし、先生の家に持って帰ってくれればいいんだけど……」
留樹緒は空気を読まず、強引さに佐村先生は辟易している。
「わかったわ」
流都は耳を疑った。元教え子は断り、現役の教え子は引き受けるこの差に嫉妬のような感情が湧き上がった。
「マジかよ!」
流都は苛立ち、つい言葉を発してしまった。
「野丘君、どうしたの?」
佐村先生は流都の感情を察した。無視してくれればいいのに、怒った表情が気になったのだろう。そこで気にされても晴れる事はない。
「別に……」
と、流都はぶっきらぼうに言ったが、内心は構ってほしかった。
「教室に置いてあるよ。持ってくる」
留樹緒は強引だ。廊下を走り出していた。
「帰りに寄るわ」
と、佐村先生は留樹緒を呼び止めた。
「それと、人太だけには渡さないでね」
留樹緒は立ち止まり、振り返った。
「どうして?」
「あいつにプレゼントしようとしているんで、先生から渡したら、せっかくのサプライズが台無しだよ」
「そう言う事ならわかりました。それで、カエルはいつ渡すの?」
「えーと、一週間後くらいかな……」
「えっ、そんなに長い期間も預かっていないといけないの?」
佐村先生は血の気が引くように顔が青くなっていた。これでは断られる。
「二、三日でいいです」
流都は持っていってもらうために、佐村先生に嘘を言った。
「それくらいなら……」
佐村先生も嫌々ながら了承した。
「教室に置いてあるからね」
留樹緒は念を押した。
「わかりました」
これでカエルの件は一安心だ。




