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七話 換わる秋空 


朝 ベッドから陽は起き上がる

そして再度お布団を被る


「…………!!」


ーー付き合ったんだっけ…… そういえば!!


陽はのた打ち回り数分後 その荒ぶる掛け布団は静まった


ーー朝に会って何を話す!? 昼食はどうする!? というか休憩時間も会わなくもない 

放課後!? 一緒に帰る!? いや待て……… 登校どうする!!!


昨日帰ってきてから全然見なかったスマホを確認


「茅野からは…… 一件!!?」


陽は恐る恐る覗く



           昨日


[今日は助けてくれてありがとう!! 

祭りもすごく楽しかったよ(´∀`*)ウフフ また学校でね陽君! 既読 22:01]




「ありがとう…… か……」




陽は背中を掻きながら下へ降りる すると玄関から萌花がやってきた


「今日日曜じゃろ? ちと付き合え」


軽トラに揺られながら白鷲町を走る 窓にもたれる陽の目には

快晴の中 空に飛ぶパラグライダーがよく見える


「最近は観光客とかで昔より見るようになったの~~」


「あぁ…… 二人乗り(タンデム)もあるんだっけか」


黒滝橋を渡りさらに民家の少ない場所へと来る


「ここは?」


「あぁ塩岡しおかという場所じゃ 亡くなった妻が育った場所でな……」


萌花の話を聞いていると 急に軽トラの速度を落とし 人の家の土地に入っていく


「この家に用があるのか?」


「あぁ 腹減ったからな」


中に入るとそこには広い座敷にテーブルが並んでいた

よくみるとテーブル全部に七味や箸束なども置かれている


ーーここってもしかして……


「もりそば二つ!! 大盛りでな!!」


「大衆食堂!?」


驚く陽は辺りを見渡す 

よく見ると〝もりそば〟と〝追加〟という二大固定のメニュー板が飾ってあった


「こんなところに店があるとは……… よく見れば店の前に【クマソバ】って書かれてたな」


「わはははは!! 白鷲町は昔から隠れ蕎麦屋の里と言われていてな

蕎麦職人がいっぱいいたんじゃ…… 故に一つの地区に一件は蕎麦屋があって当然だったんじゃよ!」


話していると

店のお婆ちゃんが浅山で作陶された皿に乗った麺とタレを持って来てくれた

箸を割って食べようとするが妙に落ち着きが無い


「この店…… もしかして傾いてる?」


「独創的でいいじゃねぇか……」


ーー独創的って…… 絶対違うだろ


「昔は今みたいにちゃんとした店なんて そう建てられるもんじゃねぇんだよ

老朽化もあるが 茶の間を店内にしてる店なんてむしろ当たり前だったんじゃ」


ーー……確かに 仏壇がある!!



「これはサービスですよ」



店の奥からカットされた和梨がテーブルに置かれた


「おほ! 季節によって出されるサービスもまた田舎の優しさだなぇまんず!!」


少しのことでテンションが上がる萌花は放っておいて

陽は出された蕎麦をタレに浸けて啜った 


「……!!? うまい!!」


「おしょうしな~!」


陽の思わずの声にお婆ちゃんも喜ぶ


「蕎麦も勿論だけど この濃いタレもうめぇ!!」


「わはは! 通だなお前 白鷲は生粉打ち・細打ち・濃いタレが特徴でな」



「でも今の若い子はこんな店に来ねしホント珍しいずね~」



「アハハ…… でもホントおいしい」


追加を頼み腹いっぱいになった二人は店を出ようとする


「いやぁ~うんまがったずねぇ また来ます~~」


「梨もおいしかったです」



「おしょうしな~ また来てけろな!!」



玄関の引き戸を締めて軽トラに乗る


「こんなとこにも店があるんだな…… てか爺さん 今日蕎麦食いに来たのか?」


「うんにゃっ……! もう一軒寄るところがある」


そう言って軽トラを発信させて 元来た道を戻る

黒滝橋を渡りちょっと行ったところを左折すると今度は上り坂を走った


「この奥って確か……」


「あぁ…… 温泉じゃ!!」


一直線の道路を走ると向こう側の地区が見える場所に出た

そこを右折してさらに登って行くとテニスコートが見えてくる


「ここも久しぶりだな…… テニス部の応援以来か……」


「わしは千鶴と結構来とるぞ? 

最近は一人で入れるなんて言うもんだから淋しくての~~」


「もう小4だろ…… 当たり前だ……」


駐車場に軽トラを停め 鷲の湯温泉【パレス冬風】の中に入った

靴を下駄箱に入れて自販機で券を買う


「タオル二つ!」


番台の人に券を渡しタオルを購入し受け取る

奥へと進むと広いロビーに出て ふと陽は窓から見える結婚式場を覗いた


「誰かが結婚するのか……」


「そうみたいじゃの…… 陽も将来しなければならないことじゃ」


「出来ますかね~~」


脱衣所に入り服を脱ぐ

デリケートゾーンをタオルで隠しながら浴場に行こうとすると萌花に呼び止められた


「己の将軍を隠す奴があるか!! 男ならこうだ!!」


萌花はタオルを肩に叩きつけ 萌花の刀身が露わになる


「ケッ……」


陽もそっぽ向きながらタオルを肩にかけ浴場へと入る

日曜というのもありながら客は普通に多かった ほとんどが老人で占められているが

陽は身体を洗い 温泉にゆっくり浸る


「ふひぃ~~~~………… 痛っっっつ!!!」


昨日の傷がお湯で沁み渡り 陽はなんとか我慢して浸かっていた

そこへサウナーから出てきた萌花も隣に入ってきた


「ふはぁ~~~~………… ここは良い…… 地元の温泉は特にな」


「まさに爺いの吐くセリフだな」


「わっはっは! してお前さん…… 彼女が出来たんだってな?」


「うっ…… なんでそれを……」


「身近な孫の情報はすぐ入るでの~~」


「……あの親父」


陽が口までお湯に浸かる隣で 萌花はゲラゲラ笑っている


「義典も突然彼女を連れて来おった……」


「え?」


「お前のお母さん 高校生の時じゃ 

遊んでばかりで結婚なんて遠い話かと思っておったが…… 

まさか陽を抱きかかえた三人を見せられる日が来るとは正直思わんかったなぁ」


「…………」



ーー長話になりそう……



「義典は一途じゃった…… 故にお前の母さんが亡くなった日には……」


「………」


「いや…… すまんな……」


萌花は先に上がり 身体を洗って脱衣所へと戻る

陽も思い詰めながら その後に続き脱衣所へと戻った


「俺の母さんは…… 幸せだったと思うよ」


「……!!」


服を着替える途中で陽は言った


「親父が言ってたよ……

母さんは社交的で積極的で自由人で よく一緒に出かけてたって……」


「……」


「静さんも言ってた…… あの人は強かったって……

でも死んでしまった ガンなんて病気でホント……」


「陽……」


悲しそうに見る萌花だったが 見せた陽の笑顔に驚く


「だけど尊敬するよ…… マジで……

好きな人に忘れずにいてもらって 親友にも忘れずにいてもらって

母さんみたいになりたいと思った」


「…………!?」


「なんで親父って呼ぶようになったかわかった気がするよ

親父って言葉ってさ…… 父さんって言葉より対抗心があるって思うんだよね

大好きな母さんが好きになった人 嫉妬なんかな……

そんな親父が羨ましくて無意識に反抗してたのかもしれない」


そんな陽の本音に萌花の目に涙が浮かんでたが それを吹き飛ばすかのように


「このマザコンが!!」


「はぁ!!? 違げぇし!!」


「わっはっは!! さて今日はもう帰るぞ! 付き合ってくれて…… ありがとうな」


軽トラで家まで送られ 陽は萌花を見送る

家に入る陽は仏壇の前に立ち 母親の遺影をジッと見ていた




「俺も母さんが好きになれるほどの親父みたいになれるかな……」




手を合わせ 陽は庭でドリブルの練習をしていた

夕方には義典が帰ってくると同時に料理を作り始める


テーブルでテレビを見ながらビールを飲む義典の前には 炊き立てのご飯とみそ汁 

そして近くの道の駅から買ってきた旬の鮎の塩焼きとレモンをお共に添えられ

二人分の皿がテーブルに置かれる


「相変わらず味噌汁がうめぇ 上達したもんだな…… 母さん似だなお前は」


「……当たり前だ」


テーブルを挟んで食べる二人は ただ黙々と秋の味覚を堪能していた




翌日 高校のHRが終わった休憩時間


「お詫びと言っちゃなんだけど…… 今週の土曜BBQするから……」


突然の桃坂の発言に陽はポカンとなる


「月衣には言ったけど…… 一応あんたにも謝罪とお礼は必要かな~~と」


「あぁ…… 予定空けとくよ」


桃坂はそう言ってクラスに帰った

陽も戻ろうとするとドアの入り口で茅野と鉢合わせになる


「あ………」


「あ………」


二人は互いに視線をずらしてしまった


ーー……親父に負けてられるか


「茅野…… その……」


「うん……」


赤面になる陽は勇気を振り絞る


「今日さ…… 放課後…… 一緒に……帰らない?」


「…………うん!!」


茅野の笑顔

親父も母さんの笑顔を見たとき こんな気持ちだったのかな


「授業始まるぞ~~」


空気を裂く草津に二人は慌てて互いの教室に入る

席につく陽は周りを見渡すと 月衣と木島がニヤニヤと笑って楽しんでいた




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