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第五章 十二 目の前にいる人
「何を撮っているんだ!」
人太はいきなり輝に向かってきた。
「いや……別に……」
剣幕に圧倒されながらも、誤魔化した。
「寄越せ!」
有無を言う前にスマホを取られてしまった。
「おい!」
輝は威嚇した。相手が小学生だから手加減していた。本気で怒りをあらわにしたら、怯むだろうと思っていたが、そうではなかった。
人太は輝を無視して、スマホを操作し、録画した動画を削除した。
輝もそこまでやらないと思っていたので、人太からスマホを強引に取り返さなかった。
「ほら」
動画を消去して、あっさりとスマホを手渡されて、輝は受け取った。説教でもしよとした。
不意打ちだった。
「うっ……」
輝のみぞおちに人太のパンチが入ったのだ。無防備だったが予想より重いパンチだ。言葉を発する事も前に歩く事も出来ず、その場にうずくまるしかなかった。
人太は何事もなかったようにスタスタ歩いて行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
女性の声だった。
輝は顔を上げる事なく、誰だかわかっていた。
まだ、みぞおちは痛い。顔も苦悶の表情だ。言葉も出ないほどだ。しかし、それよりも目の前にいる女性を見たい一心でゆっくりと顔を上げた。




