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三話 秋季の花


その晩 陽は茅野にLINEを送った



[こんばんはm(._.)m 

今日はありがとね!   既読 20:32]



[こちらこそr(≧ω≦*) 

ハンカチ確かに返却しましたww 既読 20:38]

             


[じゃあまた来週学校で 既読 21:04]



[うん!おやすみ(´∀`*)ノ 既読 21:12]



陽はそのやりとりを ベッドの上で眺めていた


「顔文字とか…… 顔文字とか…… くうぅぅ~~ 反則だろぉ!!!」


「陽うるさい!!」


下の怒鳴り声と共に陽は黙るが 顔のニヤケはおさまることを知らない


ーーやっと茅野とLINEでやりとり出来るようになった でもここからだ


ベッドに仰向けで決心を固めていると 不意にスマホが鳴る


「月衣……? そういえばあいつガラケーだからLINEしてないんだっけ……」


陽が電話に出る


『もしもし陽か? 明日休みだろ 今から店手伝ってくれねーか?』


「はぁ? なんでだよ?」


『常連の人が他所の町の中国人を呼んできてさ…… 大変なんず~』


「勘弁してくれ…… もう眠いよ…」


『…………8千円!!』


「乗った!!」


いつもの軽い冗談であり 決まりのノリみたいなものである

もちろん俺から報酬をねだったことは無い あいつにはかなりの恩があるからな

通話の最中に着替えを済ませ 既に準備は整っていた


「今から行くから」


『りょう~~~かい!!』


家の前に立てかけている自転車に乗り 店へとペダルを漕ぐ


店とは月衣のお母さんが一人で経営しているスナックのこと

日本人である月衣のお父さんと離婚して山形市内からこっちに引っ越して来たのだ

友人の助けで自分の店を開いたらしい

友人と言っても俺の母親だがな


町の隠れた場所にスナック〝秋季の花(しゅうきのはな)〟は構えており

陽は裏に自転車を止めた


「悪ぃな陽!!」


「慣れたよ……」


月衣の出迎えに陽はダルそうに答えて中に入る

特別店の制服を着る必要も無く そのまま仕事に向かった


「あぁ陽君!! 今日はおしょうしな~~」


ばっちりスナックのママやってる月衣のお母さん

この人が中国と日本のハーフ 名前は劉静(ラウ・ジン)さん

裏表無く優しい人 月衣と同じで山形の方言が好きらしい


「マ~~~マ!! オ酒 頼ムヨ!!」


「はい! すぐに!!」


店内を見渡すとテーブル・カウンターと中国人の団体客で埋め尽くされていた


「なんの集まりだ?」


空瓶を回収する陽に 奥から酒を出す月衣は答えた


「土木関係の子会社同士の集まりだってさ

たまたま現場で合同になって意気投合したらしい」


「週末だからってのもあるのか……  空瓶 裏口の側でいいんだよな!?」


「あぁ! そしたら焼酎水割り頼む!!」


陽は酒瓶を置くなり棚から焼酎を取り出していると


「オニサン ガクセイ!?」


「え!? ……えと」


「バイトよ 李(リー)さん」


陽の隣からつまみを置く静がフォローする


「アマリ若イ内ニ コンナトコ来チャ駄目ヨ~~!」


酔っ払いの説教をしぶしぶ聞く陽に 静はクスクスと笑う

そんなとき テーブルに座る中国人が立ち上がって叫ぶ


「俺タチハミナ 集マルウンメイ!! 今日ハ呑ムヨ!!!」


次々と酒を頼む団体に休む暇は無かった

11時を回る頃には全員がフラフラと千鳥足に店を出て行く


「ママ! 今日ハアンガトネ!!」


「また来てね 李さん!」


手を振り合って静は店の外まで見送りに行った


「お前のお母さんも大変だな」


「あっちは馴れたって言ってるけどな」


店内を掃除する陽達は 簡単にカウンターとテーブルを拭いていた

すると月衣はゆっくりと手を止める


「周りからはな……… あんま良く思われてないんだよ」


「外人がやってる店ってことだろ? 静さんはハーフだろ?」


「それでも中国人とかそこらって 人によって風当たりが悪いんだよ

昔は母さん…… 店で嫌がらせも受けてたらしい」


「不満の当て場が無い奴がするんだ この町にもクズがいるもんだな……」


陽がそう言うと 月衣はニコッと笑う


「いや…… 嫌がらせに来たのは他の町の奴らだよ

この町の人達はむしろ 守ってくれた」


「そうなのか?」


「主にお前の母ちゃんがな……」


「あー……」


二人は止めていた手を再び動かしてテーブルを拭き始める


「感謝してるよ…… お前の母ちゃんにも お前にも」


「恥ずいわ馬鹿!!」


二人が笑い合っていると静が戻ってきた


「陽くん 今日はお疲れ様~~」


「もう客は来ないんすか?」


「ん~~~ 12時までだから多分……」


その時 鈴の音と共にドアが開いた


「あ いらっしゃいま……」


静が声を詰まらせると同時に後ろにいた二人も驚く


「「 草津!! 」」


やってきたのは陽と月衣の学校の教師である草津だった


「不良生徒二名発見~~」


草津はそう言いながらカウンターの席に座る


「先生がスナックに来ていいのか?」


「自分の店に来た客なのにわざわざ追い払うのか?」


言葉で草津に攻撃する月衣に 草津は怯まない

静の出したお通しを食べながら店内を見渡す


「……良いな ここは」


「??」


草津の目線は陽と月衣に移し 軽いため息を吐く


「生徒からの印象も悪くなることをした俺も俺だ お前達のバイトは暗黙にしてやる」


「「 ……どうも 」」



「先生! うちの息子はどうですか?」



話題を振る静に草津はカウンターの方を向く


「申し分ないですよお宅の息子さんは…… 勉学・運動と言うことは無いです」


草津が答えると静は笑顔で酒を注ぐ


「ただ陽…… お前はもうちょっとがんばれ」


「うっ………」


「赤点を免ればいいと思った時点で 月衣と木島に差が付くぞ?」


草津の不意に来た説教に陽は何も言えなかった

そんな陽を月衣はかばう


「陽はそんなこと思っちゃいねーよ」


「……まぁ 社会勉強してるだけいいとするわ」


草津のその言葉に静は浮かない顔をする


「他所者がしてるスナックですけどね……」


「…………」


月衣も黙ってしまう




「「 でも自分の店を持つなんて 簡単にできることじゃない 」」




唐突に陽と草津が 練習してたかのように声とセリフが調和した


「!?」


「…………」


不意に二人も黙りこくる


「…………??」


それに月衣は違和感を感じた

数秒が経って草津が席を立ってお代を払う


「まぁあれだ…… 他の教師にはバレんなよ

そして俺が来たことチクんじゃねーぞ!」


そう言って店から出ていってしまった



「フゥ………」



陽は席に座る


「どうした?」


「なんか…… よくわかんないけど… どっと疲れが出た……」


「……? この仕事初めてじゃねぇべず?」


「うん仕事のせいじゃない…… 何だろう……」


パッとしない陽に月衣が困惑している

後片付けしていた静が包みを持って近づいてきた


「疲れたんでしょ もう上がっていいわよ陽君」


「……んじゃ今日は帰ろうかな」


「月衣! 陽君を送ってってあげて」


裏口に向かい 家に帰ろうとする陽を静香は呼び止める


「陽君ありがとね……」


「え……?」


「あの言葉…… うれしかったよ」


静は陽の頭を撫でながらニコッと笑った


「……………」


「おい陽!! 行くぞ!」


「わかってる! それじゃお疲れさまでした」


「またお願いね」


静は二人を見送り店に戻っていく

秋季の花からそう遠くない陽の家まで自転車を引く二人は雑談していた


「お前のお母さん若いよな~~」


「まだ30代だからな……」


「マジか……」


「おいおい…… やめてくれよ」


「別に何も考えてねぇよ!!」


「お前の母ちゃんも40手前だったべ? 十分若いよ」


二人は他愛もないことで争いながら家へと向かう


「お前には励ましてもらってばかりだ……」


「え なんて?」


突然の月衣の小声に陽は聞き直そうとした

しかし彼の胸ポケットから着信音が鳴る


「あ 悪い……」


月衣はその場で電話に出る


ーーいいなぁ…… きっと女子だ!!


顔には出さないものの 内心そう思っている陽

月衣の通話が終わり陽の方を向くと不貞腐れた顔が待っていた


「どうした相棒……」


「別に……」


「まぁ聞けよ! そんな顔吹っ飛ぶくらいの朗報だ」


「どうした? デートか?」


「あぁデートだ…… 祭のな」


「……マジか?」


さらにテンションが下がる陽に月衣は面白がる


「だからお前にも朗報だって」


「!?」


「さっきの通話 桃坂からでな…… 

〝こっち茅野と行くからそっちもう一人連れてきて〟だってさ!」




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