二話 季節外れの転校生
山形県白鷲町
そこにある青砥高等学校 略して青高が陽の通う学校だ
陽もその学校のある青砥地区に住んでいた
二階建ての一軒家の玄関より飛びだす陽は自転車に乗って学校へと向かう
「いつも通り遅刻かよ!!」
必死にペダルをこぐ陽は 昨日の事を思い出していた
ーー草津と茅野…… 何してたんだろう
結局陽はその場から立ち去り 詳しいことは分からなかった
「あっ!! 陽ちゃん!」
「千鶴ちゃんおはよ! 今日も朝早いね」
近所に住む萌花千鶴 小学四年生 陽が小さい頃より面倒を見たりしている
ランドセルを背負いスクールバスを待っている千鶴は陽を見送っていた
町役場前の交差点が見えてきた
前方には鮎飼地区の生徒が青砥橋を渡り
そして重なるように隣を長囲市からフラワー長囲線の列車が走ってくる
青砥駅から坂道を登って来るとここの交差点で鉢合わせになり
イベントでもないのに毎朝ここだけは一瞬賑やかだ
自転車に鍵をかけ
教室に入り 陽は鞄を置くと隣のクラスに顔を出した
「ヤナ!」
「おう陽! おはよー!!」
木島は席から立つなり 陽のもとに向かう
「茅野いる?」
「大衆の前で告るつもりか?」
木島にも茶化され オドオドする陽の後ろから
賑やかに話す桃坂と茅野がやってきた
「男子邪魔ーー!! ドアで屯わないでくれる?」
陽がすばやく避け 桃坂が堂々と通っていく
その後ろには茅野愛美
「あっ…… あの! 茅野!!」
「え……?」
好きだからという気持ちだけで話しかけた陽はこれが初めてだった
「あの…… これ」
昨日受け取ったハンカチを返そうとしたその時
「ちょっと!!」
茅野がハンカチを受け取ろうとした時
桃坂が強引にハンカチを奪うように取り上げた
「!!?」
その光景に陽と木島含め クラス中が響めく
「いきなり絡まないでくれる? キモいんだけど」
「は!? 俺はハンカチを返そうと……」
桃坂が陽に突っかかってると 茅野が桃坂の肩を掴む
「本当だよ 姫ちゃん!!
昨日鼻血出てたから貸したの!」
「だからって礼も言わないってなくない!?」
「今言おうとしたんだよ!」
睨み合う二人
ピリつく空気の中 月衣がやってきた
「陽~~ ここにいたか?」
「月衣……」
月衣が陽の肩を組むと桃坂を見る
「朝から何喧嘩してんずお前?」
「…………なんでもねぇし!!」
そう言って桃坂は茅野を引っ張って
自分の席へと行ってしまった
「さすが…… 女子のトップは違うの~~」
「ホントヤンキー気質……」
女子の中心にいる桃坂を見る陽と木島に釣られ 月衣も見つめている
「良い奴だぜ…… あいつは」
「「 ?? 」」
月衣は捨て吐くようにクラスに帰っていった
チャイムと同時に陽も自分のクラスに帰り席につく
と同時に教師も入ってきて教壇に立った
「えー 知ってる奴もいると思うが転校生を紹介する」
教師に呼ばれて一人の女子が入ってきた
「天音緋琶子さんだ 仲良くしろよ」
「…………………………よろしく」
元気のない無愛想なあいさつで一瞬変な空気になったが一瞬だけだ
HRも終わり天音の周りには当然かのように人が集まる
「天音さんどっから来たの?」
「……………」
「あはは…… 緊張かな?」
無口な彼女に周りの女子はフォローするが
その態度はそっぽを向く様なものであり 空気が重くなる
そんな空間で授業が始まり 釈然としない中で各々席に着いた
「青天の霹靂
青天は青空 霹靂は突然雷が鳴ることを言います」
授業中も私語が少なからずある中 あの子だけは黙々とノートを取っている
「中国南宋の詩人陸游が「青天、霹靂を飛ばす」というところから由来された表現であり」
「悪い意味なんですよね?」
「まぁ急に起こる変動・大事件の意にも使われているが……」
転校生ということもあったが何故か陽は気になり 授業そっちのけで見つめていた
「前兆 急に起こる事の使い方からして日常の出来事でも少なからず聞いたことが……
おい陽…… 天音さんをじっと見過ぎだぞ ちゃんと授業受けろー」
教師の発言でその場に笑いが生じる
陽は赤面で授業を受けることになってしまった
授業も終えればまた天音に近づく者達がいたが
相変わらず本人は心を開かず
そんな中 隣のクラスの桃坂がやってきた
「あなたが天音さんね 私は桃坂姫菜乃 よろしく!」
手を差し伸べる桃坂に天音はここで初めて声を吐いた
「放っておいて……」
桃坂の手を無視し 握手もせずに天音は立ち上がり
どこかへと行こうとした
「……………」
桃坂はその場で固まり 女子の間に異様な空気が流れる
「天音さん!!」
桃坂が天音に急接近していく様を陽と月衣も見ていた
「あーあ…… 女子のトップ怒らせてやんの……」
「そう見えるか?」
「どゆこと?」
桃坂が天音の手を握り
背を向けていた身体を無理矢理自分の方へと向かせた
「……まだ何か? それともイジメ?」
「…………」
これでもかと言うくらいの天音の冷たい言動に桃坂は真顔で見つめ返す
そんな光景を見ていた陽は悟った
ーー終わったな……
そう思った次のことだった
「友達の作り方…… 教えてあげる」
「…………っ!!?」
そういって周りの女子に囲まれ隣のクラスに連れていかれた
「ちょっとヤベぇんじゃねーのか?」
「心配いらねべ……」
陽は少しの興味と心配で隣のクラスを覗く
するとそこには桃坂と天音を女子が囲んで楽しく話していた
「だ~か~ら~!! もっと笑顔笑顔!! 笑顔から!!」
天音の頬をグイっと上げて無理やり笑顔を作り
周りの生徒の反応をも気にせずに 場を盛り上げていた
本人もノリ気ではなかったが
周りの女子も化粧の話題やらで天音をサポートする
「…………」
「桃坂はああいう奴さ」
ドアの陰から見ていた陽の後に現れる月衣
「行動こそ強引だが それに見合う積極性と社交性がある
つまり天真爛漫ってことだな
孤独感のある女子は放っておけない女子限定に人情がある奴だよ」
「……なんか 誤解していた」
月衣はクラスに帰り 陽はしばらくその光景を見ていた
その時 隣から腰を指で突っつかれた
「あの… 陽君」
「!?」
そこにいたのは茅野だった
「え…… えと…」
「ハンカチ…… 返してくれてありがとね…」
「いや… こちらこそ」
互いにお辞儀し合い クスクスと笑い合っていた
陽からしたら今日のステータスは十分過ぎる行い
「じゃあね!」
茅野は笑顔で立ち去ろうとした時
陽は無意識に呼び止める
ーー……!!? 何も考えずに呼び止めてしまった…… いや……
「茅野…… あの……」
「え…… 何?」
「あの………… LINEのID…… 教えてくれる?」
「え…… あ……」
陽の決死の要求に茅野は不意で戸惑い
二人に間が出来てしまった
「…………」
そんな空気を物ともしないのが桃坂だった
茅野を呼びに来ようとして ドアの隙間から陽を睨みつける
「っ…………!!」
陽も桃坂に気付いて硬直する
「……あんた 月衣と仲いいよね?」
「ん? あぁ……」
「……そっか あんたが〝陽〟か」
「 ? 」
そう呟くと天音のいる方へと帰っていった
「なんだったんだ?」
陽は桃坂を見ている反面
茅野は陽をじっと見ていた
ーーあの姫ちゃんが……
「あぁ…… えっと!」
「そうだったね LINEID…… いいよ!」
「え? ホント!?」
陽は喜びを隠せずにニヤけてしまっていた
茅野もクスクスと笑いながらスマホでIDを交換してくれた
「それじゃぁね!」
「あぁ…… んじゃ!」
二人が別れる頃にチャイムが鳴り響き 一時間目が始まった
そんな二人を天音は見ている
ーー……可哀想




