第五章-1
アッシュは鏡を覗き込んで深い溜め息を吐く。
「おいおい、この星でもかよ……。勘弁して欲しいぜ、まったく」
昨夜は、あの後順番に風呂――アッシュの国のように湯船に浸かるものだった――に入って早々に就寝した。
余談になるが、入浴時にカテジナが身体を洗うお手伝いをすると言って浴室の中に突撃してこようとする、というイベントが発生している。もっとも、アッシュは紳士的対応で丁重に遠慮することに成功したので、特に何事も起こってはいない。起こってもらっては困るというものだ。十八禁指定にはしたくない。
ともあれ、つい先ほど起きて顔を洗おうと洗面所に入り、そこで鏡の中からいつもよりやつれたような自分が見詰め返してくるのに気付いたのだ。もうお約束であるかのように、白髪染めが落ちて黒白半々の頭に戻ってしまっている。アッシュは居間へ入ると、誰にともなく文句をこぼした。
「なんで昨夜風呂から上がった後、髪の色が落ちてるって教えてくれなかったんだよ?」
仮に教えてもらったとしてもなにがどうなったわけでもないが、心情としては一言文句を言いたい。
タブレット端末のような機器でこの星の新聞らしきものを読んでいたマーク=ラピッドファイア准尉が顔を上げた。
「え? あぁ、済みません。あまりに違和感がなかったもので、意識に引っ掛からなかったようです。やはり、アッシュにはそちらのほうがお似合いですよ」
「……なんか嬉しくねぇ」
アッシュは憮然と応じる。テレビらしきものを見ながら魔装機の操作端末のキーボードを叩いていたグェン=ヴァン・クォン軍曹が言ってきた。
「俺は気付いてたけど、こないだもそうだったし、風呂に入ったら落ちるもんなんだと思って気にしなかった」
「酷ぇな。気にしろよ……」
アッシュはまたも憮然と呟く。そんなことをしていると、居間のドアが開いてカテジナ=ペトラ=ビェルカ兵長が入ってきた。
「お、おはようございます」
「おぅ。おはよう、カテジナ」
アッシュが挨拶を返す。マークとクォンもそれぞれ挨拶をした。ちなみに、アッシュとマーク、クォンは同じ部屋で寝ていたので、起きたときにお互い挨拶は交わしている。
「あ、せ、先生。髪の毛、戻したんですね。そ、そっちのほうが、素敵、です」
カテジナが少し頬を染めながら言った。キッチンから、クラリッサ=ファインマン曹長も声を掛けてくる。
「そうねー。あたしも、そっちのほうがいいと思うわ。個性的で」
「だから、なんか嬉しくねぇっつの。――ていうか、クラリッサもおはよう。悪い。そっちにいるの気付かなかった。今朝の朝食はあんたが作るのか?」
アッシュが尋ねると、クラリッサが笑いながら応じた。
「はい、おはよう。――ええ。朝からジゼルの料理じゃ、ね?」
アッシュはそれにはコメントしないことにする。下手なことを言ったときに限って、タイミング悪く本人に聞かれたりするものだ。
「ふぁー……。皆、おはよう。リッサ、朝ご飯出来てる?」
案の定、その直後に廊下へと続くドアが開いてジゼル=アンリエット=シャンティエ少尉がオデットの手を引き、欠伸をしながら入ってきた。そして、アッシュの頭に目を留める。
「あら、おはよ、ダーリン。髪の毛、戻したのね。やっぱり、そっちのほうが白虎みたいで格好いいわ」
ジゼルはカテジナと似たような台詞を口にした。そう言う彼女の髪は寝起きの為か、昨夜風呂上りにそうなっていたウェーブの掛かった肩の下までのロングヘアのままだ。そう言えば先日の海賊退治の任務中の雑談でクラリッサが、彼女のツインテールは毎朝自分が結っている、と言っていたのを思い出した。
それはさておき、どうやら先日の海賊退治で共闘したときにこの黒白半々の髪の色だった為か、第七小隊の面々は彼のことをそちらの印象で強く記憶してしまったらしい。アッシュはもう諦めることにする。
「わかったわかった。俺にはこの『灰かぶり』頭がお似合いなんだろ。ていうか、好きで戻したんじゃねぇ。昨夜、風呂で髪洗ったら髪染めが落ちちまったんだよ。この星のシャンプーも強力なんだな」
それを聞いたジゼルは、近付いてくると背伸びをして彼の髪の匂いを嗅いだ。いきなりの急接近にアッシュはうろたえてしまう。
「ちょっ、おまっ、なにを――!?」
「この匂い、あたしのシャンプー使ったのね。あれ、うちの連邦のブランドよ。取り寄せてるの」
昨夜風呂で適当に使わせてもらったシャンプーは彼女のものだったようだ。
ジゼルが嬉しそうな笑顔になった。
「同じ髪の匂いなんて、いかにも夫婦っぽいわよね」
「誰と誰が夫婦だっつの」
アッシュは速攻で突っ込む。
気付くとオデットが手を伸ばし背伸びまでして、彼の髪に触ろうとしていた。しかし、幼い彼女の背丈では背伸びをしても手が届かない。仕方なくアッシュは屈んでやる。オデットはその黒白縞々の髪が気に入ったらしく、暫く撫でていた。なんだかペット扱いのようで、少し恥ずかしい。
その後、クラリッサが用意した朝食を皆で食べた。オデットがまたアッシュの膝の上に座りたがったので彼は少し食事がしづらかったが、さすがに文句は言わずにおく。
そうして食後のお茶を飲んだ後、早速オデットに色々と質問をすることになった。昨夜のようにメモ帳とペンを用意するジゼルに、アッシュは提案してみる。
「なぁ、どうせこの娘にはもう魔法のことはバレちまってるんだからさ、いっそ素性を明かして念話を使えば話が早いんじゃないか?」
「……言われてみれば、それもそうね。さすがはダーリン。目の付け所が違うわ」
「だから、ダーリンって言うの止めろ」
アッシュはジゼルに突っ込んだが、今回のはそんな簡単なことに気付かなかった照れ隠しだろう。ジゼルはオデットに向き直って、単刀直入に告げる。
「あのね、オデット。あたしたちは、実は他の星から来た魔法使いなの。わかる?」
その言葉にオデットは暫くきょとんとした顔をしていたが、やがて理解出来たのかジゼルの顔を見て頷いた。
「でも、このことは他の人には内緒にしてくれる?」
オデットは今度のジゼルの問いにはすぐに頷く。ジゼルは彼女の髪を軽く撫でた。
「ありがと。――それじゃ、これからあなたとお話出来るようにする魔法を掛けたいんだけどいい?」
今度の問いには、オデットはなにかを期待するように青い目を輝かせて頷く。ジゼルは彼女に頷き返すと、袂から魔装薙刀の接続具であるリング型の魔装具を取り出して、念話魔法を起動した。
「『テレコミュニケーション』」
(オデット、聞こえる?)
頭の中にジゼルの声が響く。この後の話を円滑に進める為か、通信対象にその場の全員を指定してくれたようだ。
だが、暫く待ってみてもオデットからの返事は聞こえてこなかった。オデットはアッシュの膝の上で不思議そうな顔をして、黙って彼女に注目している一同の顔を見回している。
「なんか、通じてないみたいだぞ?」
全員を代表して、アッシュが指摘した。
「そうみたいね」
ジゼルが応じて、軽く溜め息を吐く。
念話魔法は互いに顔と名前を知っている相手しか通信対象に指定出来ない。一方的に知っているだけで通信出来るような仕様だと、有名人にひっきりなしに念話が掛かってきてしまうような事態になりかねないからだ。
その通信対象の指定方法は相手の名前を意識するという簡単なものなのだが、倉嶋篤志のことを『アッシュ』としてしか認識していないジゼルからの念話が彼に通じることからも解るように、その名前は通称でも問題ない。従って『オデット』でも通じるはずなのだが、それが通じないということは、まだその通称が彼女の名前として十分に浸透していないということなのかもしれなかった。しかしだからと言って、『被験体三十七番』などという無味乾燥な名称では呼びたくない、というのはその場の全員の一致した意見だろう。
ジゼルはオデットの右手を取って、もう一度呼び掛けた。
(オデット、これなら聞こえる?)
接触している相手ならば、名前を指定しなくても通信出来る。ただこの場合、オデットの返事を聞くには全員が彼女の身体に触れなければならなくなるので、少々鬱陶しいことになりそうだ。
そんな心配をしたのだが、それは先走った考えだったらしい。何度かオデットに呼び掛けていたジゼルが、小首を傾げてその手を離した。
「おかしいわね。通じてないみたい」
「触ってるのにか?」
アッシュは不審に思って聞いてみる。マークも眉をひそめて尋ねてきた。
「妨害魔法ですか?」
妨害魔法とは、指定範囲内の観測魔法や念話、転移等を阻害する魔法の総称だ。
「そんなはずないと思うけど。皆には通じてるんでしょ? だいたいそれじゃ、この駐留基地の場所がどこかの犯罪組織とかに漏れてるってことになるし。もしそうだとしても、妨害魔法を仕掛けてくる理由がわからないわ。今からここが襲撃でもされるって言うの?」
ジゼルが肩をすくめるようにして応じる。だが、マークはいつも通りの真面目な顔で諭すように言った。
「その可能性がわずかでもあるのならば、警戒すべきです」
「でも、魔力監視装置にもなんの反応もないし」
ジゼルは居間の隅に鎮座している、この惑星リューガのミニチュアらしき球の立体映像を浮かべている魔力監視装置に目を向ける。
マークはその一見正論に思える意見にも警鐘を鳴らしてみせた。
「勿論小隊長も御存知だとは思いますが、この星のように中途半端に魔法開発が進んでいる未開惑星では研究機関等で使われる魔法を監視対象から除外する為に、魔力監視装置には複雑で多岐に亘るフィルタリング設定を施しています。これが誤作動していないという保障もありません。――クォン、周辺の探査を」
「はいよー。『オブザーヴェイション』」
クォンが広域探査型観測魔法を起動する。一対の白い魔力のアンテナがそのこめかみから伸びた。この魔法が起動出来たということは、少なくとも観測阻害型の妨害魔法は仕掛けられていないということになる。
「半径三キロ圏内に魔力反応なし。動体反応やら金属反応やらはこの街中っすからね。数え切れないくらいあるっすよ? その中から怪しいやつを探せって言うんなら、さすがにちょっと時間をもらわねーと」
クォンの報告にマークが頷いた。
「とりあえず妨害魔法が仕掛けられている様子はないようですね。念話が通じないのは、なにか別の理由があるようです。――クォンは念の為、この付近に不審な人物がいないか確認して下さい」
「うぇー、やるんすかー?」
クォンはぶつくさ言いながらも、脳内に展開された広域探査した観測結果を魔装機の操作端末に出力してチェックし始めたようだ。アッシュはマークに尋ねてみる。
「別の理由ってなんだよ? 魔法が通じない体質とかってあるのか?」
「その理由は、ちょっと見当が付きませんね。そんな体質があるなどという話は聞いたことがありませんし」
「んー、でもアッシュの言うことは案外的を射てるのかも。妨害されてる――投げたボールが相手に届く前に跳ね返されちゃってるっていうより、なんだか布団にふわっと包まれて取り込まれちゃうって感じだったのよね。――もっとも、あたしもそんな体質の人がいるなんて聞いたこともないけど」
思案しながら答えるマークに、ジゼルが半分反論半分同意という意見を返した。それから、気持ちを切り替えるようにパチンと手を打ち合わせる。
「とりあえずその原因について考えるのは後回しにして、先にオデットの話を聞きましょ。手間だけど、オデットにはまた筆談してもらうしかないわね」
「ええ、そうですね」
マークが頷いた。ジゼルはオデットに視線を向け直して確認する。
「オデット、ごめんね。お話しする魔法は上手く掛からないみたいなの。話したいことは、その紙に書いてもらえる? ――それで、これから色々と質問したいんだけど、いい?」
オデットがジゼルの顔を見上げてコクリと頷いた。どことなく残念そうな雰囲気だ。魔法を掛けて貰えるということに、なにか期待を抱いていたのかもしれない。
ジゼルは彼女の頭を軽く撫でる。
「ありがと。――それじゃ、始めましょっか」
それから、主にジゼルとマーク、ついでに横から口を挟むアッシュの三人が中心となってオデットへの質問会が開催されることとなった。
彼らの質問に、オデットが時折考え込むような仕草を見せながらメモ帳にペンを走らせていく。だが結局、わからない、という回答が一番多かったようだ。およそ一時間もすると飽きてしまったのか、オデットがメモ帳に落描きを始めてしまったので、そこでひとまず質問会は終了ということになった。
「わかったことは、彼女はどこかの研究機関らしき施設で――」
マークが整理するようにゆっくりとした口調で、オデットの話をまとめ始める。ちなみに彼女はそこを、白い部屋がいっぱいある建物、と書いていた。
「――数日置きになんらかの投薬を受けて、その影響を検査されていた。それ以外の時間は与えられた部屋からは出られず、ほぼ監禁同然。建物の外へは出られなかったので、そこがどこだかもわからない――」
「あの番号以前の名前を覚えていなかったことから予想はしてたけど、オデットにはその研究機関に連れてこられる前の記憶はないのね……」
ジゼルが横から、アッシュの膝の上のオデットの頬に触れる。オデットがくすぐったそうな顔でジゼルに視線を向けた。
マークが疑問を口にする。
「薬物かなにかを使って、記憶を操作されているのでしょうか?」
「それはわからないわね。オデットを専門の病院で診てもらえばなにかわかるのかもしれないけど、少なくとも今はまだこの娘に、それが真っ当なものであれ検査とかを受けさせたくはないわ」
「同感よ」
ジゼルの意見にクラリッサが同意した。カテジナも涙目でコクコクと頷いている。それを横目で見て、ジゼルは話を続けた。
「それよりも深刻な問題としては、同様の境遇の子供がその研究機関にまだ十人前後いるってことよ」
「時々いなくなる子供がいて、そうすると数日後に新しい子供が入ってくる。そうして、顔ぶれはしばしば入れ変わっていたということでしたけど、それは――」
アッシュは黙って手を軽く挙げ、マークの言葉を遮る。それを見て、ジゼルも頷いた。その場のオデット以外の全員が、それがなにを意味しているのかを正しく理解していただろう。少しの沈黙の後、ジゼルが口を開いた。
「のんびり構えてる時間はなくなったわね。その子供たちの救出は急務よ。――接触が禁じられてたせいで、オデットにもその子たちのことはほとんどわからないみたいだけど、その子たちにも確認してみて記憶障害を起こしているようなら、オデットを含めた子供たち全員がなんらかの記憶操作を受けていることは確実になるわね」
「実験に使われている子供たちの入手経路が誘拐や人身売買等の違法なものであろうことは明白ですし、その記憶操作が事実ならそれも勿論犯罪です。そこまでして、その研究機関はなにを研究していたのでしょう?」
「それは当然、こいつだろう」
マークの疑問に、アッシュは落書きをしているオデットの右手を指し示す。その右手の甲には、直径二センチメートルほどの鈍く光る紅い石が埋まっていた。
オデットによると、これは三日前の深夜、我慢出来ないほどの強烈な痛みと共に肉を押し分けるようにして外へ出てきたらしい。それを検査した研究者たち――オデットは、白い服の大人の人、と書いていた――は全員が飛び上がりそうなくらいに喜んでいたそうだ。
「つっても、これがなんなのか、今のところまだ全然わかってないわけだけど」
少しおどけたような調子で言うアッシュに昨夜のような取り乱したところがないのを確認して、ジゼルは微かに安堵の笑みを浮かべる。
「正直言えば、俺はこれがなんなのか気になってる。けど、そんな個人的興味は二の次だ。こいつの研究がオデットみたいな子供たちの犠牲の上に成り立ってるっていうんなら、そんな研究はクソ食らえだ。ぶっ潰してやる」
アッシュは強い口調で断言した。ジゼルが彼の手をぎゅっと握る。
「勿論よ。さすが、あたしのダーリンは格好いいわ」
「待って下さい。この星の事件です。この星の官憲に任せるという選択肢は?」
マークが慎重論を述べた。それに対して、ジゼルはいっそ悪戯っぽいとも言えそうな笑みを浮かべる。
「この石、明らかにこの星の文明レベルでは作り得ないオーバーテクノロジーだと思うんだけど? まず間違いなく、その研究機関は連邦の犯罪組織か、もしかするとどこかの企業の出資と技術供与で運営されてると思うわよ? あたしたち辺境警備隊が担当するにふさわしい事案じゃないかしら?」
「それは……、確かに」
マークも頷かざるを得ない。それを確認して、ジゼルはパチンと手を打ち合わせた。
「じゃあ、決まりね。あたしたちセレストラル星系連邦陸軍第六辺境警備師団第二連隊第一大隊第七小隊でこの研究機関を制圧、その研究内容を精査してこの惑星リューガの文明レベルを超えた技術を使用していたなら、これを押収、隠滅します。この星の法でも裁ける違法行為なんかは、それこそ全部白日の下に晒してこの星の警察に任せちゃえばいいわ」
「しかし、この研究機関が例のクラム・ゴップ製薬ロールト第三研究所であるという確証もまだありませんし、こんな情報不足の状態で隊を動かすことには賛成出来ません」
あくまでマークは慎重だ。対して、ジゼルは気軽な調子で告げる。
「情報不足なら、情報を集めて。――クォン、あんたが指揮を執って、そのクラム・ゴップ製薬の研究所の怪しそうな情報をなんでもいいからかき集めなさい。マークは平行して、この星の警察機関なんかへの根回しもお願い」
「へいへい。――あ、小隊長、さっき副隊長に言われた、付近の不審人物の調査っすけど」
相変わらず、モニターから目も離さずにクォンが言った。ジゼルが簡潔に尋ね返す。
「結果は?」
「いかにもなんか探してますって感じのいかついやつらが、この近所だけでも十人近くうろついてるっすね」
「そう……。どう考えても、探し物はこの娘よね……」
クォンの報告に、ジゼルは眉を寄せて少しの間思案する様子を見せた。しかしすぐに立ち上がると、アッシュとオデットに笑顔を向ける。
「じゃあ、ダーリン、オデット、お出掛けしましょ」
「は? お出掛けって……」
「どこに行くの?」
聞き返すアッシュとクラリッサに、ジゼルは小首を傾げて答えた。
「そうねー。まずはオデットに可愛い服を買ってあげなくちゃね。海沿いのシシミア・モールがいいかしら。それから、美味しいものでも食べましょっか」
ジゼルは、きょとんとした顔のオデットの柔らかな頬を優しく撫でる。マークが苦い顔をした。
「……小隊長。今はそんなときでは――」
「忘れたの? あたし、今日一杯まで休暇なのよ? それに、アッシュはうちの隊員じゃなくて、遊びに来ただけのお客様。問題ないでしょ?」
ジゼルは平然と言う。
「わかったわ。シシミア・モールね? 帰りは?」
「夕方までには帰るわ」
「クラリッサ!」
あっさりとジゼルの予定を認めてしまったクラリッサに、マークが焦って腰を浮かせた。そんなマークにクラリッサは、察しが悪いわね、と言いたげな苦笑を向ける。
「ジゼルは、連中がこの辺りを探してるんならオデットを連れて離れておく、って言ってるのよ。その間にあたしたちは情報収集と根回しを済ませて、夕方までに出動できる準備を整えればいいってわけ。――アッシュ、二人を頼むわね」
「ああ。つっても、正直俺よりジゼルのほうが遥かに強いけどな」
アッシュは、オデットと一緒に立ち上がりながら応じた。
「それでも、お姫様のエスコートは王子様の役目でしょ。頑張んなさい、男の子!」
クラリッサに、結構強めに背中を叩かれる。
「っと……。はいはい。精一杯務めるよ。――じゃ、済まないけど行ってくる。チッピィ、出掛けるぞ」
アッシュは苦笑しながら、オデットの手を引いてチッピィを連れ、ジゼルと共に居間のドアへ向かった。




